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転生したベテラン冒険者はセカンドライフを謳歌する  作者: リズ
第二章 二つめの町【ミスルトゥ】
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第31話 【大樹の祠】攻略開始

 翌朝の事、ルーキスとフィリスは装備を整えて再び町の中央、大樹の祠へと向かっていた。


「遂に初のダンジョン攻略ね」


「ん? ああ、そうだな」


 初のダンジョン攻略と聞き、前世の記憶の事もあってルーキスは若干言い淀む。

 それをフィリスは自分よりも強者であるルーキスが緊張しているとみたのか、気を引き締めなければと自分の頬を叩いた。


「どうした?」


「な、なんでもないわ。大丈夫よ」


 大樹の祠を目指して歩いていく二人。

 初のダンジョン攻略決行日だというのに、空の色は雲で灰色に染まって流れる風からも湿っぽさが感じられる。

 

「雨降りそうね」


「ダンジョンから出てくる頃に降ってなきゃ良いなあ」


 話しながら歩いていくと、灰色の空を見上げて歩いていく二人の視界を大樹の枝葉が塞いだ。

 そこからまたしばらく歩き、二人は祠に到着。

 昨日と同じように祠の階段を降りていく。

 そのタイミングで、ルーキスはふと思い出したようにフィリスに向かって「ああ、そうだ」と、口を開いた。


「どうしたの?」


「一つ忠告しないといけない事があったなって思ってな」


「忠告? ダンジョンは危ないから注意しろ、とかいう話なら今更って感じだけど?」


「まあ似たようなもんだが。ダンジョンに入って攻略中に他のパーティと遭遇しても、絶対に気を許すなよ?」


「なんで?」


「ダンジョン内は魔物で溢れてる、例え冒険者が死んだとしてもそれは基本的に魔物との戦いによるだろう。でもな、中には俺たちみたいな下っ端を襲って殺し、金品を巻き上げようとする輩もいる」


「自分達の犯行を魔物に擦りつける奴らがいるって事?」


「ああ、間違いなくそういう輩はいる。ダンジョン内は基本的に無法地帯だからな」


 階段を降り、昨日と同じ大広間に辿り着いたルーキスとフィリスに先に祠に入っていた冒険者達が視線を向ける。


 朝方だからか、パーティを組んでいる冒険者の人数は昨日より明らかに多く、壁際に寄って集まっている数人などは人相が悪くルーキスとフィリスを値踏みするように眺めている。


「あの人達、なんか視線が怖いね」


「そうか? 俺は普通に見える連中の方がよっぽど怖いけどな」


 そんな話をしながら、ルーキスとフィリスは柱に近寄ると、灯りを使い、バックパックの中身の道具や食料、自分の持つ装備を確認する。

 そして、それらを終えると二人は早々に階段の対面にあるダンジョンの出入り口へと向かった。


「さあて。初めてのダンジョンだ。せいぜい死なないように頑張ろうぜ」


「危なくなったら助けてね?」


「そいつはお互い様だ。まあ今回は予め手に入れた情報もある。昨晩話した通り、第一層では君の鍛練も兼ねる。まあ最初は気楽に行こうぜ」


 言いながら、ルーキスはハルバードを肩に担ぐ。

 その隣でショートソードを抜くフィリス。

 二人は合図をするように頷き合い、同時にダンジョンに向かって一歩を踏み出した。


 地下一階。

 スタート地点から二人は石畳で出来た通路を歩いていく。


 灯りは壁に設置された燭台に置かれた光る魔石で、薄暗いがどこに何があるかはハッキリと見てとれた。


「廊下の突き当たり、二股に分かれてる通路を右、そのまま道なりに進んでまた分かれ道があるからそれも右だな」

 

 昨日買ったダンジョンの地図に目を落としながら歩いていくルーキス。

 フィリスはその声を聞きながら剣とバックラーを自身前に構えて進んでいく。


「第一層に出現する魔物はスライムやヒュージラット、比較的楽に倒せる魔物達だ。君なら大丈夫だと思うが、気を付けろよ?」


「だ、大丈夫。任せて」


 ルーキスの言葉に冷や汗を滲ませるフィリス。

 そんなフィリスの前に床から黒い霧が滲み出したかと思うと、情報通りにスライムが二体出現。

 二人目掛けて跳ねながら迫ってきた。


「アナタは見てて。私が戦うから」


 言いながら、フィリスはスライム目掛けて駆け出した。

 一対一ならゴブリン相手にも負けないフィリスである、ダンジョンの魔物とはいえ魔法が使えないスライムの原種に遅れはとらない。

 フィリスはあっという間にスライムの体内にある魔石を破壊してスライムを二体撃破。

 斬られたスライムは出現した時の黒い霧と同じように霧散していった。


「ダンジョンの魔物って本当に死体が残らないんだ」


「今のは魔石を直接破壊して倒したからだな」


「こんな感じなら割と楽勝だったりして」


「と、考えてるうちはダンジョンの罠に掛かってる証拠だ。ダンジョンも魔物の一種だからな、最初は楽に思わせて、中層辺りで宝をチラつかせ、欲をかいた冒険者達を最下層の王の間で一網打尽にして栄養にする。それがダンジョンっていう魔物の手口なのさ。まあデカいミミックみたいな物だよなあ」


「ミミック?」


「知らないか? 宝箱に擬態した魔物でな」


「あ、本で見た事あるかも」


「このダンジョンにも生息してるみたいだ。注意していこう」


「分かった」


 ルーキスの言葉に気を引き締め直し、二人は第一層を地図の通りに進んでいった。

 目指すは最下層だが、買った地図には宝箱の出現位置も書かれていたので様子を見に行く。

 しかし、残念ながら辿り着いた宝箱はすでに空っぽだった。


「あら残念」


「まあ上層だしな。日頃からみんな来てるならダンジョンも餌の補充が間に合わないって事なんだろう。さて、ここまでの道のりで遭遇したスライムやらヒュージラットとの戦闘は君に任せっきりだったが、どうだ? 疲れたか?」


「ちょっとだけ、疲れたかも」


「常に薄暗いダンジョン内は時間の感覚も狂うからな。戦闘はもちろんだが、もう結構歩いてるし、そろそろ休憩しよう」


 そう言って、ルーキスは宝箱の前で腰を下ろした。

 そんなルーキスを見て、フィリスは「まだ行けるわよ?」と首を傾げるが、ルーキスはそう言ったフィリスに肩をすくめ、苦笑を浮かべて見せる。


「言ったろ? ダンジョンも魔物の一種なんだって、俺たちは今魔物の腹の中にいるんだから無理は禁物。別に期限付きの依頼を受けてここにいるわけじゃねえんだ。ゆっくり行こうぜ」


 言いながら、下ろしたバックパックの横に引っかけていた革の水筒を取り、バックパックの中を漁って持ってきた干し肉の入っている紙袋も取り出して休憩を始めるルーキス。


 そんなルーキスの横、一人分の間を開けてフィリスも石畳の上に腰を下ろして自分の鞄から水を取り出して飲み始める。


 二人だけのダンジョン攻略はまだまだ始まったばかりだ。

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