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転生したベテラン冒険者はセカンドライフを謳歌する  作者: リズ
第三章 湖の街【オーゼロ】
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第54話 星空の下で君を思う

 林の手前で昼食をとった後、しばしの休憩を挟んでルーキス達は再び街道を歩き始めた。


 永らく休憩を挟みながら歩き、夕刻を迎える頃に一行は街道沿いに広がった小さな宿場町に到着する。


 寂れているわけでは無いが、決して賑わっているというわけでもないその町には冒険者ギルドこそ無かったが、街道沿いの拠点という事で、町の出入り口はこの国の兵士により警備態勢がしかれていた。


 ミスルトゥとは違い、壁も無い。

 魔物の襲撃には結界や駐留兵、専属の冒険者で対応しているようだった。


「今日はこの町で一泊だな」


「あと一日も歩けば湖の町オーゼロね」


「どんな町なんだろうなあ」


 次の目的地である湖の近くのダンジョン。

 その最寄りの町であるオーゼロと呼ばれている湖の町。

 ルーキス達は初めて訪れる町に想いを馳せながら、その日は安宿で一泊。


 角兎の角を売った金でパンなどを買い、宿場町を出発した。


 この日もイロハは魔力を行使する為に鍛練しながら歩いている。


「まりょく〜。ま〜りょ〜く〜。うーん難しいです」


「こう、お腹からグワッときて体の中をググッと回る感じよ」


「フィリスは感覚派か。それじゃあ子供には」


「こうですか? あっ出来た」


「お、おう。出来たか」


 どうやらイロハも感覚派だったらしい。

 フィリスの身振り手振りしながらの説明では分かりにくいだろうと、ルーキスが補足して説明しようとした所、イロハの体内で魔力が循環し始めたのを感じてルーキスは苦笑した。


「その感覚を忘れないようにな。全身に流したり、手だけに集めたり、足だけに集めたりして自由に使えるようになれば強化系の魔法は習得できるからな」


「足にグンッて感じよ」


「足にグンッ」


「うーむ。感覚で使えるタイプの天才達め」


 前世で師匠から散々頭デッカチだの屁理屈野郎だの言われてきたルーキスは、魔力操作の基礎を覚えるのに時間が掛かり、それ故に才能が無いと言われてきた。


 それでも晩年は魔法剣士として大成し、今世に至っては前世の知識により前世よりも魔法が得意となっている。


 そんなルーキスから見ても、感覚で魔力を使える二人の事は羨ましく思えた。


「じゃあフィリス。昨日の続きだ。指先から火を出して……スッて感じで小さくしてみな?」


「こう? あ、出来た」

 

「なんでじゃ」


 街道を進みながら魔法を学び、魔法で遊ぶ。

 笑いあうルーキス達の笑顔は、すれ違った冒険者達や行商人達の表情も明るくした。


 しかし黙々と歩いていたわけでは無かったので、予定通りの旅路にはならず、この日、ルーキス達はオーゼロには辿り着けず、再び街道沿いで野宿をする事になった。


 夜も更け、ルーキスの作り出した天井の開いた四角柱の結界内で敷物を広げ、焚き火の代わりにフィリスが空中に作り出した火球で暖をとる。


 その暖かさでイロハは既に眠ってしまい、今はフィリスの膝枕で静かに寝息をたてている。


「魔法って不思議ね」


「ん? ああ、そうだな」


 ルーキスの対面に座って空中に浮く火球を見つめるフィリスがポツリと呟いた。

 その呟きに足を伸ばし、後ろに手を付いてボケっと星空を眺めていたルーキスが胡座で座り直してフィリスに視線を向けて答える。


 優しくて、慈しみに満ちた瞳をイロハに向けているフィリスの姿にルーキスは微笑む。


 木の枝などを燃やす焚き火と違い、パチパチと音がするわけではないが、明滅する火の玉のほのかな灯りは十二分に癒しの空間を演出している。

 

 しかしながら、この火球は属性魔法使用は初心者であるフィリスが作り出した物。

 持続時間の限界でボッと音をたてて消えてしまう。


「あらら。消えちゃった」


「昨日の今日でコレなら上出来だ。暖はとれた、また寒くなったら今度は俺が火球を作るよ」


 火球の下に置いていた光る魔石を中に入れたランプに魔力を込め、灯りを灯し、ルーキスはそう言って星を見上げる。

 雲一つない星空の海は、ランプが無くても向かい合って座っている二人を明るく照らしただろう。


「なあフィリス」


「なに?」


「もし俺が、転生者だったらどうする?」


 ルーキスがそんな問いをフィリスに投げ掛けたのは、何故だったのか。

 星空とランプが作り出した雰囲気か、イロハを撫でるフィリスの姿に前世の妻の姿を見てしまったからか。

 たんに、聞いてみたくなったから聞いただけなのかも知れない。

 自分を好いているこの少女が、自分を異端だと知ったら果たしてどういう反応をするのか、と。

 

 驚愕か、あるいは拒絶か、はたまた恐怖か、それとも好奇か。


 ルーキスはフィリスの反応を予想するが、フィリスの答えはルーキスの予想したどの反応でも無かった。


「変な事聞くのね。貴方が転生者だったら? 別に関係無くない? 貴方は貴方でしょ? ルーキスが例え噂に聞く異世界からの転生者だったとしても関係ないわ。私が知っているのは今日まで一緒にいたルーキスだけだもの。そんな貴方を私はス、す。すぅあーて、そろそろ寝ようかしら、おやすみルーキス。また明日ね」


 言いたい事を言うだけ言って、苦しい誤魔化し方をしながらイロハを抱き抱えて寝かせ、イロハの横に寝転んで毛布を被ったフィリスの答えに、ルーキスは言葉を詰まらせた。

 

 前世なんて関係ない。ルーキスはルーキス。

 そう言ってもらえたのが、ルーキスは嬉しかったのだ。


「君は、良い女だな」


 呟いたその言葉は世辞でも建前ではなく、間違いなくルーキスの本音。

 寝込んで狸寝入りを決め込んでいるフィリスはその呟きを聞いて耳まで真っ赤だ。


(俺はフィリスの気持ちに、どう答えるべきなんだろうなあ)


 前世の記憶の中にある自分を見て微笑む妻の顔。

 かつて愛した女性は恐らく既に転生し、前世の記憶を持たずに新たな人生を歩んでいる。


 ルーキスが生まれ変わった時代より前に転生していれば、再び死んでまた別の人生を歩んでいる可能性すらある。


 (もしそうなら、自分もベルグリントではなく、ルーキスとして、今世を生きる少年として生きるべきなのだろうか)


 答える事はない前世の記憶にある妻の姿を思い出しながら、ルーキスはフィリスの横で寝そべり、落ちてきそうな星の海を眺めながら目を閉じた。

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