第69話 湖岸のダンジョン 第二階層
ダンジョンの一階層目を一通りまわり、ルーキス達は地下への階段へと向かって歩いていた。
「宝箱から石なんて出てきたらさ。なにか価値があるって思うじゃない? 草じゃないんだし。なんでただの石なの?」
「草の次は石だったな。このダンジョン、人が来ないからよっぽど腹減ってるんだなあ。まあでも今日フィリスの魔力やらイロハの魔力をたらふく吸ってるから。次来た時は良い物が手に入るかもなあ」
「次ねえ。いつになるやら」
つい先程。一階層目の最後のフロアで見つけた宝箱の中身に悪態をつくフィリス。
そんなフィリスの前を歩くルーキスがケラケラ笑った。
そうこうしていると、ルーキス達は地下への階段に辿り着き地下二階へと歩を進める。
一階層目と同じく天井には水面が揺れている。
地下二階も一階層目と同じく石畳に石壁と、どこかの廃城を思わせる様相だった。
「そう言えば二人共スライム系の魔物、平気なんだな。中には苦手だっていう人らもいるようだが」
「まあ別に平気かなあ」
「わたしも大丈夫です」
通路に現れるスライムを一蹴しながらフロアを目指して薄明るい通路を歩くルーキス達。
防御力が高いとはいえ、魔法を体得したフィリスやイロハにはこのダンジョンのスライムは容易に対処出来る存在となっていた。
それ故に、三人はダンジョン内であるにも関わらず、談笑しながら通路を歩いている。
「お兄ちゃんは、嫌いな魔物とかいますか?」
「ルーキス強いし、そういうの無さそう」
「嫌いな魔物はいるぞ? 虫型の魔物の中でもムカデ型とか、ローチ型とかな」
「ムカデは分かりますけど。ローチって?」
後ろからのイロハの質問に該当する魔物達の姿を思い出し、身震いして青ざめるルーキス。
その様子にフィリスも図鑑でしか見たことがないとはいえ、その多足の虫型の魔物の姿を思い出してルーキスの気持ちが分からんではないと、苦笑いを浮かべている。
「ローチってのはほらアレよ。台所とかに現れる黒光りしてる」
「あ〜。わたしもアレは嫌いです」
「他の魔物はなあ。明確な意思を持ってこっちを殺しにくるし、視線や魔力の流れから行動を予想できるけど、アイツらは本当に何考えてるか分からなくてなあ」
前世で戦った大木を容易く巻き潰すムカデ型の魔物や、人とさして変わらない体躯を持つローチ型の魔物の事を思い出してルーキスは通路を歩いていく。
肩をすくめ、げんなりしているルーキスの様子を珍しく思い、フィリスとイロハは顔を見合わせて苦笑していた。
そうやって話をしながら歩いていると、ルーキス達は地下二階、初のフロアへと足を踏み入れた。
そのフロアの様相は通路と同じく廃城じみているが、真ん中に大きな水溜りが広がっている。
鮮やかな水色のその水溜まりに向かってルーキス達は歩いていくが、その水溜まりから無数の触手が伸びてきてルーキス達を襲った。
「上の奴よりは手ごたえがありそうだ」
「私が先行するわ!」
「わたしも、行きます!」
バックパックを石畳の床に落とし、ルーキスが構えたハルバードで迫った無数の触手を打ち払うと、同じようにバックパックを振り落としたフィリスが蛮刀を肩に担ぎ、バックラーを構えて走り出した。
そのあとに続くように、ルーキスの横をイロハが駆け抜けて行く。
「うちの女性陣は血気盛んだな。頼もしい事だ」
水溜りに擬態していた巨大なスライムが姿を露わにし、迫るフィリスとイロハにその巨体をもって押し潰そうと倒れ込んできた。
しかし、そんなスライムにイロハが飛び上がり、拳を振り上げた。
魔力を纏ったイロハの拳はスライムの倒れ込んでくる勢いを相殺し、動きを止める。
そこにフィリスが蛮刀に炎を纏わせて横一閃に切り掛かった。
「もらったあ!」
イロハに動きを止められたとはいえ、巨大なスライムは再度触手を伸ばして懐のフィリスを狙うが、フィリスはそんな事はお構いなし。
いや、後ろに控えたルーキスから魔力を感じ、そんなルーキスが何をするかを信じて攻撃の手を止めなかったのだ。
フィリスを狙った触手を、ルーキスは作り出した氷の槍で全て撃ち貫く。
これによりスライムの反撃は叶わず、あっさりとフィリスの燃える蛮刀にて両断される事になった。
「楽勝!」
「お姉ちゃん格好良かったです」
「良い一撃だったな」
「でも魔力の消耗は激しいわね。ルーキスほどは使えなさそう」
「まあその辺りは今後の鍛練次第だ。フィリスとイロハならすぐに俺に追いつくさ」
「いや、それはない」
「それは無理だと思います」
「おやおや」
地下二階の最初のフロアの巨大スライムをあっさり倒し、バックパックを拾ってルーキス達はそのフロアを探索していく。
しかし、成果はとくに無し。
宝箱は無く。ルーキスが探しているスライムの固さの秘密も分からずじまいだ。
「うーむ、違うかあ」
「何を探してるの?」
「スライムに魔力を供給している魔法陣か魔石があるかと思ったんだがなあ。このフロアじゃないみたいだ」
「もっと下って事? でも最下層は主の間よ?」
「だから多分仕掛けはこの階層だと思うんだが、さてさて。まあここには何も無さそうだし次のフロアを目指そうか」
というわけで、ルーキス達は休憩もそこそこに次のフロア目指して入ってきた通路とは逆に伸びる通路に足を踏み入れた。
通路に現れるスライムも、魔力を纏った攻撃でなければ倒すには一苦労で、試しにフィリスが魔力を纏わせていない状態の蛮刀で斬りつけてみたが、スライムの体には刃が通らず、跳ね返される結果となった。
「柔らかいのに硬い」
「俺たちより先に行ったパーティは苦労してそうだなあ」
このルーキスの言葉は次のフロアで現実となる。
差し掛かったフロアの手前あたりから、明らかに戦っていると思われる音と、複数人の声が聞こえてきたのだ。
もちろんその声に、ルーキス達は聞き覚えがあった。




