第24話 森の街道での遭遇戦
プエルタの街を発って丸一日と約半日。
馬車を引く馬の休憩を兼ね、ルーキスとフィリス、馬車の持ち主である商人の男性は食事の為に程良く開けた場所を探していた。
しかしまあ。
こういう時に限って問題は起こる。
「このすぐ先に休憩出来る広場があるんで。そこで昼食にしよう」
と、商人の男性ルガンが進行方向を指差して、護衛の為に横に座っているルーキスに言ったのだが、その先の休憩所らしき開けた場所で、先客がゴブリンの集団に囲まれていた。
ルーキス達が護衛している幌馬車より荷台が大きく、それを引く馬もルーキス達が護衛している馬車よりも多い。
そんな幌馬車を、ゴブリンが十数匹から取り囲み、その馬車を守る為に護衛の冒険者四名がゴブリン達と睨み合っている状況だ。
「ど、どうするかね」
「助けないわけにもいかんわな。失礼ですが、馬車を離れます」
「わ、分かった気をつけてな」
「フィリス、出られるか?」
馬車を止めたルガンに笑い掛け、ルーキスは荷台の後ろにいるフィリスに振り返って声を掛けるが、そこには既にフィリスの姿はなく。
「行けるわ。あんまり自信は無いけどね」
という声がルーキスの側面足元、御者席の下辺りから聞こえてきた。
状況を見て先に荷台の後ろから飛び降りていたようだ。
その手には既に剣が握られ、視線は前方の馬車を囲むゴブリン達に向けられている。
「君のその決断力と行動力は素晴らしいな。では、向かって左側、女性二人の援護に向かってくれ。俺は右側、男性二人の方に向かうよ」
「大丈夫かな。私」
「大丈夫さ。君なら」
荷台に置いていた外套を羽織り、ハルバードも取り出して、ルーキスは御者席から緊張しているフィリスの隣に飛び降りると、フィリスの肩をポンポンと二度叩いた。
意中の異性に信頼を寄せられる。
それがプラスに働き、やる気を出す人間もいれば、マイナスに働いた結果、萎縮して、いつもの半分も力を出せなくなる事がある。
しかし、フィリスはどうやら前者らしかった。
肩を叩かれたフィリスは深呼吸すると、ルーキスの紫色の目を見つめて頷いた。
真っ赤なルビーの様な瞳がルーキスを見つめる。
その赤い瞳がルーキスは好きだった。
未来を信じてギラギラ輝く赤い宝石。
声には出さなかったがルーキスは「綺麗だな」と思いながらフィリスに向かって頷き返すと、ハルバードを肩に担いで腰を落とした。
「健闘を」
「頑張る!」
その言葉を合図に、ルーキスとフィリスは駆け出した。
目標は前方十数メートル先の幌馬車。
既に事切れているゴブリンも見受けられるが、護衛している冒険者達にも手傷が見受けられる。
その一団に、ルーキスが突っ込んだ。
身体強化魔法にて脚力を強化し、風魔法にて空気抵抗を減らし、同魔法にて追い風を作り出したルーキスの速度たるや。
その速度はルーキス達が護衛していた馬車の商人からは見えないほどだった。
「横から失礼。お疲れのようですので、手を出します」
ゴブリンの集団に横から突っ込んだルーキスは、ハルバードによるゴブリンへのS字の刃による一閃と、頂端の槍部による一突き、近々のゴブリンの頭部への雷撃魔法にて瞬く間に三匹のゴブリンを屠る。
そして、襲われていた馬車の護衛の前にルーキスは躍り出ると、ルーキスはハルバードを枝を振り回す様に軽々振るい、護衛の冒険者達に背を向けてゴブリン達に向かってハルバードを構えた。
一方で、遅れてフィリスもゴブリン達の最後方から参戦。
ルーキスの突撃に気を取られているゴブリンを後ろから斬りつけ、痛みと衝撃から膝を付いたゴブリンにとどめの一刺しを背中から見舞い、その刺さった剣をゴブリンを蹴って抜く。
「き、君達は」
「この先の町に向かってた、通り掛かりの同業です」
「二人だけか⁉︎」
「ええ、二人だけです」
突然現れた援軍に安堵したかと思うと、助けられた冒険者たちは見た目にまだ自分達よりも若いルーキスとフィリス二人の姿に不安にかられ、他の冒険者の姿を探す。
しかし、そこにはまだ駆け出しに毛の生えた程度の見た目をしている二人しかいないわけで。
「まあ、見てて下さいよ。力になりますから」
そのルーキスの言葉に嘘偽りは無かった。
ルーキスは見た目こそ十六歳の少年だが、中身は二百年前の魔物が溢れんばかりの世界を生き抜いた超の付くベテラン冒険者だ。
その知識によって鍛え上げられた肉体の膂力と魔力をそこそこに使い、ゴブリンの集団を一蹴していく。
ルーキスが決して軽くないハルバードを木の枝でも振るように振り回す。
助けられた冒険者の男二人はゴブリンの返り血が舞うなか、踊るようにゴブリンを鏖殺していくルーキスのその姿にやや引いていた。
「お、おいおい。なんだコイツ」
「バケモンかよ」
「あの人はそんなんじゃありません!」
ゴブリンからの攻撃をバックラーで防ぎ、体勢をたて直す為に後ろに跳んだところで聞こえてきたルーキスへの冒険者二人の言葉。
その言葉に、フィリスは噛み付くように吠えて再度、敵である目の前のゴブリンに突撃していった。
そんなフィリスを男二人の仲間である女性冒険者二人が援護。
フィリスに飛び掛かろうとしたゴブリンを弓で射抜き、フィリスの隙を突いて斬りかかろうとしたゴブリンを氷の魔法で生成された槍が貫いた。
「そっちはあの子一人で大丈夫そうだからこっち手伝って!」
「お、おう! 直ぐ行く!」
冒険者の一人。弓を構えていた短い茶髪のボーイッシュな女性が男二人に叫んだ。
そして、こうなれば率いられていない雑兵の群れなど大したことは無く。
数分と待たずにゴブリン達は必死の形相で「ギャギャギャー!」と何やら叫びながら森の中に遁走していったのだった。




