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転生したベテラン冒険者はセカンドライフを謳歌する  作者: リズ
第二章 二つめの町【ミスルトゥ】
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第29話 下見に来ました

 壁に囲まれた町の中心。

 そこには大樹が一本、天を目指すように伸びている。

 かつては小さな種が小さな鳥に運ばれて、ダンジョンの入り口になっている苔の生えた祠ほこらの天辺に偶然落ちて、芽吹いた小さな生命だった。

 それがいつしか育っていき、祠に沿って根を地に下ろしたあと、ダンジョンから溢れる魔力を糧に急速に成長。

 たかだか数十年で見上げる程の大樹となったと町の記録にはある。


 その大樹とダンジョンの入り口である地下へ続く階段がある祠を囲むように、大きな壁がそびえていた。


 高さにして二階建て家屋二軒分の巨大さで、壁の内部には冒険者ギルドと、この国レヴァンタール王国が共に管理する軍事施設が設けらている。

 

 それというのも、ダンジョンから魔物が氾濫した際には壁の門を閉じ、壁内にて魔物を殲滅出来るようにするためだ。

 この町、ミスルトゥの外壁にしたってそうだ。

 本来なら、魔物達が町を襲撃する事は少ない。

 結界、魔除け、それを除いたとしても人間やそれに連なる種族が持つ力は魔物達にとり軽視出来る物ではない。

 危うきに近寄らず。

 本能から魔物達は人の多い町などには近寄らない。

 とはいえ、例外は存在する。

 ドラゴン等の強力な超生物や、知性を獲得し、人のように組織的な行動を可能とした亜人種などの存在だ。

 しかしながら、それらの襲撃もそう頻繁に起こるわけではない。


 ミスルトゥの外壁は大樹を囲む内壁から魔物達が溢れ出した際の保険だ。


「昔はここまで厳重に管理されてなかったがなあ」


 大樹の根元、ダンジョンへの入り口がある祠がある町の中心に向かう為、ルーキスとフィリスは内壁の大門を進んでいた。


 ルーキスの呟きは行き交う冒険者や商人、大樹を見にきた観光客の声に掻き消され、フィリスの耳には届かない。

 しかし、何かを言ったというのは口の動きで分かったため、フィリスはルーキスに「何か言った?」とルーキスに聞こえるように声を張った。


「ああいや。スゲェなあって思ってな」


「大樹の事? 壁の事?」


「両方だな。大樹という自然の荘厳さも、巨大な壁を作ってそれを囲んだ人の魔法と叡智、工夫の力って凄いなって、単純に感嘆してんのさ」


 門から内壁の内側に入ったルーキスの目が年相応の少年らしく爛々と輝いた。

 ルーキスが知る限り、前世では何処のダンジョンの側にも大きな町などは無かった。

 見た事があった物は入り口を囲む小さな壁と常駐している王国の兵士、その兵士の駐屯所や小さな宿屋と武器防具屋、様々な道具を揃える雑貨屋くらいのもので、寂しい村の様だった。


 それがこの町、ミスルトゥではどうだろうか。

 外壁から内壁までの間には町が栄え、内壁の内側にも武具店や雑貨屋を含め家屋が並んでいる。

 プエルタほどではないがダンジョンを中心に大きな町が円形に広がっているわけだ。


「情報集めも良いけど、私達二人だけでダンジョンに挑戦するの?」


「パーティの増員は確かに欲しいが、連携出来ない付け焼き刃になりかねんしなあ。まあその辺り含めて今日はとりあえずダンジョンの下見に行こう」


「え? ダンジョンに入るの⁉︎」


「浅い階層だけな。他の冒険者やギルドで情報を仕入れるのも確かに大事だけどさ。まずは空気を感じようぜ、初めてのダンジョンの空気ってやつをさ」


 ルーキスの発言に目を丸くするフィリス。

 そんなフィリスにルーキスはニコッと悪戯な笑みを浮かべ、機嫌良さげに門から真っ直ぐ大樹へと続く踏み固められた土の道路を歩いていく。


 外壁側の町も活気に溢れていたが、内側の町の活気はそれ以上でお祭りの様相だ。

 大通りには屋台も出ており回復薬や携帯食料などのダンジョン探索に必要そうな物を売り出していた。

 

 そんな大通りを真っ直ぐ進んで行くと広場に出た。

 その広場には祠に宿った大樹を中心に魔法陣が地面に広がり、そこまであった家屋は全て無くなりダンジョンに挑戦する為にやって来た冒険者や、大樹を近くで見たくてやって来た観光客しかいない。


「結界魔法の陣か。ふむふむ。ダンジョンから魔物が出て来た場合、まずコレで足止めして住人を逃して、門を閉める為の時間稼ぎをするわけだな」


 腕を組み、顎に手を当て興味ありげに魔法陣を解読するルーキス。

 その横で、フィリスは大樹を見上げてポカンと口を開いていた。


「さて、行こうか」


「え、ええ。そうね」


 防具を装備しているわけでもなく、側から見れば観光客と変わりない服装のまま、ルーキスとフィリスは大樹の根元の祠へと向かった。


 すると、二人は祠の手前である人物に呼び止められる。

 それは冒険者ギルドの制服を着た兎の様な耳を生やした女性だった。

 獣人族の中でも人寄りの獣人族で、見た目にはほとんど人間だが、その長い黒髪から白いウサギ耳が伸びていて、大人の女性らしく艶やかな声だった。


「こんにちは。冒険者の方ですか?」


「ええ、まあ」


「ダンジョン攻略にしては装備が整って無いようですが」


「今日はちょっと下見に来ただけなので」


「ギルドカードを拝見しても?」


「もちろん」


 ウサ耳の冒険者ギルドの制服を着た女性に言われるままギルドカードを差し出す二人。

 二人のギルドカードを見て納得したか、ウサ耳の冒険者ギルドの女性は何やら頷くと二人に笑顔を向けた。


「カード確認しました。駆け出しは卒業なさっているので止めはしません。ですが、くれぐれも慎重に行動してくださいね」


「気遣いありがとうございます」


 ギルドのウサ耳女性職員の言葉に返答し、ギルドカードをズボンのポケットに納める二人。

 ルーキスとフィリスはギルドのウサ耳女性職員にペコッと頭を下げると大樹の根元、祠の内部へと歩を進めるのだった。

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