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転生したベテラン冒険者はセカンドライフを謳歌する  作者: リズ
第二章 二つめの町【ミスルトゥ】
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第48話 報復

 イロハを連れてルーキスが向かったのは人目のある大通り。ではなく、暗い人気(ひとけ)のない路地裏だった。


 背後から迫る影に聞こえるようにわざとらしく「あれ? こっちの道じゃなかったか」と、すっとぼけながら路地裏をあっちにウロウロこっちにウロウロと歩いている。


(狙いはイロハか。俺やフィリスには勝てないと理解して、イロハを痛めつけるか殺すかして俺たちの前に晒すつもりだな)


「あの。ルーキスお兄ちゃん、どこに行くんですか?」


 不安そうな声で言ったイロハが横を歩くルーキスを見上げながら聞いた。

 暗い路地裏には全く人の気配がせず、ネズミ型の魔物の幼体が壁際で何やらゴミ屑を漁っている。

 光といえば家の窓から漏れる小さなモノしか無く、ところどころは完全な闇だ。


 小さな女の子でなくとも不気味に思える。


「なあイロハ。もしアイツが俺たちに復讐しに来たらどうする?」


 小さな声だった。

 先程までの能天気な声ではなく、隣にいるイロハにしか聞こえないような呟き。


 そんな呟きにイロハは首を傾げる。


「アイツってバルチャーの」


「そうアイツ。アイツが俺やフィリスを殺したらどうする?」


「許せません。絶対に」


「そうか。じゃあ逆に、イロハが一人の時に襲われたら、どうする?」


「た、戦います」


「そいつは頼もしいね。イロハ、今から言う事をしっかり聞きなさい」


「え? あ、はい」


 固い土の地面を踏む足音が狭い路地裏に反響して聞こえてくるなか、ルーキスが静かに言った。

 その言葉に答え、イロハが真っ直ぐな瞳をルーキスに向ける。

 そんなイロハにルーキスは微笑むと再び口を開いた。


「まず、驚かない事、振り向かない事。良いかい?」


「は、はい」


「今、俺たちの後をずっとあのバルチャーのリーダーが追いかけて来てる」


「本当、ですか」


 ルーキスの言葉で一瞬肩をビクつかせるが、なんとか平静を装うイロハ。

 拳が握られているが、それは恐怖から、というよりは怒りからきているようだ。

 眉間に皺が寄っている。


「次の角で俺は屋根に登る。復讐のチャンスだ。思いっきり、ぶん殴ってやりな」


「私に、出来るでしょうか」


「出来るさ。アイツらは君の優しさに甘んじていただけの腰抜けだ。助けてやったと恩を着せ、君に暴力を振るったり虐待をしたりした。アイツにイロハほどの力も速度も無いよ。簡単な事だ。動きをよく見て拳を叩き込んでやれ、昼間のスライムみたいにな」


 言いながら路地裏を進んだルーキスは、角を曲がる直前「上で見てるから安心しなさい」とイロハの頭に手をポンと置くと、角を曲がって直ぐに家屋の屋根へと飛び上がった。


 ポカンとこちらを見上げるイロハに頷き、ルーキスはその場に座り込む。


 その直後、角を曲がった事で逃げると思ったのか、黒いローブを着た何者か、何者かというかバルチャーのリーダーの青年が駆けてきた。

 

 人の目が無いからと気配を隠す素振りもない。


「おやおや偶然だねえイロハァ。アイツはどこ行ったんだい?」


「ロー、グ?」


「ローグ様だろうがクソガキがよお!」


「ルーキスお兄ちゃんとは、逸れました」


「へえ。そいつは好都合。アイツらと随分仲良いみたいじゃねえか、お前の死体を宿の前に晒してアイツらの引き攣った泣き顔でも拝めば顔の傷もちょっとは癒えるってもんさ」


 言いながら、バルチャーのリーダーの青年、ローグは黒いフード付きのローブのフードを脱ぐと、顔を覆っている赤黒い仮面を外した。

 どうやらその仮面が認識変換を引き起こす魔道具らしい。

 フィリスに殴り回されてすっかりブサイクになったローグの顔が露わになる。


(やっぱり狙いはソレか。つまらん奴だ)


 屋根の上で胡座(あぐら)をかき、膝に頬杖を付いて見下ろすルーキス。

 正直な話、少しイロハの事は心配だったが、イロハがローグに向かって両の拳を構えて戦闘態勢に入ったのを見てルーキスはニヤッと笑った。


 合間に教えたタイミングを計るための前後の小さなステップも踏めている。

 ルーキスが思うより、イロハの戦意は高い。


「なんだよ。やろうってのか? クソガキィ!」


 腰から剣を抜こうとしたローグ。

 しかし、それを待てとルーキスは教えていない。

 隙あらば殴れ。

 昼間スライムと戦った時にルーキスがイロハに教えた事だ。


 イロハはそれを忠実に実行しただけ。

 

 ローグが剣を鞘から抜くより早くイロハはローグの懐に跳び込むと、イロハはローグの腹目掛けて拳を深々と突き刺した。

 あまりの痛みと衝撃に体をくの字に折るローグ。

 口からは吐血し、顔は歪んで実に苦しそうだ。

 

 そんなローグからイロハが後ろに跳んで距離をとる。


「ば、馬鹿な。アイツら二人なら兎も角、お前みたいなガキに」


 結局のところルーキスの言った通りだった。

 鬼人族は強靭な種族で、身体能力は人間を優に上回る、それは子供であってもだ。

 従順と言われる犬ですら虐待していればいずれ牙を剥く。

 要はそう言う話。

 抑圧されていた怒りや憎しみが、イロハに拳を握らせた、そういう話なのだ。


 ガクガクと笑う膝を抑えつけ、ローグはなんとか剣を抜く。

 しかし、ローグの意識はそこで途絶えた。

 イロハが現状出せる全速で踏み込み跳んで、体を起こしたローグの顔面に拳を叩きこんだのだ。

 

「思う存分殴れよイロハ。後悔しないようにな」


 意識を無くし、倒れたローグとそれを見下ろすイロハに言うルーキスは意地の悪い笑みを浮かべている。


「はあ、はあ。も、もう大丈夫。大丈夫です。ルーキスお兄ちゃん」


「気は晴れたかい?」


「よく分かりません。でも、ちょっとスッキリはしたかもです」


 屋根から飛び降り、自分の拳を見つめるイロハの拳に手を当てルーキスは「良い一撃だったな」とニヤッと笑った。

 

「コレはしばらく起きんな。よしイロハ、終わりだ。今日は帰ろう」


「は、はい」


 そう言ってイロハとルーキスは来た道を戻り、宿へと帰る。

 しかし、イロハは宿の前まで来たところでルーキスがいない事に気が付いた。

 先程まで隣にいたはずのルーキスが消えるようにいなくなったのだ。

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