第50話 次の目的地
ローグの魂だけを殺したルーキスは、宿に戻って部屋の扉を開けた。
そんなルーキスをフィリスとイロハが迎える。
二人とも既に着替えは終わっており、寝間着で、ベッドに腰掛けていたが、ルーキスがノックした後に扉を開けて姿を現したので立ち上がってルーキスに近寄った。
「お帰りなさい。イロハちゃんから話は聞いたわ」
「怒るかい?」
「いいえ。怒らないわ。イロハちゃんのためだったんでしょ?」
「イロハの為でもあった。ってのが正解かな」
「ルーキスお兄ちゃん。あの後どこへ?」
「アイツのとこさ。放置してても良かったが、やっぱりギルドに引き渡しとこうかと思ってな。大通りに捨ててきた」
ローグの死については触れず、ルーキスはそう言うと「さあ明日は早いぞ? 今日はもう寝よう」と二人の前でシャツだけ着替えてベッドへ向かった。
イロハを真ん中に今日も川の字で三人眠る。
だがしかし、初の対人戦で昂っていたのか、イロハは夜遅くまで寝付けず、だからと言って眠っている二人を起こすわけにもいかず。
イロハがやっとの事で眠ったのはルーキスとフィリスが目覚めるほんの少し前だった。
「おーいイロハー。朝だぞー? ダメだこりゃ」
「昨日の事で眠れなかったのかしら。どうする?」
「案内は別に俺一人で出来るから、ギルドには俺一人で行くよ。フィリスはイロハと宿で待っててくれ。あとついでに次の目的地の候補も考えててくれ」
「わかった。イロハちゃんと待ってる。目的地も考えておくけど、もう町を出るのね?」
「ああ。早ければ今日、遅くても明日には町を出る」
ルーキスは着替えながらベッドに座っているフィリスに言うと、ハルバードと石貨を入れる袋だけ持って外套を羽織ると「じゃあ、行ってくる」と言ってまだ薄暗いミスルトゥの町に出た。
空は灰色の雲で覆われて太陽が見えない。
ルーキスが早朝に宿を出たのはそれが理由でもあった。
「故郷を発った日を思い出すな」
呟きながら、ルーキスは薄暗い町をギルドへ向かって歩いて行く。
その後、ルーキスはギルドに到着すると受付へと向かった。
「おはようございます。ゴブリンの拠点への案内役で来たんですが」
「おはようございます! ルーキス・オルトゥス様ですね! 承っております! しかし申し訳ありません、まだ調査隊の冒険者パーティは到着してなくて」
「構いませんよ。ちょっと早くに到着してしまったとは思ってたんで。酒場で朝飯でも食って待ってます」
「了解しました! では後ほど呼びに行きますので、おくつろぎ下さい!」
受付の獣に寄った猫型獣人のギルドの受付の女性が言うと、ルーキスは会釈をしてギルド内の酒場の方へと向かった。
朝食に選んだサンドイッチを頬張り、セットのコーヒーを飲みながら、ルーキスはこの町での事を思い出す。
「短い間に色々あったなあ」
置いたコーヒーカップの中に映る自分の顔に視線を落としたルーキスは、呟きながら顔を上げると周囲に視線を向けた。
酒場には自分を含めても冒険者は数人で、受付にいる冒険者達もまばら。
いつもは賑わっているギルドも早朝の早い時間は静かな物だ。
(この朝の静けさってのは、二百年経っても変わらんなあ)
サンドイッチを咀嚼しながら物思いに耽っていると、ルーキスのテーブルの横に、ギルド職員の男性が立った。
「何か。御用かな? 調査隊が到着しました?」
「申し訳ない。そちらはまだ。ルーキス殿にお知らせしておく事がありまして」
黒髪の長身の優男であるギルド職員に言われ、ルーキスは恐らく昨夜のローグの事だとは思うが、すっとボケたフリをして「なんです?」と聞き返した。
「あなた方のパーティが捕らえてくださったバルチャーの首魁が昨夜見つかりまして」
「おお、本当ですか! それは良かった」
「一体なにがあったのか、生きてはいるのですが、一向に意識が覚めず、謝罪や賠償などは行えそうには」
「いえいえ。捕まったならそれだけでひと安心。これでぐっすり眠れるってものです」
魂だけ抜いて殺した事は伝えず、ルーキスはあくまで無関係を装って男性職員と話す。
そうこうしている内に、ルーキスのテーブルから男性職員が離れ、それと入れ違うように受付の猫型獣人の女性が現れた。
「お待たせ致しました! 調査隊の皆さん到着なさったので、準備をお願いします!」
酒場に響く元気な声。
その声にルーキスはニコッと笑うと「了解した。行きましょう」と席を立った。
そして、調査隊と合流したルーキスは昨日発見した、森の中にある丘の洞穴まで調査隊を案内。
早朝に出発した甲斐あって、昼前には町に戻る事が出来た。
「案内ありがとうございました! これはギルドからの特別報酬です!」
「案内しただけで石貨が貰えるとはありがたいね。じゃあ、あとは頼みますね」
「はい! また来て下さいね!」
別れ際まで元気な猫型獣人の女性職員に別れを告げ、ルーキスは雲の切れ目から差し込む太陽の光を眺めながら宿へと向かう。
次の目的地は決まっていないが、次に向かう場所、次に向かうダンジョンには何があるのかと、ルーキスはまだ見ぬ未来の世界に想いを馳せて心を躍らせていた。




