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転生したベテラン冒険者はセカンドライフを謳歌する  作者: リズ
第三章 湖の街【オーゼロ】
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第62話 攻略前に魔法の鍛練

 やたらと丈夫なスライム達が出現するダンジョン。


 そのダンジョンの下見に訪れたルーキス達は、魔力、魔法を伴った攻撃なら簡単にスライムを討伐出来る事を確認する。


 しかし、ルーキスはともかくとして、魔法初心者のフィリス、イロハの魔力量、魔力操作の精度の荒さからダンジョン攻略中に魔力切れを起こすと確信し、一行はダンジョンから一時撤退。


 宿に戻ると、受付の従業員の初老の女性はルーキス達の顔を見てパッと笑顔を咲かせた。


「良かったあ。帰ってきたんだね」


「いやあ。確かにダンジョンのスライム硬いですねえ。ちょっと分が悪いんで、撤退してきました」


「それで良いんだよそれで。引き際を見誤ればどんなダンジョンだろうと死んでしまう。アンタ達は、長生きしそうだね」


 元気な様子で帰ってきたルーキス達をみて、小皺の浮かぶ顔で笑顔を浮かべる受付の女性に、ルーキス達は顔を見合わせて微笑んだ。


 そんな時だ。

 受付の奥の扉から初老の男性が現れた。


「やあ、君達がアンナの言っていた子達だね? この宿の主のダンだ。よく無事で帰ってきたね。怪我はないかい?」


「大丈夫です、ありがとうございます。あ、そうだ。宿泊期間を伸ばしたいのですが構いませんか?」


「ああ構わないよ。こちらとしては願ったり叶ったりだからね」


「ではとりあえず一週間分お願いします」


 言いながら、ルーキスは石貨を入れた袋から取り出した紅石貨数枚を受付カウンターの上に置く。


「三人分。確かに受け取ったよ。しかし、滞在するという事はダンジョン攻略は諦めないって事か」


「まあ。冒険者としては諦めたくないってのはあるんですけどね。ちょっと調べたい事がありまして」


「調べたい事?」


 ルーキスの言葉に、宿屋の夫婦だけでなく、ルーキスの後ろに立っていたフィリスとイロハも首を傾げた。

 

「まあちょっとね」


 そう言って笑ったルーキスは、その日はそれ以上何もせず、酒場にてフィリスやイロハ、居合わせた宿屋の夫婦と食事をして夫婦の話やこの近辺の昔話に耳を傾けた。


「休み?」


 ふと、食後に水を飲んでフィリスが呟いた。

 ルーキスが「明日からしばらくダンジョン攻略は休みな」と言ったからだ。


「明日からしばらくは魔法の鍛練をするぞ。ダンジョン攻略はそれからだ」


「まあ、急ぎの旅ではないけど、良いの? ルーキス、アナタの旅は」


「良いんだよ。俺がしたい旅ってのは面白くて楽しい旅だ。今、その旅にはフィリスとイロハ、二人が含まれてる。三人で面白おかしく旅が出来ればそれに越した事はない。だから、良いさ」


 ルーキスが言いながらニコッと笑ったのを見て、イロハもニコッと笑い、フィリスはルーキスの笑顔に顔を赤くした。


 それを見て、宿屋の夫婦や酒場のマスターである整った髭を蓄えた老人は宿場町を出ていった息子や娘を見ているような気分になって笑っている。


 この日はこれにて解散。

 ルーキス達は一夜を宿の一室で明かした。


 そして翌朝。

 ルーキスとフィリスはシャツとズボン。

 イロハもシャツとキュロットスカートだけという出立ちで宿から出ると教会の建っている丘を迂回して湖の方へと向かった。


 湖の上には朝霧が漂い、辺りは薄明るく照らされている。

 

 湖岸の砂浜まで歩き、ルーキスは辺りを見渡す。


「魔物の気配は無し。どうやらこの辺りは教会のおかげもあって宿場町の結界範囲みたいだな」

 

「湖に来たのは良いけど、何するの? ああいや、魔法の鍛練っていうのは分かってるわよ?」


「これから二人には、石積みをしてもらう」


「石積み、ですか?」


 ルーキスの言葉に首を傾げるフィリスとイロハをよそに、ルーキスは指を鳴らしてそれをトリガーにして魔法を発動した。

 

 その魔法により、ルーキスは湖の水中から無数に拳ほどの石を採集。

 自分達の立つ湖岸の砂浜に集めて置いた。


「これを積むんだ。こうやってな」


 言いながら、ルーキスは採集した石を足元から自分の腰辺りまで積んで見せた。

 

「それが魔法の鍛練? 何よ、簡単じゃない」


 そう言うと、フィリスは自信満々といった様子でルーキスが集めた石を適当に集め、自分の足元に積み始めた。

 しかし、歪な形の石をバランス良く積み重なる事など出来るはずもなく、フィリスは四段目辺りで石を崩してしまう。


「い、意外と難しいわね。よし、もう一回!」


「待て待て、まだ説明してないだろ」


 諦めずに石を重ねようとするフィリスに苦笑し、ルーキスはそれを制止した。

 そして、自分の積んだ石を崩して二人を呼び寄せると、その場に座らせ、自分も座り込んで石を二つ手に取った。


「まずこの二つの石に、魔力を込める。纏わせる方が感覚的には近いかな。全く同じ量の魔力を重ねると、魔力が引き合ってくっ付く特性を利用した鍛練方法でな、魔力の出力、吸収力、あとは単純に集中力を鍛える事が出来る」


「魔力制御の鍛練ってわけね? でも吸収力って?」


「単純な話だ。やってみれば直ぐに分かるが、この鍛練は魔力を消費し続ける。相応の魔力を生み出すか、外界から吸収しなければ直ぐに魔力切れ、最悪枯渇して体調を崩すからな。魔力制御ついでに吸収力、生産力も鍛えるのさ」


 ルーキスは説明しながら石に魔力を纏わせ、いとも簡単に五段、十段と石を積んで見せた。


「それで魔法が上手くなるの?」


「なる。俺がその証明だ」


「う。そう言われちゃうと信じないわけにはいかないなあ」


「わたし、頑張ります!」


 こうしてルーキスに言われるまま、フィリスとイロハは石に魔力を込めて石積みを開始。

 しかし、二人にはこの全く均一な魔力を込めるという作業からして難しいようで、一つ目の石に二つ目の石を重ねる事すら出来ずに冷や汗を額に浮かべた。


「え、嘘。むっず」


「普通に積んだら三段目までは、いけそうなんですけど」


「これが出来るようになれば一定の魔力で魔法を使えるようになるし、魔力量の管理もしやすくなる。高すぎる魔力出力に振り回される事もなくなるし、良い事尽くめだぞ?」


「武器に魔法を纏わせるのには必須の技能ね」


「まあどちらかと言うと、ダンジョン内での魔力枯渇を防止する為だが。フィリスの言う通り、武器に魔法を纏わせるうえで使えれば有難い技術の一つでもある」


「頑張らないと、ですね」


「二人なら直ぐに出来るようになるさ。筋は良いからね」


 ルーキスにこう言われてしまっては、フィリスとイロハは張り切らないわけにもいかず、促されるまま石積み鍛練を開始する事になった。

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