第75話 ギガントスライム討伐
魔法陣を多数展開し、攻撃のために魔力を充填するルーキスを、ギガントスライムの触手が襲った。
無数に分裂し、触手はルーキスを四方から襲うが、狙われているのはルーキスのみ。
終端は一ヶ所に集中する。
それをフィリスは炎を纏わせた蛮刀を振るい、イロハはガントレットに雷光を纏わせて確固迎撃していく。
「ありがとうフィリス、イロハ。撃つぞ」
呟くように言ったルーキスの言葉を聞いて、フィリスとイロハがルーキスの前から飛び退いて、ルーキスの後ろに下がる。
直後、ルーキスは天に掲げたハルバードを振り下ろした。
それを合図にするかのように、ルーキスの背後に展開していた魔法陣から一斉に熱線が射出される。
暗い部屋が明るく照らされ、フィリスとイロハはその眩さに視界を手で遮った。
魔法陣から放たれた大木の幹ほどもある太い熱線は
、ルーキスを襲うために伸ばした触手ごとその体を貫いていく。
そしてギガントスライムはその体の大半を抉り取られたが、コアだけは死守したか。人間の頭部ほどは体が残った。
「とどめを!」
フィリスとイロハが駆け出し、ギガントスライムのコアに向かう。
しかし、コアを覆っただけのスライムは二人の追撃から逃れる為に跳びはねて逃げ出した。
「あ、コイツ! 待て!」
フィリスが手をかざし、逃げるスライムに火球を放つ。
「にぃげるなぁあ!」
それをスライムは間一髪跳んで避けるが、直後、フィリスは火球を手に作り出してそれを放ると、蛮刀を振りかぶってフルスイング。
全力の力で火球を打った。
その火球はフィリスが最初に放った火球より数倍速く、飛び上がったスライムを正確に撃ち抜く。
燃え上がるスライムのコア。
それが文字通り決定打になり、ギガントスライムは遂にその命を小さな爆発と共に散らした。
「ヒュー。やるぅ」
「綺麗な花火です」
「やってやったわ!」
ルーキスは刃の溶けたハルバードを肩に担ぎ、イロハはガントレットをカチャカチャ音を鳴らしながら、ドヤ顔でVサインをしているフィリスに近付いていく。
すると、最初にギガントスライムが落ちてきた辺りに光の粒子が集まっていったかと思うと、宝箱が形成されていった。
「ダンジョン攻略完了だな」
「本当に最後までスライムしかいなかったわね」
「強さの強弱が天井のスライムで調整できるなら、今後このダンジョンは冒険者の鍛練場としても使えるかもしれないな」
そんな話をしながらルーキス達は宝箱へ向かって歩いていく。
その宝箱の前で立ち止まった三人だったが、普段宝箱を開けたがるフィリスは何故か宝箱を開けるのを拒否、一歩下がってルーキスとイロハに宝箱を開ける権利を譲った。
「トラウマになってるじゃん」
「アレだけハズレ引くとねえ」
「じゃあイロハ、開けてみな」
「わかりました」
ルーキスに促され、イロハが宝箱の蓋を開ける。
その中には人の頭部二つ分はある巨大な魔石と、白基調の脚甲、錬金術の素材に使えるスライムの体液が入った瓶が複数個並べられていた。
「魔石デカいな。コレはありがてえ。しばらく金には困らなそうだ」
「ちゃんとした物が入ってる」
「まあそりゃ主の討伐報酬だからなあ。脚甲はイロハ用だな。格闘主体なら革のブーツじゃ心許ないし、スライムの体液は俺が貰うぞ? 回復薬作り置きしたいし」
「どうぞご自由に」
宝箱から報酬を取り出していくルーキスに、フィリスは苦笑しながら戦闘中にルーキスが発した「愛してる」という言葉を思い出していた。
「私にとっては、アッチの方が何よりの報酬だったしね」
ルーキスからしてみれば家族や仲間に言った感覚で、フィリスもなんとなくそうだと分かってはいたが、それでも嬉しかった事は事実。
ルーキスが自分に愛してると言った現実が、フィリスにとっては何にも勝る宝だったし、それだけでダンジョン攻略を頑張った甲斐があったと思わせた。
「何か言ったか? 不満があるならちゃんと言えよ? 溜め込むと体と心に悪いぞ?」
「大丈夫。なんにも無いわ」
ルーキスの言葉に優しく微笑むフィリス。
そんなフィリスに、ルーキスも「そうか、なら良い」と笑って返すとフィリスにスライムの体液が入った瓶を渡した。
「魔石のほうが重いからな。ちょっと持っててくれ」
「任せて」
「よし。じゃあ帰ろうか。地上に帰ったらギルドに報告。あのパーティと祝勝会だ」
こうしてルーキス達は湖岸のダンジョンを踏破。
いつ以来になるのか、久方ぶりの攻略者となった。
ルーキスたちはこのあと、再度出現したスライムを倒しながら地上に戻ると、冒険者ギルドへと向かい交友を持ったパーティ五人と合流。
ギルドにダンジョンとボスの攻略法を伝えると、その日は夜遅くの帰還となったため宿にて一泊する事に。
ルーキスたちによるダンジョン攻略の翌日。
昼あたりから宿場町の住人総出で、宿場町の中央広場に持ち出したテーブルや椅子を並べて、町をあげての大宴会となった。
「はっはっは。随分とデカい宴会になったな」
「衛兵さんたちも来ましたね」
「そりゃあ君たちのおかげで町が復興するかもしれないんだ。みんな嬉しいのさ」
「そうなってくれる事を願います」
「なるさ。私たちがそうしてみせる。君たちの頑張りを無駄にはしないよ」
「頑張っていたのはあなた達も一緒でしょうに」
「そう言ってくれるのはありがたいがね。攻略したのは君達だからな。本当に、ありがとうな」
この後、この湖岸のダンジョンの攻略法はルーキス達と交友を深めた冒険者パーティや、宿場町を訪れた他の冒険者や商人達によって広まっていった。
これにより、ルーキスの予想通りに湖岸のダンジョンは駆け出し冒険者や初級冒険者を中心に、鍛練を目的に訪れる冒険者たちが数多く訪れる鍛練用ダンジョンになっていく。
それに伴って宿場町も活気を取り戻し、少しずつ大きな町になっていくが、それはまだ少し先、未来の話だ。




