第70話 冒険者たち
「ダメだ、もうこれ以上はもたないぞ!」
ルーキス達が向かった先のフロアで戦っていた冒険者のパーティが、盾でスライムの触手による攻撃を防ぎながら叫んだ。
大の大人の二倍ほどの体躯をもつ巨大なスライムからの攻撃で、徐々に後退していく前衛たち三人。
その後ろから魔法使い二人が攻撃しようと杖を翳したが、横から飛んできた火球を避ける為に魔法使い二人は攻撃を中断せざるを得なかった。
「この前も見たけど、スライムが魔法を使うなんて」
「威力は大したことないけど、これじゃ援護が」
仲間たちの危機に焦る後衛の魔法使い二人。
そんな魔法使い二人の視線の先にいた、魔法を使うスライムが不意に地面から伸びた氷の槍で串刺しになって塵になって消えた。
「大丈夫ですか? 援護します」
「おお君たちか! 助かる!」
声のした方に振り返って見てみれば、そこには同じ宿に泊まっていた若い冒険者パーティ三人がいた。
言わずもがな、ルーキス達だ。
フロアに足を踏み入れたルーキスは魔法を使うスライムがまだ残っているのを確認すると一人でフロアの奥へと向かって駆けていった。
「イロハちゃん、私達はあの大きいのをやるわよ」
「わかりました!」
フィリスは蛮刀に炎を纏わせ、イロハはガントレットに雷を纏わせて巨大なスライムを両側から挟み込むように駆けていく。
突然の援軍に、巨大なスライムは対応が遅れたか、目の前の冒険者三人に対する触手による攻撃で手一杯になっているのか、フィリスとイロハへの反撃には触手一本ずつと、今の二人には容易く対応できる程度だった。
「横取りごめんなさい!」
叫ぶと同時、迫る触手を跳んで避けたフィリスが蛮刀を振り上げ落下速度を利用してスライムを斬りつけた。
それと同時に、イロハは迫った触手を身を屈めて避け、低い姿勢のまま床を踏み抜く勢いで加速。
巨大なスライムにガントレットを装着したご自慢の右拳をぶつけた。
手ごたえあり。
巨大なスライムは塵となって崩れ去り、ダンジョンの地面に吸収されていった。
巨大なスライムを倒し、ルーキスの援護に向かおうとフィリスがフロアを見渡すが、既にルーキスは周囲を囲むように配置されていた魔法を使うスライムであるスライムメイジを八体瞬殺。
ハルバードを肩に担いで何食わぬ顔で、フィリス達と合流する為に歩いてきていた。
そんなルーキスにフィリスとイロハは歩み寄り、その三人に礼を言うため、冒険者パーティも合流して近付いてくる。
「助かったよ。三人とも魔法を使えるとは羨ましいな」
「鍛練しましたからね」
「俺たちも鍛練をしてないわけではないんだがな。君らのように器用には使えんよ」
その冒険者の言葉に、フィリスとイロハは首を傾げた。
自分達も魔法をまともに使えるようになったのはここ数日の話だからだ。
「言ったろ? 君達は天才なんだって。普通はちょっと鍛練したくらいでここまで近接戦闘しながら魔法は使えんよ」
前世での自分の苦労を思い出しながら、ルーキスは囁くようにフィリスとイロハにだけ聞こえるように言うと、一歩前に出て冒険者パーティ五人の前に立った。
その後ろで、フィリスとイロハは褒められたのが嬉しかったのか、若干顔を赤くしている。
「怪我はしてませんか? 回復薬の予備がありますが。なんなら回復魔法も使えますよ?」
「いや。大丈夫だ、大きな怪我はしていない。軽い打撲やちょっとした火傷はあるがね」
「そうですか。このまま探索を?」
「ああ。まだ続けるつもりだ。このダンジョンの秘密、スライムの異常な耐久力の謎を解明したくてね」
冒険者のリーダーである剣と盾を装備した青年の言葉に、ルーキスは驚いて目を丸くした。
聞けば彼らはこのダンジョンの側にある宿場町と縁があるらしく、その宿場町を復興支援したいが為にこのダンジョンを訪れたそうだ。
「父が昔あの宿場町で一宿一飯の世話になってね」
「私はお爺ちゃんが」
「僕は両親が」
と、どうやら昔、家族が宿場町の人たちの世話になったらしく、どうにか恩返し出来ないかとこのダンジョンを個人的に訪れた際に出会った縁からこの冒険者パーティを結成したらしい。
「俺は興味本意でこのダンジョンの秘密を探ろうとしてたんですが、なるほど、そんな話もあるんですね」
冒険者パーティの話を聞き、なぜか嬉しくなったルーキスは微笑みを浮かべる。
「このダンジョンのスライムたちを簡単に撃破できるようになれば、若い冒険者たちが鍛練がてらに攻略出来るようになるかもしれない。そうなれば宿場町も活気づく。確かに良い恩返しになりそうですね」
「わかってくれるか。というわけだが、どうだろう良ければ一緒に謎を解明してもらえないだろうか」
「一緒にダンジョンをまわろうと?」
「いや、私たちでは君たちの足を引っ張りかねない。手分けしてどちらかが謎を解けばいいさ。情報をギルドと共有してくれるだけで助かる」
「わかりました。ではそうしましょう。食料などはまだ大丈夫ですか? こちらはまだ若干余裕がありますが」
「君たち凄いな。その若さで他のパーティに回復薬やら食料やら譲ろうとするなんて」
「冒険者は困った時はお互いさま、ですから」
「頼もしいね。君たちみたいな冒険者が特級へと至れるんだろうな。羨ましいよ。まあ食料は現状問題ないよ。お互いの無事を祈って、ここで別れよう」
「わかりました。俺たちはこのフロアで一旦休憩してから次に行きます。ご武運を」
「ありがとう。無事に帰れたら何か奢らせてくれ」
こうしてルーキス達は冒険者パーティとこのフロアで別れる事になった。
そしてルーキス達は、休憩の為にバックパックを落とした場所に戻り、しばらく休憩。
体力と魔力を回復するために交代で仮眠をとるのだった。




