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転生したベテラン冒険者はセカンドライフを謳歌する  作者: リズ
第二章 二つめの町【ミスルトゥ】
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第41話 イロハの服選び

 ダンジョン攻略を終え、その帰路で略奪行為に手を染める冒険者パーティ、バルチャー達の手から保護した鬼人族の幼い少女、イロハを仲間に加え、ルーキスとフィリスはミスルトゥの町を歩いていた。


 朝食のために立ち寄った喫茶店で食事をし、遅めの朝食を食べ終え、店を出たあとはフィリスとイロハが手を繋いで先導するルーキスの後ろをついて行く。


「あ、あのルーキス様、フィリス様。本当にわたし、自分のお金払わなくて良かったのでしょうか」


 前を歩くルーキスと、自分と手を繋いで歩くフィリスを交互に見ながらイロハが申し訳なさそうに呟いた。


 その呟きに、ルーキスは振り向き、フィリスもイロハの顔を見下ろし眉をひそめて困ったように、二人して似たような表情を浮かべる。


「敬称なんていらんぞ? むず痒くて仕方ないからやめてくれな? あと、金の事は気にするな。あれも今から買いに行く服も俺とフィリスからイロハへの贈り物なんだから」


「呼ぶなら呼び捨てか、それが嫌ならお姉ちゃんでお願い。様なんて性に合わないわ」


「で、でも」


「まあ、ゆっくりで良いさ。呼びやすい呼び方で呼んでくれ」


「は、はい」


 ルーキスとフィリスの言葉に返事をしたイロハは恥ずかしそうに頬を赤らめて俯く。


 そのままフィリスに手を引かれ、イロハは地面に視線を落としたまま、なんて呼べば二人が喜んでくれるかを考えながらしばらく歩いていると「お、ここだな?」と、呟いて前方を歩いていたルーキスがある店の前で立ち止まった。


 木枠と石壁を組み合わせた一軒の家屋。

 その家屋は道に面する一部の壁が魔物由来のガラス質で透明な素材で作られており、ガラス質の壁を挟んでその向こうに服を着せられた人形が複数並んでいる。


「うわ。これガラスじゃなくて、もしかしてグラスワイバーンの翼膜?」


「翼膜その物ってわけじゃないだろうけどな。合成品じゃないか? じゃないとすぐ変色しちまうからなあ」


「高価なんでしょうね。こういうの」


「良く儲かってるって事なんだろ。知り合いにワイバーンの素材を流してくれる程の業者や冒険者がいるって事にもなるか。良い買い物が出来そうだ」


 ガラス質の壁の向こうの服ではなく。

 壁の素材その物に興味を示したルーキスとフィリスは透明な壁をジロジロ眺めると、イロハを連れて糸と糸車が彫られた看板が掛かっている店の扉を開けた。


 中には町の住人だけでなく、ルーキス達のように剣を携えている恐らくは冒険者であろう客もいる。

 

 店内は外から見るよりも広く、どうやら隣接している家屋の壁をぶち抜いて店舗を構えているようだ。


 その店内の壁際の棚には様々な衣服が並び、通路を挟んだ対面にはスカートやズボンなどが畳んで並べられている。

 

「お〜。最近の衣服はバリエーションが豊かだな」


「ルーキスの故郷にはこういう店無かったの?」


「衣服屋はあったが、ここまで規模は大きく無かったなあ」


 そんな事を話しながら、服を手に取りイロハに合わせたり、スカートやズボンを選んだ服と合わせたり。

 ルーキスとフィリスはあれも買うか、これも買うかと自分の腕に衣服を掛けていくが、その様子にイロハは慌てた。


「あ、あの。そんなに買ってもらわなくても」


「着替えの分もいるだろう?」


「そ、それはそうかも知れませんけど」


「イロハちゃん、可愛いから選び甲斐あるし。まあコレは私達が欲しいから買うだけだから気にしないで」


 と、ルーキスとフィリスの手は止まる様子が無い。

 そんな二人が同時にある物を見つけた。

 子供サイズの人形に羽織らされている白いフード付きのポンチョだ。


「お、コレは」


「可愛い」


「買いだな。合わせるなら中は赤系の服と」


「下はコレでどう? ちょっと短いけど黒のキュロットスカート」


「ほう。良いセンスだ」


 白いフード付きのポンチョをベースにイロハの着る服を選んでいると、そこに衣服屋の店員がやってきた。


「こちら全てお買い上げですか? 試着室もあちらにございますよ?」


「試着。そういうのもあるのか。とりあえず今持ってる物は全て買うから精算を頼みます」


 その店員に持っている衣服を全て買うと伝え、ルーキスとフィリスは手に持っていた服や下着、ズボンやスカート数点ずつを店員に全て渡す。


「あ、ちょっと待ってください。コレとコレはここで着用して帰ります」


 衣服を受け取り、精算用のカウンターに向かう店員にルーキスが言って、先程選んだ白いフード付きポンチョ、赤色のシャツ、黒いキュロットスカートを選び、それをイロハに渡したあと、フィリスに向かって頷いた。


 その言葉と行動から、ルーキスの考えを察し、フィリスはイロハを連れて試着室へ向かっていく。


「可愛いお子さんですね。ご夫婦ですか?」


 精算をしている若い女性の店員が、石貨の入っている袋を弄っていると微笑みながら聞いてきた。

 小さいとはいえ、角を生やした鬼人族のイロハが二人の娘なわけがないのだが、この店員には三人の関係は家族のそれに見えたらしかった。


「ははは。違います、同じパーティの仲間ですよ」


「あ、そうなんですね。すみません私ったら」

 

「いえ。気にしないで下さい」


 会話をしながらルーキスとフィリスが選んだ衣服の値段の計算を終えた店員に、袋から取り出した紫石貨数枚にて精算を済ませるルーキス。


 すると、精算を終えたルーキスの後ろから「お待たせ〜」と、フィリスの声が聞こえてきた。

 

 その声に振り返ると、ルーキスの目に新しい服に着替えたイロハの姿と、そんなイロハの肩に手を乗せて微笑んでいるフィリスの姿が映った。


「おお〜。良く似合ってるじゃないか。そのリボンは?」


「コレは私からイロハちゃんへのプレゼント。赤いリボン、可愛いでしょ?」


「ふむ。悪くない。いや、実に良く似合ってる」


 イロハの長い髪を首の後ろあたりで結ったリボンを摘み、フィリスは自慢げにそれをルーキスに見せて微笑んだ。

 そのフィリスの微笑みに、ルーキスは拳を握って親指だけ立て、サムズアップで応えて笑う。


 そしてこのあと、新しい衣服を購入した三人はボロボロになっていたイロハの靴も買い換えるために今度は靴屋を目指したのだった。

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