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転生したベテラン冒険者はセカンドライフを謳歌する  作者: リズ
第二章 二つめの町【ミスルトゥ】
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第49話 悪党には悪党を

 ルーキスが民家の屋根を伝って向かったのはイロハが見事ノックアウトしたローグの倒れている路地裏だった。


 吐血し、顔面は陥没、放っておけば恐らく死ぬ。

 そんなローグにルーキスは懐に忍ばせてあった回復薬を瓶をぶつけて割ってぶっ掛け回復させた。

 なにも回復して恩を売ろうとか、生かして改心させようなどとは思っていない。

 

 悪党が運良く生き伸びてまた悪さをするのが気に食わない。

 故にルーキスのやり方で確実に止めを刺そうと考えたのだ。

 虫の息のローグに剣を突き立てるのは簡単だ、なんなら首を踏み折るだけでも事足りる。


 しかし、それでは気が済まない。

 ルーキスの気が済まないのではない、これまでローグ達に殺されてきた冒険者達の気が済まない。


 そう考えたルーキスは浮かばれない死者達に機会を与えようと、ローグのもとに再び現れたのだ。


「げほ! ゴホ! お、俺は何を、何が」


「よう。お目覚めかい?」


「お、お前は」


「自己紹介はいらんだろ。これから死ぬんだし」


「こ、殺すつもりならなぜ俺を治した?」


 自分の体の状況を触って確認してみれば、イロハにやられた傷どころかフィリスに変えられた顔の形まで元に戻っている。

 ローグからしてみれば治したのは目の前に置かれた木箱の上に胡座で退屈そうに座っている化け物じみた少年だ。

 混乱するのは頷ける。


「お前に質問する権利はないよ。そうだな三つ問題を出してやる全問正解で逃がしてやろう。一つでも間違えれば」

 

 言いながら、ルーキスは指を鳴らした。

 それを合図に魔法陣がローグの後ろに現れ、その魔法陣から黒い稲光が広がったかと思うと骨で組まれたような趣味の悪い扉が現れる。


「な、なんだコレは」


「二度も言わすな。お前に質問をする権利は無い。じゃあ第一問いくぞ? この世界で最強の魔法使いといえば? 私見で良いぞ?」


 悪趣味な骨の扉に狼狽するローグの事などお構いなし。

 ルーキスはニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべて問題を出す。

 逃げようとするローグ。

 しかし、ローグの足元から骨の手が伸びてきてローグの足に絡みつき逃げる事は出来ない。


「往生際が悪いな。その両足、もいでやろうか?」


「や、やめてくれ! 分かった! 答える、答えるから! 最強の魔法使いだよな⁉︎ な、ならあれだ、吸血鬼の女王。真祖クラティア! クラティア・クリスタロス。色んな物語に出てくる最強の魔法使いだ!」


「二百年経ったくらいであの人の名前は消えんか」


「な、なん」


「正解。じゃあ次、第二問。そのクラティアに弟子入りし、晩年最強の魔法剣士と呼ばれた冒険者の名前は?」


「そ、それも良く物語に出てくる。確か、ベル、ベルグリント・ゼファーだ!」


「おお! 正解! やるなあ坊主。じゃあ次で最後な」


 三問中、二問正解し、逃げ(おお)せる事が出来るかもしれない希望の光にローグの顔に笑顔が浮かぶ。

 そんなローグにルーキスはニコッと笑うと最後の問題を出すために口を開いた。


「第三問。俺は一体誰でしょう?」


「はあ? そんなもん、問題でもなんでも」


「はい。不正解。答えは、あっちで良く考えな、ヒントは第二問目な」


「は? ベルグリント? 何言ってんだテメェ、あんなのは御伽話(おとぎばなし)だろう! 本当にあった話だとして、百年以上も前の話だぞ、生きてるはずが」


「ああ。死んだよ。寿命でな。まあ後はほれ、向こうでお友達と談義してな」


 狼狽えるローグそっちのけでルーキスはローグを、正確にはローグの後ろの扉を指差す。

 それが気になって腰を捻り、首を捻って後ろを見るローグ。

 すると、扉がガラガラと音を立てて開き、扉の向こうの赤黒い闇から無数の霊体や骸骨が力無く歩み寄って来た。

 

「そいつらはお前が殺してきた冒険者達だ。この魔法【冥界の門】はお前の魂だけを向こうに連れて行く。肉体はまあ、路地裏に放置だから野良犬の餌かな」


「う、嘘だ! こんな物は嘘だ! 夢、そうだ夢だろ! もしくは幻惑魔法か! なあ、そうなんだろ!」


「うるせえ。今際の際くらいピーピー鳴くなよ、静かに死ね」


 霊体や骸骨に纏わりつかれ、皮を剥ぐように魂を肉体から剥がされていくローグの姿を見てルーキスは、シッシッと虫でも払うように手を振る。

 そんなルーキスに魂を抜かれながらローグは命乞いをするために口を動かし続けた。


「アンタ! ベルグリントなら正義の味方なんだろ! 魔物達から人類を守り続けた英雄なんだろ! こんな事して良いのか、心が傷まないのか⁉︎」


「お前が言うな。正義の味方のフリして油断させて冒険者達を随分と殺したんだろ? ここに現れた亡者達がそれを物語ってるぜ? 三十、まだ出てくるな、人気者じゃないか。まあ向こうでは達者でな」


 それだけ言うとルーキスは手を翳した。

 ルーキスの上げた手を合図に、霊体や骸骨が一斉に剣を抜き、ローグの霊体を串刺しにする。

 その瞬間、ローグの体が激しく痙攣したかと思うとその場に倒れ、霊体と肉体が完全に引き離された。


 ローグの霊体が暴れ、何やら叫んでいるのか口を開けているが、ルーキスには何も聞こえなかった。

 引きずられ、門の向こうに消えていくローグを含めた亡者達。

 最後の亡者が門を通過すると、霧が霧散するように門は消失。


 辺りの様子は先程までの路地裏に戻っていた。


 違うところと言えば、心臓は動いているのにピクリとも動かないローグの肉体が地面に転がっているところか。


「なにが英雄なもんかよ。俺だって悪党さ、まあお前さんみたいな狡い殺しはせんがね」


 何も反応を示さない、文字通り魂の抜けたローグにそう言うと、ルーキスはローグの肉体を大通りの近くまで担いで運んで、路地裏から大通りに向かって放り投げ、自分は屋根に飛び上がって宿へ向かった。

 急に飛び出してきた手配中の犯罪者の姿に大通りは騒然。

 ローグの肉体は結局冒険者ギルドが回収する事になったのだった。

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