表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したベテラン冒険者はセカンドライフを謳歌する  作者: リズ
第四章 鍛治師の街【ハイスヴァルム】編
77/168

第76話 次の目的地

 湖岸のダンジョンを攻略したルーキスたちは、三日ほど宿に泊まり、次の目的地を考えていた。


 それというのも、ルーキスたちが生まれたレヴァンタール王国。

 その北端付近であるこの宿場町から見て、近場にはダンジョンがないからというのが大きな理由の一つだった。


「それと、ハルバードを修理するにもこの宿場町の鍛冶屋にある鉱石だけでは応急処置が精一杯。新調するなら一度オーゼロに戻るのもありなんだが、せっかくならここから南下して鉱山都市を目指したい。良い武器防具をこの際だから一新したいんだ」


「確かにねえ。せっかくの旅だし。引き返すよりは進みたいってのもあるし。南下するのはありかも」


 宿場町に立ち寄った行商人から購入したレヴァンタール王国の地図を広げて眺め、ルーキスとフィリスは宿の一室である物を待っていた。

 

 この度のダンジョン攻略で手に入れた脚甲と、ミスルトゥのダンジョンで手に入れた蛮刀、それとペアの指輪を冒険者ギルドに鑑定に出していたのだ。


 地方の過疎地域のギルドの出張所と言えど国家事業の一つ。人材は最低限配置されている。

 ミスルトゥではダンジョン攻略後にイロハの事を含めて色々あったため忘れていたが、それらを今回の報酬鑑定の際に思い出したためのことであった。


「良くもまあ未鑑定品を身に着けていたものですね」とはギルドの鑑定士の言葉だ。

 その鑑定士が、ルーキスたちが泊まっている宿までやって来て部屋の扉をノックした。


「ルーキスさん。依頼して頂いた未鑑定品の鑑定終了しました。ギルドまでお越し下さい」

 

 その鑑定士の扉越しの声に「さて、じゃあ行こうか」とルーキスたちは荷物を背負って部屋を出た。


 受付に顔を出し、部屋の鍵を返却するルーキスたちに、宿の主人の奥方であるアンナは涙を流してしまう。


「すまないねえ。歳をとると涙脆くなっちまって」


「そうですね。よく、わかりますよ」


「なに言ってんだいまだ若いのに」


「世話になりました。いつかまた会いましょう」


「そうだね。私もまだまだ頑張らなきゃなあ」


「ダンさんによろしく言って下さい。ありがとうって」


「大丈夫。聞こえてるよ」


 ルーキスが受付カウンター越しにアンナと話していると、奥の部屋から宿屋の主人、ダンが姿を見せ、鼻を赤くして現れた。

 涙は見せていなかったが、目は潤んでいる。

 

 その様子を見て、イロハが貰い泣きを始めてしまった。


「あらあら。おいでイロハちゃん。抱っこしてあげる」


「本当に世話になりました。お元気で」


「君たちもな。簡単に死んでくれるなよ?」


「善処します」


 フィリスがイロハを抱き上げるのを見て、ルーキスが受付カウンターの向こうにいるダンとアンナに頭を下げると、ダンが預かっていた石貨の過払い分を返そうとしてきたのをルーキスは手で制した。


「それはお二人で使ってください。これから忙しくなるかもしれませんから。宿の修繕にでも充ててくれると嬉しいです」


 反論しようとするダンとアンナ。

 しかし、ルーキスは笑顔を向けて首を横に振ってダンが受付カウンターの上に手を置こうとしたのを制する。


「ならコレは次に君たちが来た時の宿泊費として受け取っておくよ」


「わかりました。そういう事にしておきます」


 ダンの言葉に微笑み、ルーキスとフィリスはギルドの鑑定士のあとに続いて宿を出た。

 扉が閉まるまで手を振ってくれていた二人に振り返り、もう一度ルーキスとフィリスは頭を下げる。


 そしてルーキスたちは冒険者ギルドに向かうと、受付横のカウンターで鑑定品を受け取った。


 「こちら鑑定品と、それぞれの鑑定書になります。幸いなことに呪われているような危険な物はありませんでした。解呪費用は掛かっていませんので、鑑定費はお支払い頂いた分で大丈夫です」


「ありがとうございます。お手数かけました」


「いえいえ。仕事ですから。それに、馬鹿みたいに溜め込んで持ってこられるよりは遥かにマシですからね、気になさらないで下さい」


 過去に何かあったのか。

 鑑定士の若い青年はため息を吐き出すと肩をすくめた。


「あっ。そうだ。この近くに他にダンジョンってあります?」


「この近くですか? 私が知っている限りでは西に行った先にある森の中にミスルトゥという街があってですね。その街中にダンジョンが」


「あっ。大丈夫です。そこは攻略しました」


「え⁉︎ じゃあこのダンジョンが二箇所目ですか⁉︎ 確か今初級冒険者ですよね。じゃあ、あと一箇所攻略すると無条件で中級冒険者ですね、頑張ってください! いやあすごいなぁその若さで中級なんて」


「ありがとうございます」


 あれ? そうだったか? と思いながら鑑定品を受け取ると、ルーキスは指輪を嵌め、ペアの指輪と鑑定書をフィリスに渡した。

 

 イロハを下ろし、ルーキスから指輪と鑑定書を受け取ると、フィリスは泣き止んだイロハに鑑定書を渡して(コレが婚約指輪ならなあ)と思いながら、指輪を唯一入る左手の薬指に嵌め、次いで、蛮刀と鑑定書を受け取った。


 ちょうどその時、フィリスから指輪の鑑定書を受け取ったイロハが鑑定書を読み始める。


夫婦(めおと)の指輪。付与効果、魔力の向上、筋力の向上。能力上昇率は低い。この指輪は運命の相手同士でしか使用出来ない。かも」

 

 初めて見る鑑定書を興味本位で読み上げたイロハの言葉に、蛮刀を腰に携え、鑑定書を読もうとしたフィリスが硬直した。


 そんなフィリスをよそに、ルーキスは鑑定書をスラスラ読めたイロハを褒めるべくイロハの頭にポンと手を置き、優しく撫でた。


「読み書きもできるとはイロハ自身から聞いていたが、ここまでスラスラ読めるとはな。偉いぞ〜」

 

「勉強は嫌いじゃなかったので」  


「ふむ。魔法に適性があるのも頷ける話だ。魔法は馬鹿には使いこなせないからな」


 和やかな空気のルーキスとイロハの横で、フィリスはというと顔を赤くして左手に嵌めた銀色に輝く装飾付きの指輪に視線を落とす。


「め、夫婦の指輪って」

 

「なんだ? あくまでダンジョンからの産出品だ。婚約に必要なのは左手に嵌めるブレスレットだろ? 気にし過ぎるなよ」


「いつの話してんのよ! 今の婚約の品といえば左手薬指の指輪でしょうが!」


「ん? ああそうだっけ? そういやそうか。左手ブレスレットって二百年くらい前の慣例だっけ」


 自分の今世の両親もそう言えば指輪しかしてなかった事を思い出し、二百年前の記憶と混同していた事を忘れていたルーキスは、フィリスと同じく唯一嵌める事が出来た薬指に嵌った指輪に視線を落とした。


「ま、まあコレはあくまでダンジョンからの産出品だからさ。婚約するってなったら、ちゃんとしたのは買って渡すよ」


「そ、そう? ありがとう。え?」


「よし。じゃあ受け取るもんも受け取ったし。まずは南に向かうか。目指すは鉱山都市、鍛冶屋の町だ」


「ハイスヴァルムを目指すのですね。道中お気をつけて」


「ありがとうございます。ではまた」


「ちょ! ちょっと待ってルーキス!」


 鑑定品を全て受け取ると、ルーキスはイロハを連れてギルドを出た。

 そのすぐあとをフィリスが追う。


 空は快晴。いい旅日和だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ