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転生したベテラン冒険者はセカンドライフを謳歌する  作者: リズ
第二章 二つめの町【ミスルトゥ】
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第47話 闇夜に迫る影

 ルーキスが見つけたのは、森の木々に紛れた丘に、人が一人通る事が出来るほどの穴が開いた洞穴だった。


 その穴を守るためだろうか、木の枝の先に尖った石を縛りつけただけの粗末な槍を持ったゴブリンが二体、キョロキョロと辺りを見渡している。


「集落ではなかったな。まあ洞穴の中がどうなっているかまでは分からんが、最近のゴブリン頻出の拠点は此処だろうな」


 小声で言いながら、ルーキスはフィリスとイロハに手振りで後退を伝え、森を街道に向けて帰っていく。

 

「放っておくの?」


「言ったろ? 俺達の目的は拠点の捕捉だけだ。中がダンジョンだとしても、アソコに君の求めている物は無い。集落だとして、内部の様子も規模も不明なまま突撃するわけにもいかんだろ」


 俺だけでなら行かんでもないが、とは言わず、ルーキスはフィリスとイロハを前に立たせ、後ろを警戒しながら歩いていく。

 結果的に迷う事なく街道まで辿り着いた三人は、倒したゴブリンから剥いだ耳と魔石、スライムの壊れた核を回収して町へと向かった。


 そして夜の帳が下りた頃には町に到着。

 ギルドへ向かい、ルーキスは依頼の達成報告と、ゴブリンが森の奥の丘に拠点を作っている事を報告した。


「ゴブリンの拠点、ですか⁉︎」

 

「中まで調査したわけではありませんので、集落なのかダンジョンなのかは分かりませんが、ここ最近街道にゴブリンが頻出していると聞きましたので、そこが拠点になってはいるかと」


「ルーキスさんのパーティは先日一つダンジョンを攻略してましたね。了解しました、ギルドマスターに報告を上げて判断を仰ぎます。動くにしても恐らく明日なので、明日またギルドにお越し下さい道案内をお願いします」


「分かりました。では明日、太陽が昇ったら顔を出します」


 ギルドの受付から報酬を受け取り、明日の事を了承したルーキス達はギルドを出ようと受付に背を向ける。

 歩き始めるフィリスとイロハ。

 そんな時、ルーキスはふとある事を思い出して席を立とうとしていた受付を「失礼」と呼び止めた。


「どうされました?」


「今朝受付の方からバルチャーが一人見つからなかったと聞いて」


「ああ。そちらの件なのですが、まだ見つかっていなくて」


「分かりました。一つ聞いても?」


「はい。大丈夫ですよ?」


「もし逃げたバルチャーが俺たちに復讐しに来た場合。返り討ちにするのは?」


 ルーキスの言葉に受付の女性は、ルーキスを手招きして呼び寄せる。

 その手招きに応え、ルーキスは受付の女性にカウンターに寄り掛かるように顔を寄せる。


「バルチャーは敵、盗賊や野盗と同じく魔物扱いです。ギルドは関与致しません」


「話が早くて助かるよ。ありがとう」


「いえいえ。それではまた明日」


 受付の女性はそう言って満面の営業スマイルを浮かべると、深々と頭を下げて受付からギルドマスターの執務室があるのであろう二階へと向かって行った。


 それを見送り、ルーキスは待っているフィリスとイロハに振り返るとニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながら二人に近寄る。


「なに? なんの話? もしかしてルーキス、ああいうお姉さんが好みなの?」


「いやいや。俺の好みはどっちかと言うと、君みたいな快活で素直な女性だよ」


「な、なにを⁉︎」


「というわけで今日は帰ろう」


「どういうわけ⁉︎」


 フィリスの慟哭をスルーして、ルーキスはフィリスとイロハの間を通り過ぎながら二人の肩をポンと叩くとそのまま振り返らずにギルドの出入り口の扉を目指し、そしてすっかり暗くなってしまったミスルトゥの町に出た。


 辺りをキョロキョロ見渡し、ルーキスはある民家の影に人影が潜むのを確認するとソレを無視して宿の方へと歩き出す。


(隠れる事すら出来んとは。まあ今までそんな必要も無かっただろうし、当然か)


 ルーキスが見た人影はバルチャーのリーダーをしていた青年だった。

 青年だったとはいうが、その姿は魔道具により別人だと他人に認識させている。

 ルーキスが認識した人影をバルチャーの青年だと識別出来たのは、捕縛した際に魔力を込めながら作った眠りの香に含まれた、自分の魔力をその人影から感じたからだった。

 

(早めに、片付けるか)


 さて、明日も忙しくなるなあ、などとフィリスやイロハと会話しながら宿に向かっていくルーキス達。

 その間もルーキスに感付かれているとは気付かずバルチャーの青年は三人をコソコソと追いかける。

 どうやら宿の位置を特定したいらしい。


 そうこうしているうちに、三人は宿に到着。

 そこでルーキスはわざとらしく「あ、しまった」と手をポンと叩きながら声を上げた。


「どうしたの?」


「な、何か忘れ物ですか?」


 声を上げたルーキスに心配そうに聞くフィリスとイロハ。

 そんな二人にルーキスは「買い忘れがあった」と言いながらイロハの手を取った。


「すまないフィリス。荷物を部屋に戻しておいてくれないか? 店の場所はこの町に長く居るイロハが詳しそうだし案内してもらうよ」


「それならちょっと待っててよ。私も一緒に」


 ルーキスの言葉にフィリスが反論しようとするが、ルーキスがゴブリンの拠点を見つけた時のように人差し指を口元に当てたのを見て、フィリスは口を噤んだ。


 その行動に何かを察した、というよりは何かがあると信じて、フィリスは「分かった、荷物を預かるわ」とルーキスとイロハから荷物を受け取った。


「君のそういうところは、本当に好ましいな」


 妻を思い出すよ。と、口走りそうになるのを咄嗟に堪えて苦笑し、ルーキスはフィリスに背を向ける。


「もう。またそういう冗談を言うんだから。あんまり、遅くならないでよ?」


「ああ。直ぐに済ませるよ。じゃあイロハ、案内頼むよ」


 そう言うと、ルーキスはイロハを連れて宿に背を向け歩き出す。

 その背を見送り、フィリスは荷物を手に宿の中へと向かった。


 町を照らす月に雲が掛かる。

 雨は降りそうにないが、明日の空は灰色に染まりそうだ。

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