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転生したベテラン冒険者はセカンドライフを謳歌する  作者: リズ
第二章 二つめの町【ミスルトゥ】
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第38話 悪者退治

 冒険者は正義の味方か?

 答えは否だ。

 冒険者ギルドが仲介し、市民や貴族から依頼を受け、金銭を得る冒険者の本質は傭兵に近い。

 ほとんどの冒険者は普通に働くのを拒否し、困った人の願いを聞き、魔物達や盗賊に堕ちた人とそれに連なる異種族と戦う。


 故に一般的に冒険者は正義の味方と見られがちだが、戦う力があるぶん人目のない場所、深い森の奥やダンジョン内ではしばしばルーキスとフィリスが遭遇している略奪目的での事件が起こる。


 楽に金銭を得る為に人数の少ない冒険者や戦闘に疲れ、弱った冒険者を大人数で襲う冒険者の事を同業の冒険者は侮蔑の意味を込めてバルチャーと呼んだ。


 ある世界からやって来た転移者が、元いた世界の腐肉を漁る猛禽類を広く指す俗称からとって彼らをバルチャーと呼び始めた事で広まった呼び名だ。


 彼らに襲われた場合、正当防衛での殺傷が認められる。

 冒険者規定の一項にはそう記されていた。


 しかし、ルーキスは彼らを殺さなかった。

 偽善、慈悲、優しさ。

 そういう類の感情からではない。

 ルーキスならフィリスがいようがいまいが自分に牙を剥いた敵である彼らを瞬く間に鏖殺(おうさつ)しただろう。


 それをせず、フィリスと協力してルーキスは彼らを捕縛に留めた。


「優しいのね」


「いやあ。流石に子供の目の前で全員バラバラにするわけにもいくまいよ」


 ルーキスとの特訓により、フィリスの対人戦闘の能力は初級冒険者のそれを優に超えている事はゴブリンキングとの戦闘を見ても明らかだ。

 擦り傷は負ったフィリスだが、目立った被害といえば戦闘中に新調したばかりの剣が折れた事くらいだった。


 手強かったのはリーダー格らしき青年くらいのものだったが、結局はフィリスにバックラーでボコボコに殴られて気絶し、ルーキスに魔法で作られた岩の手枷により拘束されている。

 

 悪人面の三名も、中年冒険者も魔法使いの女性も漏れなく拘束。

 一箇所に集められ、ルーキスが錬金術で調合した眠りの香で深い眠りに落ちている。


「最初からコイツらがグルだって気づいてた?」


「まあ助けに入るタイミングは良すぎたよな。こっちが主討伐したあとだって見てもいないはずなのに口走ってもいた、怪しさは満載だった」 


「最下層まで来てたのに主にも挑まず、人助けしてとんぼ返りってのも変な話だしね」  


「そうだな。さて、それじゃあ後は上に戻って冒険者ギルドに報告だな」


「あの子はどうするの?」


 自分達の荷物を担ぎながらそんな話をしていると、フィリスがバルチャー達の荷物を背負ったまま呆然と立ち尽くしている十歳くらいの角を生やした鬼人族の少女を見て言った。


「最初からこの子だけは俺達を心配してた。なにか理由はありそうだが、さてどうするかな。君はどうしたい? コイツらと一緒にいたいか?」


 ルーキスとフィリスは少女の元へ向かうと屈んで視線を合わせて聞いてみる。

 少女は何も言わなかったが、首を横に振った。


「そうかい。なら君は自由だ、好きに生きると良いさ。故郷に帰るのが一番だろうけどな」


「故郷。帰る場所なんて……ない」


 鬼人族の少女が初めて口を開いた。

 弱々しく、今にも消えそうなか細い声だった。


 魔物であるオーガの中から派生進化し、人間やそれに連なる異種族との共存の道を選んだ本来なら人間などより遥かに強靭な身体能力を持つ種族。

 

 そんな鬼人族の少女はバルチャー達の荷物を背中から落とすように地面に置くと、その場で泣き出してしまった。

 

「仕方ねえな。抱えていくか」


「コイツら魔物達に襲われない?」


「その時は餌だな。知らねえよ、バルチャー共の末路なんてな」


 そう言ってルーキスはバルチャー達に振り返る事もせず、少女を抱えると歩き始めた。

 その後にフィリスも続くが、彼女はルーキスを追い抜いて前を歩く。


「流石に子供を抱えてダンジョンを進むのは危ないからね。私が先行するわ」


「頼もしいパートナーだ、助かるよフィリス」


「初めて名前呼んでくれたんじゃない?」


「ん? そうか?」


「多分ね」


 こうして二人は鬼人族の少女を抱えてダンジョンを地上に向けて歩き出した。


 その道中、休憩がてらに聞いた話だが、鬼人族の少女の住んでいた村は魔物の襲撃で滅んでしまったらしい。

 運良く少女は家族と逃げ出したが、途中で別の魔物に襲われて両親とは死別、逃げ込んだ森の奥で彼らの犯行現場を目撃し、最初は人身売買目的で連れ回されていたそうだ。


「ところが鬼人族の力に目を付けて荷物持ち(ポーター)に、か。強靭っていっても子供相手にやる事じゃねえよなあ。道具じゃねえんだし」


 心底呆れたように言いながら、ルーキスは横に座る鬼人族の少女にバックパックから出した干し肉と水を与えた。

 このあとしばらく休憩し、再びルーキス達は歩き出す。

 帰りは魔物と遭遇してもフィリスだけで対応出来た上に罠も発動しなかったのであっさり地下一階へと辿り着き、そして入り口に到着。

 

 二人は鬼人族の少女を抱えたまま、まずは祠から出ると冒険者ギルドを一直線に目指し、バルチャー達の事を通報。

 

 しばらく待っていてくれとの事だったので汚れを洗い流せる水場を借りて、体や装備の汚れを三人一緒に落とし、併設されている酒場で腹を満たすのだった。

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