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転生したベテラン冒険者はセカンドライフを謳歌する  作者: リズ
第三章 湖の街【オーゼロ】
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第51話 ミスルトゥを発つ

 宿に戻ったルーキスを迎えたのは既に荷造りを終えたフィリスとイロハだった。

 ベッドも二人で元に戻したのか、最初の位置に戻っている。


「お帰りなさいルーキス」


「ルーキスお兄ちゃん、お帰りなさい」


「ただいま。もう準備は万端みたいだな」


「ええ。ちょっと失礼かなとは思ったけど、貴方の着替えも畳んでバックパックに入れておいたわよ?」


「おお。それはありがたい。すまんな」


 部屋に入り、ルーキスが向かったのは部屋の端にあるテーブル。

 その傍の椅子に深く腰掛け、二人を手招いた。


「ギルドの職員から聞いたが、ちゃんとバルチャーの首魁は捕縛されていたよ。これでイロハは本当の意味で自由だ。それを踏まえて今一度聞くが、本当に俺たちと行くか?」


 ルーキスの対面にフィリスが、隣にイロハが座るのを待って、ルーキスは口を開いた。

 優しい声だ。

 ローグを殺した時のような冷たさは一切ない。


「行きます。私では二人のお邪魔に、ご迷惑になるかも知れませんが、私は救われたご恩を返したい。いえ、私自身が、二人と、一緒にいたい、です」


「この町で、穏やかに暮らす事も出来るのよ?」


「それでも」


「よし分かった。じゃあ改めてよろしくなイロハ」


 ルーキスがイロハに聞いた言葉の意味を理解して、幼いイロハに分かりやすく、短い言葉で教えるフィリス。

 しかし、イロハの決意は固いようだ。

 幼い少女は町での穏やかな暮らしより、ルーキスとフィリスと共に旅をする道を選んだ。


 そんなイロハに向かってルーキスは手を伸ばして握手を求め、イロハはその手をギュッと握った。


「よし。そうとなれば次の行き先だ。フィリス、どこか候補地はあるか?」


「そうね。ミスルトゥの東門から出て街道を進むと大きな湖があるわ。近くにダンジョンもあるし。この町ほどちゃんと管理されてはいないらしいけど、そこに向かうのはどうかしら? 途中にいくつか町や村もあるから、旅するには割と安全な道程だと思うけど」


「誰かに聞いた道か?」


「宿の人に聞いたわ」


「よし。イロハもいるし、その道を行こう」


 即断即決。ルーキスはフィリスの言葉を聞くや立ち上がると壁際に置いてあるバックパックを取りに歩いていく。

 その背中にフィリスは「大丈夫? 疲れてない?」と聞くが、振り返ったルーキスは「大丈夫、平気だ」と、楽しそうに笑った。


「ギルドでチラッと依頼を覗いてきたが、東に向かう護衛依頼は無かったような気がするし、今回は歩きだのんびり行こう、のんびりとな」


「連絡便は出てると思うけど、まあそれも旅の醍醐味(だいごみ)なのかしらね」


「そう言うこと。イロハにはすまんが、これも鍛練だと思ってくれ。とは言え疲れたらちゃんと言うんだぞ? 無理はダメだからな?」


「はい! 頑張ります!」


「よしよし。良い子だ」


 張り切った様子で拳を無い胸の前で握って決意を露わにするイロハ。

 そんなイロハの頭を撫でると、ルーキスは自分のバックパックを担ぐ。


 そして、フィリスがバックパックを、イロハがポーチを肩から袈裟に掛けたのを見て部屋を出た。


「お世話になりました。今日で宿を出ます」


「そうですか。寂しくなりますね。とはいえ、最少人数でのダンジョン攻略パーティで、バルチャー捕縛の立役者が泊まった宿として宣伝すれば、お客には困らなそうですけどね」


「実際良い宿でしたよ。次またミスルトゥにきた時は泊まりに来ます」


「それは嬉しいですね。道中お気をつけて。貴方がたに出会えて、久しぶりに宿屋をやっていて良かったと思えました」


「それ宿泊客全員に言ってるでしょ」


「ははは。まあね。しかし嘘ではありません。また会える日を楽しみにしております」


 宿屋の受付カウンターで、世話になった宿屋の主人に挨拶をして、ルーキス達は請求分より礼として少し多めに石貨を払うと、長らく泊まった宿を出た。

 

 その足で、三人はルーキスを先頭に大通りに向かって歩いていく。

 

 通行人に東門の位置を聞き、ミスルトゥの町並を眺めながら進んでいくがその矢先、ルーキスの腹の虫が不機嫌そうにグウゥと鳴った。


「町出る前に腹ごしらえだな」


「そうね。私もお腹空いてきちゃった。イロハちゃんは?」


「わ、私も少し」


「よっしゃ、じゃあ飯だ飯! 肉食うぞ肉!」


「昼間からお肉? 重くない?」


「お肉、食べたいです」


 というわけで、三人は東門へ向かう道すがら、途中で見つけた料理屋に足を踏み入れて腹ごしらえをしたあと、再び東門へ向かって歩き始める。


 いつの間にやら雨が降りそうな厚い雲は流れ去り、空には青色が戻って来ていた。

 太陽が真上から少し傾いた正午過ぎ。

 ルーキス達はミスルトゥの町の東門へと辿り着いた。


「天気は俺たちの味方だったな」


「雨降らなくて良かったわ」


「良いお天気になりましたね」


 快晴、とは言えないが、晴れた空、輝く太陽に見守られながらルーキス達は歩き始める。

 ルーキス、イロハ、フィリスの順で並び、手を繋いで歩く三人は側から見れば親子そのモノに見えただろう。


 街道を歩く三人に追い風が吹く。

 どうやら神様は、ルーキス達の旅路を祝福してくれているようだった。

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