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転生したベテラン冒険者はセカンドライフを謳歌する  作者: リズ
第三章 湖の街【オーゼロ】
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第57話 オーゼロでの夜のひととき

 イロハが目覚めたのは日は傾いてきているが、夕刻には早いくらいの時間。

 寝ぼけ眼を擦り、体を起こして辺りを見渡すイロハ。

 そんなイロハがテーブルを挟んで椅子に座って、今後の予定を話し合っているルーキスとフィリスを見て丘の上での事を思い出していた。


「あ、おはよう、ございます」


「お? 起きたか。良く眠れたか?」


「は、はい。あの、さっきはお二人に迷惑を」


「迷惑? なんの事?」


 イロハの言葉にフィリスが言って、ルーキスと顔を見合わせて二人揃って首を傾げる。

 誤魔化している、はぐらかしている、というようには見えない。

 本当になんの事か分かっていない様子だ。


「わたし。泣いちゃって。それに寝ちゃったみたいだし」


「それを迷惑と思うなら、俺は三人で旅する事を選んでなんかいないよ」


「そうそう。子供なんだから、泣いたりするのは当たり前。私達は仲間、パーティなんだから。もっと迷惑かけても良いくらいよ?」


 ルーキスとフィリスに言われ、イロハは再び瞳を潤ませる。

 しかし、それを察してか、ルーキスは椅子から立ち上がると「イロハ、風呂行くぞ風呂」とニカっと笑いながら言ってイロハを撫でた。


「お風呂、ですか?」


「そうそう。この町、オーゼロには湖を眺めながら入る事が出来る大衆浴場があるらしいの」


「夕飯前に景色を眺めながら風呂。想像するだけで気持ち良さそうだ。だろう?」


 バックパックの側に近寄り、着替えを入れた布袋を肩に掛けながら言うとルーキスはイロハに問いかけながら微笑む。

 そんなルーキスに答えるように頷き、イロハはベッドから降りた。


「イロハちゃんの着替えは私の着替えと一緒に入れてるからね。早速行きましょ」


「あ、荷物はわたしが」


「ダメよ。イロハちゃんはルーキスの手を握ってて、彼に寄り道をさせないようにね」


「大変な任務だなイロハ。俺は好奇心が強いからな。しっかり手を握っててくれよ?」


 そう言って笑うと、ルーキスはイロハに手を差し出した。

 その手をそっと握り、イロハは恥ずかしそうに顔を赤らめる。


 こうしてルーキス達は着替えを持って部屋を出た。


 宿を出ようと入り口に向かうルーキス達。

 そんな三人に、受付に座る宿屋の女主人である獣人族のメアリは「お出掛けですか?」と微笑みながら声を掛ける。


「風呂に行ってきます。そのあと酒場に行くんで、帰りは夜になるかと」


「分かりました。あ、こちらを持って行って下さい。割引きに使える木札です」


「お、それはありがたい。使わせてもらいます」


 メアリから宵空亭と書かれた木札を受け取り、頭を下げて宿を出ようとするルーキス達。

 この時、ルーキスは木札を「持っていてくれ」とイロハに渡して微笑んだ。


 そんな様子をメアリが見て和やかに微笑む。


 そのあと宿を出て、ルーキス達は酒場の店主から聞いた道を辿って大衆浴場へと向かって歩いていく。


「ここがオーゼロ」


「今は時季外れで静かなほうらしいわよ?」


「次は泳げる時季に来たいな。また三人で」


「そうね、また三人で」


 イロハを挟んで三人並び、ルーキス達はオーゼロの街並みを眺めながら進んだ。

 そして、道すがら出会った人に大衆浴場の場所を聞いて三人はオーゼロで一番星空湖の湖岸に近い大衆浴場へと辿り着く。


「それじゃあ、また後でな」


「先に上がったら店の前で待ってるわね」


「了解だ。まあゆっくり堪能しようじゃないか」


 そう言って、ルーキスはフィリスとイロハを引き連れ浴場に入り、受付を済ませ石貨を払うと、その受付から男湯と女湯に分かれて入場。

 オーゼロ名物の一つである大衆浴場を心ゆくまで堪能した。


 あとからルーキスが聞いた話しだが、女湯ではイロハが長い艶やかな黒髪を他の女性客達に羨ましく思われて、囲まれて大変だったらしい。


 このあと、先に風呂から上がったルーキスが、フィリスとイロハが風呂から上がるのを浴場の前の噴水がある広場で待っていると、夕闇が空を覆い、広場の魔石で光る街灯が灯った。


 しばらく待って浴場から姿を現したフィリスの髪は、拭いただけなのかしっとり濡れており、イロハはその長い髪をフィリスに結ってもらったのか、頭頂部近くで丸くまとめられていた。


「髪がまだ濡れてるみたいだが、乾かさなくて良いのか?」


「大丈夫。そのうち乾くわよ」


「なんなら俺が乾かすぞ?」


「あら本当? じゃあお願いしようかしら」


「手櫛ですまんが、では失礼して」


 言いながら、ルーキスは指を鳴らすと風の魔法と火の魔法を並列で発動。

 熱風とは言い難い、少し暖かい風をフィリスの頭部の左右と後ろに出現させた魔法陣から出力すると、少しずつ乾かしていった。


「何この魔法。気持ち良い」


「魔法には色々あるからな。コレは師匠から教えてもらった魔法の一つでね」


「なんの為の魔法なの?」


「この為の魔法だそうだ。髪を乾かす為の魔法だとさ」


「ルーキスの魔法の師匠って面白い人ね」


「面白い、っていうか。変な人だよ、どっちかと言うとな」


「ふ〜ん。そうなんだ。一度会ってみたいかも。あ、イロハちゃんもあとでやって貰いなさいな。気持ち良いわよ?」


 フィリスの一度会ってみたいと言う言葉に内心ルーキスは、会ったらどんな反応をするのだろうかと考えているとイロハが困ったように眉をひそめているのが見えた。


 どうやらフィリスに結ってもらった髪を崩すのが嫌らしい。


「大丈夫大丈夫。乾かしてもらったらもう一回結ってあげるわ」


「でも」


「おいでイロハ。遠慮は無用だ」


 ルーキスとフィリスにそう言われては、イロハは遠慮したくても出来ない。

 

 広場の噴水の淵に座り、フィリスの髪を乾かしたあと、ルーキスはイロハの長い髪をフィリスと乾かし、フィリスが再びイロハの髪を結うのを待って噴水広場をあとにした。


 そして三人は宵空亭の前を通り過ぎて夕食の為に酒場へと向かう。


 そこでオーゼロの住人と混じって酒場の店主とメアリの出会いの話を肴に、人気の魚料理に舌鼓を打つのだった。

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