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転生したベテラン冒険者はセカンドライフを謳歌する  作者: リズ
第三章 湖の街【オーゼロ】
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第64話 鍛練の合間に、鍛練

 魔法の鍛練の休憩がてら、早めの昼食を終えたルーキス達。


 しばらく腹休めにと酒場で談笑していたルーキス達が酒場から出た時の事、ルーキス達はギルドの出張所から出てきたパーティと鉢合わせした。


「こんにちは」


「やあ。見ない顔だな。君達も冒険者かい?」


「ダンジョンに挑戦するためにオーゼロから来ました」


「そうか。このダンジョンの事は聞いたかい?」


「聞いてます。一階層には下見に行きましたよ」


 冒険者パーティの中で、頬に大きな引っ掻き傷がある茶髪の青年が声を掛けてきた。

 話を聞くに、この青年がこのパーティのリーダーらしい。

 酒場の前で少し言葉を交わし、ルーキス達と冒険者パーティは軽く挨拶をして別れた。


 ルーキス達は再び湖岸へ、冒険者パーティは腹ごしらえの為に酒場へと向かっていったのだ。


「良い人達そうだったけど、あの人達もバルチャーだったりしないよね?」


「大丈夫だ、とは言い切れんが、まあ大丈夫だろ。バルチャーがこんな田舎の過疎ダンジョンに来る理由は無いからな」


「なんで? 田舎の方が犯行はバレないんじゃない?」


「それはそうだけどな。そもそもの問題、襲う標的が来ない場所にバルチャーは現れないよ」


「ああ。確かにそうか。盗む物がない家に泥棒に入る馬鹿はいないもんね」


「そう言う事。だからあの人達は大丈夫だと思う」


 そんな話をしながら、ルーキス達は再び湖岸に到着した。

 そこで、再び魔法の鍛練を開始するのかと思ったが、ルーキスは砂浜に座った二人にそのまま目を閉じて集中。

 魔力をひたすら吸収するように指示すると、自分もフィリスとイロハの前に胡座(あぐら)をかいて座った。


「午後はひたすら魔力を外界から吸収、蓄積する鍛練だ。出来るだけ効率よく吸収。体内での生産、循環も意識してな」


 こうしてルーキス達は魔力の吸収、生産の為の鍛練を開始。

 それを休憩を挟みながら夕刻まで続けた。


「風が出て来たな。冷える前に今日は宿に戻るか」


「魔力の吸収訓練って全然成果を感じられないわね」


「だろう? 俺も最初はそう思ってた。でも、やってて良かったといつか絶対思う日が来るって、師匠に言われてやり続けた結果、今は魔力不足や魔力切れになる事はなくなった。効果はあるんだ、頑張れ」


「もちろん頑張るわ。アナタにばっかり頼るのは、冒険者としては不正解だもの」


「わたしも、ルーキスお兄ちゃんとフィリスお姉ちゃんと一緒に戦えるように頑張ります」


「おや。もう俺たちの事はお父さん、お母さんって呼んでくれないのか?」


「う、あう」


「ちょっと。いじめちゃダメでしょ」


「そんなつもりは無いんだがね」


 こうして冗談を言いながら、ルーキス達は宿に戻って一夜を明かした。

 冒険者パーティとは会わなかったが、受付の初老の女性、アンナから聞いた話によるとまだ攻略を諦めたわけでは無いらしい。


 その話を聞いて、翌朝、ルーキス達は鍛練の為に湖岸へ向かった。

 

 その途中、ルーキスは倒木を風の魔法である真空の刃で切り出し、木剣を二本用意する。


「素振りでもするの?」


「いや。魔法の鍛練もしながら剣の鍛練もやるのさ。体が鈍っちまうからな」


「昨日よりハードになりそうね」


「そりゃあ、鍛練、だからなあ」


 折れないように二本の木剣それぞれに強化魔法を発動し、ルーキスは近場の岩をその木剣で打ち砕く。


 そうして強化魔法が発動している事を確認したルーキスは湖岸に到着すると、まずは軽く準備運動をしたあと、二人に見本とばかりに昨日砂浜に置き去りにした拳ほどの石を腰辺りまで積んでみせた。


「当たり前みたいにこなすわね」


「慣れだよ慣れ」


 意地の悪い笑みを浮かべると、積んだ石を木剣でツンと押して崩すと、ルーキスは木剣をフィリスの横に置いて自分は水辺に移動した。


「行き詰まったら声を掛けてくれ。ストレスは体を動かして発散するんだ」

 

 こうして早朝の鍛練が開始された。

 昨日よりは魔力制御のコツを掴んできているようだ。

 二人とも二段目三段目あたりまでは危なげなく石を積めるようになってきていた。


 しかし、難しい事に違いはない。


 次第に集中力が切れてきた二人は一息つく目的もあって、まずはフィリスが木剣を手にすると、素振りをしているルーキスに近づいていった。


「予想より集中していたな。見込み以上だ」


「ありがとう。でもちょっと気晴らしさせてね」


「フィリスとの手合わせはプエルタ以来だな。よし、いつでも来い全部受け止めてやるよ」


「全部、全部か。分かった。行くわよ」


 強化された木剣を握る二人の模擬戦が始まった。

 初めて手合わせした時の事を思い出しながら、ルーキスとフィリスは木剣を打ち合う。


 その様子がイロハには二人が楽しそうに踊っているように見えていた。


 しかし、結果はもちろんフィリスの惨敗。

 木剣を弾かれ、フィリスは肩を落とした。


「ダメかあ」


「そうでもない。驚くほど上達してるよ」


「ありがとう。素直に褒め言葉を受け取っておくわ」


「ご機嫌斜めかな? ご褒美にキスでもしてやろうか?」


「お願いしま、馬鹿! そう言う冗談はやめてよね!」


「はっはっは。すまんすまん。じゃあフィリスはしばらく休憩だな。イロハ、どうだ? イロハも組み手するか?」


 言いながら、ルーキスは砂浜に木剣を突き刺すと、両手の拳を握って構えた。

 それを見て、イロハが親に「遊ぼう」と言われた子供のような笑顔を浮かべて静かに頷くと立ち上がった。


 そして、フィリスと入れ違ってイロハはルーキスの前に立つ。

 

「全力でおいで」


「分かりました。行きます」


 ルーキスと同じように拳を握って構えるイロハ。

 湖面が輝く水辺に風が吹き、波がチャプチャプと音をたてる。


 先に動いたのはイロハだった。

 砂を蹴り上げ、真っ直ぐルーキスに向かっていく。

 イロハの拳は並みの大人の殴り合いの喧嘩に見る拳撃の速度の比ではない。

 それを、ルーキスは手の平で、さも当たり前と言わんばかりに受け止めていく。


「もっと変化をつけるんだぞイロハ。拳だけじゃなくて蹴りも使ってみな。こうだ、こう」


 イロハの拳を受け流し、体勢を崩したイロハから少し距離を置いてルーキスは下段蹴り、中段蹴り、上段蹴りなど、知っている中で基本的な蹴り技をイロハに見せた。

 

 フィリスとの鍛練に続いてイロハとの鍛練でもルーキスは激しく動いているが、汗だくの二人と違い、ルーキスには額に汗が滲んでいるだけ。

 

 そんなルーキスだったが、空腹には勝てないようだ。

 朝食をとっていなかった腹の虫が不機嫌に鳴いたので、三人は今日も酒場へと食事に向かっていった。

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