第45話 鍛練と探索
ギルドを出て森へと向かう道中に、スライムが現れた。
現れた、というよりは草を掻き分けた先にいた。
「おや、早速いたな。よしイロハ、早速鍛練しようか」
「は、はい」
「怯えるなとは言わない。怖いと感じるのは戦時において大事な感覚だ。恐怖に鈍感だと敵から攻撃を受けた際に回避が遅れかねんからな」
「ルーキスも怖いって思う事あるの?」
「ああ、もちろんあるとも」
こちらの存在に警戒するスライムを前にしてイロハに忠言を与えるルーキス。
そんなルーキスにフィリスが聞くが、ルーキスはニコッと笑って答える。
「ルーキスが本当に怖いなんて思うのかしら」
「思う思う、俺は怖がりなんだぜ?」
言いながら、ルーキスはハルバードを地面に刺すとイロハの前に立つ。
「さてイロハ、このスライムの攻撃で死ぬ事はまずない。だが、出来るだけ攻撃には当たらないようにするんだ。良いね? 拳は体の前で構えていつでも防御出来るようにすること、膝を少し曲げていつでも動けるように、相手から目は離すな、隙あらば殴れ、まずはそこからだ」
「が、頑張ります」
イロハに拳術の基礎を口伝で伝え、ルーキスはまずイロハをスライムの前に立たせた。
すぐに助けに入れるようにルーキスとフィリスはイロハの後ろに立つ。
「さて、イロハはどれくらい動けるか」
「いきなり実戦はマズくない?」
「魔物達の中では戦闘力差が種族内でも激しいスライム。そんなスライム達の中で最弱のグラススライムは一般人が農具で叩いても死ぬ魔物だ。体当たりされたとて幼児に体当たりされた程度の威力。大丈夫、まだ子供とはいえ、鬼人族のイロハが怪我する要素は皆無だよ」
などと言っていると、イロハに向かってスライムが跳ねながら近づいてきた。
そんなスライムからルーキスの言い付け通りに目を放さず、イロハはガントレットを装着した拳を体の前で構える。
すると、そんなイロハにスライムが勢いよく飛び掛かった。
その体当たりをイロハは横に跳んで避ける。
「ちゃんと見えてるな。イロハ、反撃しても良いぞ、ブン殴れ」
「はい!」
何度かスライムがイロハに向かって体当たりを仕掛けるが、イロハはそれをことごとく回避。
その様子を見て、問題なしと判断したルーキスはイロハに攻撃を指示、イロハはその言葉に従い、次のスライムの体当たりに合わせて正面から拳を叩き込んだ。
成人男性の頭部ほどあるスライムの体にイロハの拳を覆ったガントレットが食い込み、スライムの体内にある核を破壊。
イロハは一撃でスライムを撃破してみせた。
その様子にルーキスは腕を組み、顎に片手を当ててニヤリと笑う。
「良いな。予想以上に見えてるし動けてる。次だイロハ、あと二匹は狩ろう」
ギルドを出る際に預かってきた瓶にスライムの体液を入れているフィリスの横に立ち、初めて戦った興奮からか息を荒げるイロハに言ってルーキスは微笑んだ。
その微笑みにイロハは「はい!」と元気よく答える。
そして、近くにいたスライムもイロハは危なげなく討伐してみせた。
「どう? ルーキスから見てイロハちゃんは」
「正直驚いてるよ。力もそうだが、瞬発力も反射神経も人間の同じ歳頃の子供を遥かに上回ってる。流石は鬼人族というべきなのか、はたまたイロハの才能なのか、比べられる鬼人族がいないからその辺りは分からんがね」
言いながら、ルーキスは呼吸を乱してすらいないイロハの元に足を運ぶとイロハの頭にポンと手を置いた。
「良くやったな、しばらく休憩だ。次は俺たちの戦いをよく見て学びなさい。拳術とは違うが、参考になる所を探すんだ」
「わ、わかりました」
「ルーキスはあんまり本気で戦わないでよ? イロハちゃんだと動きが見えないかもしれないし」
「む。そうか?」
「そうよ。私もまだ全然見えない時があるんだから」
こうしてイロハの鍛練一日目は一旦終了。
次の目標であるゴブリン討伐の為に三人は森へと足を踏み入れた。
「そういえば、イロハは魔法は使えるのか?」
「あ、簡単な魔力操作ならお父さんとお母さんから教えてもらいました」
「強化魔法やら属性魔法は知らない感じか、そっちも教えてやった方が良いな」
「それなら私も教えて欲しいかも。私は簡単な身体強化くらいは使えるけど、それ以外はからっきしだし」
木々の間を抜けながら、三人は森を奥へと進んでいく。
その最中、ゴブリン達に自分達の存在を知らしめるべく会話をするルーキス達。
話題はルーキスの疑問から始まった魔法についての事だった。
「二人は魔法と聞いてまず何を思い浮かべる?」
「パッと火を出したり?」
「雷をバリバリーって感じでしょうか」
「実はこの魔法に対するイメージってのが得意な魔法、相性が良い魔法になるんだ。フィリスは火の魔法、イロハは雷の魔法と相性が良いって事になるな」
「あ、言われたら確かに私、火の魔法は誰かに教えてもらった事なんて無かったけどちょっと使えるわね」
「まあ鍛練すれば全属性使う事はできるが、得意な魔法から伸ばせば他の魔法もコツは掴みやすくなる。だからフィリスは火の魔法、イロハは雷の魔法から練習したほうが良いな」
「そんな感じなんだ。ルーキスは? アナタは魔法と聞いてまずは何を思い浮かべたの?」
「俺は」
と、ルーキスが言い掛けたそんな時だった。
三人が歩いて向かっていた先の茂みがガサっと音をたてた。
その音に反応し、ルーキスはハルバードを、フィリスは蛮刀とバックラーを構え、イロハもガントレットを装備した拳を構えた。
しかし、茂みを掻き分け、三人の前に現れたのはゴブリンではなく、熊型の魔物。
深緑の体毛を纏ったフォレストベアだった。
見れば傷を負っており、体中から血が流れ出ている。
しかし、フォレストベアは弱っている様子ではない、どちらかと言うと怒りに狂っている。
「手負いか。討伐目標ではないが。すまんな」
問答無用で襲いかかってくるフォレストベア。
立ち上がったその巨躯は優にルーキスの倍ほど。
その巨体から振り下ろされた爪をルーキスは、腕ごと両断。
飛び上がったフィリスがフォレストベアの顔面を縦一文字に割って絶命させた。
「お見事」
「ふふ、ありがと」
片手を上げてハイタッチするルーキスとフィリス。
そんな二人の後方で、イロハは目を輝かせていた。




