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転生したベテラン冒険者はセカンドライフを謳歌する  作者: リズ
第三章 湖の街【オーゼロ】
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第61話 一時撤退

 湖岸のダンジョンの下見にやって来たルーキス達。

 天井に広がる水面の下。

 ゆらゆら揺れる影に紛れてスライムが無数に石畳の床から滲み出るように出現した。


 地上に生息するスライムと比べると、随分と防御力の高いスライム達にイロハは大苦戦。


 フィリスはなんとかスライムを撃破して、ルーキスは二人の戦いを眺めながらスライムの観察を行っている。


「何か腑に落ちないな」


「なにが? スライムの防御力の話?」


「そうそれ。確かに外皮は地上のスライムと比べると弾力はある。だけど正直それだけだ。刃に耐性がある程では無いし、何よりほれ」


 そう言いながら、ルーキスはスライムと追いかけっこをしているような状況のイロハを指差した。


 そのイロハが、追いついたスライムにガントレットを装着した拳を力一杯叩き付ける。

 幼いイロハではあるが、その力は微かに床に亀裂を拡げた。

 しかし、スライムは変形して潰れたように見えるも無事で、拳を引いたイロハのガントレットと地面の隙間からヌルリと逃げ出すと、跳ね上がってイロハの顔面に体当たりをする。


「ふぎゃ!」


 倒したと思っていたスライムからの不意の一撃を顔面に喰らい、イロハは尻餅を付くと赤くなった鼻っ面を抑えた。


「あの力で叩いて、潰れないスライムなんて意味が分からん」


「ちょっと。考え込んでないで、助けてあげないと」


「いや。あの戦いはイロハの戦いだ。子供の挑戦は見守ってやらんとな」


「でも」


「大丈夫。イロハは強い子だよ」


 ルーキスのその言葉を聞いて、イロハは奮起。

 打撃が無理ならば、と魔力を拳に集中させていった。

 そこにイロハの想像する魔法、雷撃のイメージが乗る。

 コレにより拳に纏ったイロハの魔力は雷撃の性質を付与され、バチバチッ! と、激しく音と光を炸裂。

 

 イロハはその拳に雷撃を纏い、自分の顔面を弾いたスライムに殴り掛かった。


「ええい!」


 魔法を纏った拳で殴り掛かるイロハの見た目と、掛け声のギャップに苦笑するルーキス。


 一方で驚きから目を丸くしているフィリスの前で、イロハは先程まで追いかけ回していたスライムを灰燼へ変え、ルーキスとフィリスに向かって晴れやかな笑顔を咲かせた。


「やるじゃないかイロハ。拳撃に魔法を乗せたか。魔法剣ならぬ魔法拳だな」


「最初は、身体強化を拳にだけと、思ったんですが」


「そこにイロハのイメージが乗ったんだな。良い一撃だった。もうポーターじゃなくて、いっその事、冒険者として登録しても良さそうだな」


「子供に冒険者なんて危険よ」


「先輩冒険者達から見たら俺たちだって十分子供さ。ポーターだと、いざ自立したいって時に何かと不便だろ? なら、冒険者としてやっていけるようにしてやるのが親心ってもんじゃないか?」


「親心って」


 ルーキスの言葉にどこか納得いかない様子だが、フィリスも両親には冒険者になる事を否定され、喧嘩した記憶があるため、否定は出来なかった。


「まあイロハとずっといてやるってんなら。別にその辺りは拘らなくても良いのかも知れんが。なかにはポーターの進入を禁止しているダンジョンもあるだろう?」


「まあ確かに聞いた事は、あるけど」


「あ、あの。わたしはお二人とずっと一緒にいたいので。その、離れたくはなくて」


 先程、見事な拳撃と雷撃の合わせ技を披露した鬼人族とは思えない程に弱々しい声を出すイロハ。

 そんなイロハのしょぼくれた顔に、フィリスは何も言えなくなってしまった。


 その時だった。

 フィリスとイロハの間に、再びスライムが湧き出してきた。


「さて。次は君の番だな」


「私はまだ魔法なんて」


「出来るさ。俺が知る、フィリスという少女ならな」


 想いを寄せている男からそう言われては、恋する乙女としては頑張らないわけにもいかない。

 フィリスは蛮刀を抜き放って肩に担ぐと、魔力を剣を持つ手に集中、その魔力を蛮刀に纏わせた。


 ここでフィリスに浮かぶイメージは炎。

 それに呼応して、魔力が変質。

 蛮刀が火に包まれ、刀身が赤熱。

 フィリスの手に炎が握られた。

 

 その手の炎をフィリスはスライムに振り下ろす。

 

 その高温はスライムを蒸発させ、石畳の床を黒く焼いた。


「お〜。あっついねえ。良い炎だ」


「で、出来た。でもちょっと、疲れたかも」


「魔力を一気に使い過ぎたな。まあ初めての放出系魔法の行使なら仕方もない。少しずつ慣れていけば良いさ」


 そう言いながら、ルーキスはフィリスが力一杯握っている蛮刀を水の魔法で作り出した水球で包んだ。

 高温に晒されて、包んだ水球が気泡を発して、沸騰していく。

 それを見て、ルーキスはフィリスの魔法の才能に感心していた。


「凄い出力だな。もしかしたら、この蛮刀じゃなければ刀身が溶けていたかもな」


「ええ? じゃあ私ずっとこの蛮刀使わなきゃなんないの?」


「不服か?」


「いやだって見た目が」


「まあ。確かにそうか。女の子が持つには確かに厳ついよなあ。そうなると素材を集めて魔法にも耐えられる剣を作ってもらわなきゃな」


 こうしてフィリスとイロハは魔法を習得。

 しばらくはこのダンジョンの一階層目を巡り、スライムを倒しながら習得した魔法の鍛練を行った。


「殴る直前に魔力反応。弾力性は身体強化か? スライムが身体強化ねえ」


 フィリスとイロハが鍛練を行っている間もルーキスはスライム達を倒しつつ観察。


 しかし、この日はこのダンジョンのスライムの秘密を漠然と感じつつも結局なんの確証も得られない内に、フィリスとイロハの魔力の底が見えてきた事もあって一時撤退。

 ルーキス達は地上の宿に帰る事にしたのだった。

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