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転生したベテラン冒険者はセカンドライフを謳歌する  作者: リズ
第一章 転生と出会い、そして始まり
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第5話 ゴブリン退治

 その日、新人冒険者三人組は実績作りのためにゴブリン退治の依頼を受注し目撃情報があった街道沿いの草原に出向いていた。


 新人に当てがわれる任務という事で、討伐数は一匹のみ。


 この世界で最弱の魔物であるスライムをはじめ、森に住む狼なども一頭ならなんとか討伐してきた新人冒険者三名は、そのゴブリン退治を皮切りに、新人冒険者から卒業して難度が高く、報酬が良い任務を受ける為に奮起していた。


 しかし、目撃情報があった場所に到着し、孤立していたゴブリンを囲んでみたが、逆に草陰に隠れていた他のゴブリン四匹に、いつの間にやら囲まれてしまう。


 数的(すうてき)不利な上に、決して強者とは言えない自分たち。

 状況は良くない。

 最悪と言ってもいい。


「なんとか逃げないと」


「む、無理だよ五匹相手に」


 新人冒険者の三人の内の一人である少女は、小さな丸い盾バックラーとショートソードを構え、後ろで今にも腰を抜かしそうな仲間二人に背を預け、なんとか逃げられる算段をつけようとしていた。


 しかし、考えがまとまらない内に少女から見て後ろに陣取っていたゴブリンが飛びかかってくる。


「ひぃ!」


「まずッ!」


 一番体が細く、力も頼りない同じ歳の少年に向かって飛び交ってくるゴブリン。

 助けに入るべきではあるが、自分の前にもゴブリンが陣取っている状況ではそれも難しい。


(見捨てるなんて、でも目の前のやつにも集中しないと私が。助けに、いやでも)


 少女の考えはまとまらず、それゆえに体は硬直してしまう。

 その間にもゴブリンの持っている粗悪な石斧が仲間に迫った。


 そんな時だった。

 

 少女の後ろで生臭い液体が弾けた。

 確認したわけではないが、それが血液だというのはなんとなく想像出来た。


 少女の足はすくみ、体が恐怖で震える。


 しかし、妙な事にそれ以降、ゴブリン達は襲っては来なかった。


 その代わりと言ってはなんだが、知らない少年の叫ぶ声がその場に響く。


「気をしっかり持て! 前を見ろ! 敵から目を離すな!」


 その叱咤激励(しったげきれい)の声に我に帰り、少女はショートソードの柄を持ち直し、バックラーを前に構え直して醜悪な顔をした灰緑色(かいりょくしょく)の小鬼をじっと見据えた。


 しかし次の瞬間、目の前の件の小鬼は少女から見て右から飛来した火で形成された矢に貫かれ、頭部を失ったあと消し炭に変わる。


「一撃でゴブリンを。何が」


 目の前で起こった事に理解が追いつかず、少女は火の矢が飛んできた方向を向うとするが、その瞬間、再び知らない少年の声が響いた。


「嬢ちゃん逆だ! 左から来るぞ! 防げ! あっ馬鹿、逃げるなお前ら!」

 

 少年の言葉に咄嗟にバックラーを左に振り、少女はゴブリンの岩を削って作った、粗末なナイフの形をしたそれを防いだ。

 その視界の端に、少女は仲間の少年二人が敵に背を向け、街道の方に「ひぃ〜」「た、助けてくれえ」と尻尾を巻いて逃げるのを見る。


 少女からしてみれば絶望的な状況だ。

 そんな状況の中で、それでも少女は一つ安堵した事があった。

 

 後ろから飛んできた血飛沫が、仲間の物ではなかったというのが分かったからだ。


 見れば仲間の一人が立っていた場所に、頭に剣が突き刺さったゴブリンが一匹、事切れて地に伏している。


「屈め! 一掃する!」


 その声に、少女は従わないわけにはいかなかった。


 仲間が単独でゴブリンの討伐が出来るとは思わない。


 となれば、剣が刺さって死んでいるゴブリンは、先程火の矢で自分の目の前のゴブリンを討伐した声の主の物か、その仲間の物という可能性がある。


 ゴブリンをあっさり倒すという事は格上の先輩冒険者に違いない。


 そんな考えに至り、少女は目の前のゴブリンをバックラーで押し出すと、その場に頭を抱えて屈み込んだ。


「偉いぞ嬢ちゃん」


 不意に耳元で聞こえた優しい声。

 その声の主の姿を見たくて、少女は屈んだまま顔だけ上げて目を開く。

 

 そこには、死んでいるゴブリンから剣を抜き、同時に飛び掛かってきた三匹のゴブリンをその場で半回転ほどしながら、ほぼ同時に切り捨て、外套を翻した少年の姿があった。


 夜の闇ような艶やかなマッシュボブの黒髪に、紫色の宝石の様にキラキラ輝く瞳。

 整った顔立ちはまさに眉目秀麗という言葉が似合いそうな程には整っている。

 化粧をすれば女性と間違えるかもしれない。

 

 一見して同じ年齢か、歳下にすら見えるその少年は、ゴブリン三匹を斬り伏せると少女に手を伸ばした。


「すまない。危険だと判断して、断りもせずに横槍を入れた。怪我はないか?」


「え、ええ。大丈夫、です。ありがとう、ございます」

 

「どういたしまして。俺はルーキス。ルーキス・オルトゥス。よろしく」


「あ、ああ。私はフィリス。フィリス・クレールよ」


 フィリスと名乗った赤髪のミディアムボブで、薔薇のような赤い瞳の少女はルーキスの手に捕まり、支えにすると立ち上がって礼を言う。


 足元にゴブリンの死骸や飛び散った血で出来た血溜まりがなければ綺麗な絵にもなっただろうに、残念ながら二人の出会いは血生臭い物になってしまった。


「仲間の二人は逃げちまったか。薄情な奴らだなあ、女の子一人置いて逃げちまうなんて」


「仕方ないのよ。私達まだ駆け出しだし。今回だって本当ならゴブリンは一体だけ討伐する予定で」


「駆け出しだろうとなんだろうと、仲間を見捨てる奴に冒険者は向いてねえよ。その点君は立派だったな、ちゃんと立ち向かったし」


「ありがとう。腕の良い冒険者にそう言って褒めてもらえると嬉しいわ」


「ん? いや、俺はまだ冒険者じゃないぞ? これから冒険者になる為に故郷を出て、ここまで来たんでね」


「へえ、そうなんだ……はい?」


 剣に付着したゴブリンの臭い血を、水の魔法で洗い流し水気を振り落としながら言うと、ルーキスは剣を鞘に納めて街道を目指して歩き出した。


 そんなルーキスの背後から、フィリスの驚きから発せられた素っ頓狂な声が上がる。


 駆け出しとはいえ冒険者である自分達が怖じけてしまったゴブリン五匹をたった一人で瞬殺したのだ。

 フィリスは当然ルーキスの事を格上の冒険者だと思い込んでいた。


 しかし、聞いてみればルーキスは格上では無いどころか、駆け出し冒険者ですらないただの一般人。

 

 見習いとはいえ、正式な冒険者としてライセンスを取得しているフィリスからすれば、自分達を助けてくれた強者が一般人だという事を知り、驚愕するのは無理もないことだった。

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