第37話 バルチャー
戦利品をお互い分け合っていたルーキスとフィリスを悪人面の冒険者三人が取り囲んだ。
そこに横槍を入れたのは四人組の男女で組まれた冒険者パーティだった。
一人は金髪碧眼の青年、一人は清潔感のある中年男性、長い杖を構える長い茶髪の女性、そしてその後ろに大荷物を抱えた額から二本の角を生やした幼い少女の姿があった。
一見すれば荷物持ちを抱えた普通の冒険者パーティだ。
そんな冒険者パーティの青年と中年が剣を構えてルーキス達に絡んだ悪人面の冒険者達に向かってにじり寄っていく。
「君達、ダンジョンで冒険者を襲って金品を強奪するバルチャーだね? 悪い事は言わない、大人しく立ち去れ。そうすれば荒事は避けられる」
「従わないって言ったら?」
「三人仲良くダンジョンの餌だ」
悪人面の冒険者三人はルーキス達に向かって剣を向けていた為、介入してきた冒険者パーティには背を向けている状態だ。
状況だけ見れば圧倒的に不利。
それが分からないほど馬鹿ではないらしいの
悪人面の冒険者三人は舌打ちすると剣を納め、介入して来た冒険者パーティからジリジリ離れていくと洞窟の闇へと身を隠すように逃げていった。
その様子に安堵したか、冒険者パーティの青年は深くため息を吐くと剣を腰の鞘に納めてルーキス達に歩み寄って来た。
「剣を納めるなよ?」
「え?」
背中を預けていたフィリスに呟くように言うと、ルーキスは構えていたハルバードを手に持ったまま青年に近寄る。
その表情は先程悪人面冒険者の三名に絡まれていた時より険しく、眉をしかめている。
「そう警戒しないでくれ、僕達は偶然通り掛かっただけの冒険者パーティだ、アイツらみたいな人でなしとは違うよ」
「そうかい。まあ助けてくれた事には礼を言う。ありがとう」
「君達はこれから帰るんだろ? ああいう手合いもいるし、上まで送るよ」
「別に構わない、二人でここまで来たんだ。二人で戻れるさ」
「まあまあ。主討伐で疲れてもいるだろうからさ」
青年の言葉にルーキスは肩をすくめて「そうかい、そこまで言うならお言葉に甘えるかね」とハルバードを肩に担いで手を差し出した。
その差し出したルーキスの手を青年は握り、握手を交わす。
その時、ルーキスの目に何かを訴えるような瞳でこちらを見つめる、額から二本の角を生やした少女が首をほんの少し左右に振るのが見えた。
「それじゃあどうする? 直ぐに出発するかい?」
「そうだな。行こう」
青年の言葉に頷くと、ルーキスとフィリスは荷物を担ぐ。
その際にルーキスはフィリスに「絶対に気を許すな」と耳打ちした。
「なんで? 親切な人達じゃない」
「俺にはそうは見えないね」
冒険者パーティに聞こえないよう小声で話すルーキスとフィリスは、青年に促され隊列を組んで歩き出した。
青年の直ぐ後ろにフィリス、その後ろにルーキス、中年冒険者、女性冒険者、ポーターの少女の順で薄暗い洞窟を進んでいく。
王の間のある地下三階から階段を上り、一行は地下二階へ。
そこからしばらくは地図の通りに地下一階への階段へと向かっていたが、先頭の青年が道を逸れた。
地図の読み間違いか、はたまた休憩の為か、青年は地図でみると少し開けた区画へ向かっているようだった。
「階段はこっちじゃないが?」
「ごめんごめん、ちょっと用があってね、ついでにソレを終わらせてから帰っても良いかい?」
「ああ、良いぜ」
しばらく歩き、青年が用があると言った区画に一行は辿り着く。
そこで青年は区画の真ん中あたりまで歩を進めると、振り返って「じゃあここらで休憩にしようか」と言い放った。
その言葉に青年の仲間達は皆一斉に背負っていた荷物を下ろした。
ルーキスとフィリスも荷物を下ろしたが、それが合図だった。
身を屈めたルーキスに、剣を抜いた中年冒険者が斬り掛かった。
「荷物は傷付けたくないってか。やるんならもうちょい油断させてからだろ」
中年冒険者の一閃をルーキスは発動した防御魔法の膜にて防いだ。
ダンジョンを攻略中に発動した罠を防ぐために使用した魔法を自分にだけ限定して発動した魔法である。
その硬度たるや並の鎧を優に上回っているようで、中年冒険者の一閃はルーキスにかすり傷すら付けることが出来なかった。
「っち、魔法使えるのかよ」
「生憎ね。多分君らの連れのお嬢さんよりは使えるぜ?」
杖をかざし、魔法を発動しようとしている青年のパーティの女性に手をかざし、ルーキスは魔法使いであろう女性の前に土壁を作り出す。
後退る魔法使いの女性。
その一連の攻防を眺めていたフィリスが、ダンジョン攻略前にルーキスが呟いていた事を思い出していた。
「普通の冒険者の方が恐いって、そう言うこと。ならアンタ達がバルチャー」
剣を抜き、蛮刀も手に持ち、構えたままフィリスは青年から距離を置く。
最下層での主討伐の時とは逆で、ルーキスとフィリスは背中を合わせ武器を構えた。
「なんだよ。結局こうなるのか」
はあやれやれと、困ったような声がルーキスとフィリスに聞こえてきた。
岩の柱の影から先刻ルーキス達に絡んできた悪人面の冒険者三人が現れたのだ。
「はっはっは。なるほど、そう言う筋書きか。いかにもな悪党から助けて油断させて不意を打って殺して、金品を奪うと」
「できれば僕は穏便に終わらせたかったんだけどね。でも君ずっと警戒してたでしょ? じゃあもうこうするしかないじゃん?」
「助かるよ分かりやすくて」
「もしかして勝てると思ってる? どうせ仲間を犠牲にして主を倒したんだろ? 僕達はこのパーティで全員生き残った上でゴブリンクイーンを倒してるんだよ?」
「そうかい。なら楽勝だな」
「そうね、負ける気はしないわ」
ハルバードを肩に担ぎ、腰を落とすルーキスと蛮刀を右手に、剣を左手に持って構えるフィリス。
そんな二人を悪人面の冒険者三名と青年、中年、女性のパーティ合わせて六名が取り囲む。
その輪の外、角を生やした少女だけは泣きそうな顔でルーキスを見ていた。




