第36話 戦利品を分けよう
ゴブリンキングとゴブリンクイーン。
ダンジョンの主である二体をたった二人で討伐したルーキスとフィリスは、玉座の前に現れた宝箱の中身を取り出して王の間の外の広間へ向かうと腰を下ろした。
宝箱の中に入っていたのは、大きさは前腕から手にかけて程、幅にして腕二本分といったところか。装飾が施された長方形の箱が一つ。
その他、同じ装飾が施されてはいるが手のひらに乗る程度の箱が一つ。
ゴブリンキングが持っていた蛮刀を人間が持てるように小さくした物が一本納められていた。
「宝箱の中から出てくる箱って」
「たまに出てくる等級が良いお宝ってやつだな、中身は何かねっと」
宝箱から持ち出した箱二つを地面に置き、まずはルーキスが装飾が施された長方形の箱に手を掛けた。
「さてさて、どうすりゃ開くのか、な? お、コレで開くか?」
箱の側面に設置されている魔石。
その魔石にルーキスが触れた瞬間、魔石から箱をなぞるように青い光が走り、箱の天板が崩れるように消えていく。
崩れた天板から見えた箱の中に入っていたのは銀色に輝くガントレットだった。
「おー。格好良いじゃん」
「私は手甲新調したばっかりだし、それはアナタに譲るわ」
「お、マジか。そんじゃ、ありがたく」
言いながら、ルーキスは箱からガントレットを取り出すと、やや寸法の大きなソレに手を突っ込んだ。
すると、箱に走った光と同じ青い光がガントレットに走り、寸法がルーキスの腕にピッタリ調整される。
その様子にルーキスは満足そうに手を握ったり開いたりして着け心地を試していた。
「良いな。馴染む。昔から装備してるみたいだ」
銀色に輝くガントレットにご満悦のルーキスの対面に座るフィリスは、嬉しそう笑うルーキスを見て微笑むと自分の足元に横たわっている蛮刀に手を伸ばした。
「この蛮刀どうする? アナタはハルバードと剣持ってるし、私も新調したばっかりの剣あるんだけど」
「君が持ってるといいさ、予備にするも良し、二本同時に使うも君次第だ」
「二本同時かあ。確か西の大国ムサシの国では二刀流って言うんだよねそう言うの」
「こっちだとツーソードだな。良いじゃん格好良くて。バックラーでバコバコ殴るより効率は良くなるんじゃないか?」
「簡単に言ってくれるんだから。ちゃんと特訓に付き合ってくれる?」
「おお良いぜ、まあちょっとずつな」
「ふふ。ありがと」
楽しそうにニコッと笑うルーキスにフィリスも微笑み、蛮刀を右手に持ったり左手に持ったりして感触を確かめる。
その対面で、ルーキスは残った小さな箱に手を伸ばした。
「デカい箱にはガントレットとくれば、小さな箱は何か」
箱を手に取り、ルーキスは先程と同じ要領で箱の横に設置されていた魔石に魔力を込める。
光る魔石から走る青い光。
すると、箱は中ほどから真っ二つになるように横にカポッと開いた。
そこに入っていたのは一対の銀色に鈍く輝く指輪。
「……これもしかしてキングとクイーンのそういう指輪だったりする?」
「うーむ。可能性は大いにある」
「なんか、いや。ダンジョンの魔物に情は湧かないけど」
「まあ可哀想だとかは思わねえよ。コレは俺たちの戦利品だ。ありがたく貰っておこうぜ」
言いながら、ルーキスは箱から指輪を取り出して中に何か書いてあるかやら、変な呪いが掛かってないかを確かめたりするが詳しくは分からないので、後で鑑定屋にでも持っていくかと考えながらもう一つの指輪をフィリスに差し出した。
しかし、フィリスはその指輪を持ったルーキスの手を自分の手を伸ばして制する。
「そ、その気持ちは嬉しいんだけど。ほ、ほら私達、別に恋人同士ってわけじゃないし。ペアリングってのはちょっと恥ずかしいかなあって」
顔を赤くし、さも当然のように指輪を渡そうとしてきたルーキスに声を上擦らせながらフィリスは首を横に振った。
「同じアクセサリーを身に付けるってのは仲間内では良くある事じゃねえか。まあ嫌なら仕方ねえか、コレは売っぱらっちまおう」
「い、嫌ってわけじゃ!」
「なんだよ素直じゃねえな、ほらよ」
投げるでなく、ルーキスはフィリスの伸ばしている手に指輪を押し付けるようにして渡した。
少しばかり強引なルーキスの手から指輪を受け取ると、フィリスは微笑みながらもため息を吐き、受け取った指輪を右手の薬指にはめる。
「はあ。全く、私の気も知らないで」
「知らない、気付いてないってわけじゃ、ないんだがな」
ルーキスが鼻っ面を掻きながら漏らした小さな呟きに、フィリスが目を見開く。
聞き間違ったかと思い「え、今なんて」とフィリスがルーキスに聞き直そうと口を開こうとした、そんな時だった。
「おお⁉︎ こんな場所にまで来てやがった!」
と、男の声が聞こえ、その後ろから二人、合わせて三名の冒険者が王の間の前の広間に現れた。
コワモテ、というよりは悪人面と言う方がしっくりくる人相の髭面の冒険者だが、それはルーキスとフィリスをダンジョンの第一層の大広間で値踏みするかのようにジロジロ見てきた冒険者達だった。
「何か御用かな?」
「女の前だからってスカしてんなあ優男」
ルーキスとフィリスは立ち上がり、ルーキスは自分の後ろの通路から現れた冒険者達に向き直り、フィリスを庇うように後退る。
「格好良いねえ騎士気取りかい。まあまあそう警戒すんなよ。別にお前らに何かしようってわけじゃねえんだ」
「へえ。だったらなおさら何の用だよ。俺たち主討伐で疲れてんだけど」
ジリジリとルーキス達を囲むように散開する悪人面の冒険者達。
そんな冒険者三人に言い返すルーキスの後ろでフィリスは自分の剣と先程手に入れた蛮刀を手に振り返ると、ルーキスに背中を預けた。
「たった二人で主討伐なんて出来るかよ、面白え冗談だな。まあ良い、俺たちも鬼じゃねえからよ。ここに辿り着くまでに手に入れたお宝やら魔石やら置いていけば何もしねえ」
「嫌だって言ったら?」
「殺す」
「何が俺たちには何もしねえだよ。あのさ、出来ねえ事は口にすんなよオッサン」
剣を抜き、構える冒険者三人に、ルーキスはニヤニヤ笑いながらハルバードを構える。
そんな時だった。
臨戦態勢をとっていたルーキスとフィリスの耳に「そこまでだ!」と、相対している悪人面の冒険者達とは全く声質の違う青年の声が聞こえてきた。




