第22話 フィリスの新装備
エルフの女性、リスタが店主を勤める武具店。
初対面なはずなのに、仲良さげにリスタと話すルーキスにフィリスは微かにやきもちを焼いていた。
初めて会って、助けてくれた時はルーキスの事はただ命の恩人として慕い、その強さに惹かれた。
しかし、たった数日の事ではあるが、同じ宿で寝泊まりし、共にパーティを組んで依頼をこなし、話をしているうちに彼女の内には、ルーキスに対して恋心が確かに芽生えていたのだ。
「さて、次はお嬢ちゃんの番だな」
「あ、はい」
ハルバードに夢中になっているルーキスに背を向けて、リスタはフィリスに近付くと、不機嫌とまではいかないが、少し顔をしかめてリスタの言葉に答える。
そんなフィリスの態度に何を察したか、リスタはニヤッと笑うとフィリスに顔を近づけた。
「大丈夫だよお嬢ちゃん。アンタの恋人を盗りゃあしないさ」
「べ、別に彼は、恋人ってわけじゃ」
「ん〜? なんだい、まだそういう関係じゃないのかい。なるほどねえ、友達以上恋人未満ってやつか。焦ったいねえ。しっかり捕まえときなよ? 悪い女に取られないようにね」
ルーキスには聞こえないようにフィリスに耳打ちすると、リスタはフィリスの肩にポンと手を置いて歩き、少し離れた場所からついて来るように手を招く。
「アンタは何をお求めかな?」
「あ、えっと。私は剣と防具も一式買い換えようかと」
「予算は?」
「今とりあえず持ってるのはコレだけです」
言いながら、フィリスはリスタに腰に引っ掛かけてきた石貨の入った袋を取り出してリスタに渡した。
「あの少年もそうだが、なかなか稼いでるじゃないか。まだ正規の冒険者になって間もないって聞いたが。ふむ、ちょっとごめんよ」
そう言うと、リスタは石貨の入った袋をフィリスに返し。
リスタはフィリスの手を握ったり腕を触ったり、肩を揉んだりしてフィリスの体型を測っていく。
「細っこいと思ったが、しっかり鍛えてるね。良い筋肉の付き方だ」
「あ、ありがとう、ございます」
「ふむふむ。剣はショートソードで良いね。防具はどうする? ガチガチに固めるには予算不足だからねえ。満遍なく革装備をアップグレードするよりは、胸当てと手甲をこの金属製にする方が良さそうだが」
「そうですね。出来れば動きやすい方が良いので。それでお願いします」
「良し。じゃあそうだなあ、この辺りの胸当てと、色を合わせるならこの手甲が良いな。ちょっと付けてみな」
リスタに渡された装飾の無い鋼色の胸当てと、同じ色の手甲を、装備していた革の装備を外して床に置いた後に装備し、少し手を振ったりその場で跳ねたりしてみる。
「鉄製、ですよね? 軽い」
「鉄製とは少し違う。鉄と魔物の骨を混ぜた合金製だ。純正の鉄装備よりも硬いぞ? 少し値が張るから剣も買うならアンタの持ち合わせだと胸当てと手甲が精一杯だね」
腕を組み、胸を逸らして渾身のドヤ顔をお見舞いするリスタに、フィリスは苦笑した。
しかし、その直後リスタはフィリスの全身を少し離れて見ると何やら考え込むように顔をしかめる。
「うーむ。やはり若い女子が装備を身につけている姿は様になるな」
どうやら勧めた防具を身に付けたフィリスの姿にご満悦なご様子だ。
「よしよし。じゃあ後は剣だが、バックラーはそれをまだ使うのかい?」
「ええまあ」
「随分と傷み方が酷いね」
「あ〜。それは私の戦い方が原因かなあ」
リスタの疑問に答えるように、フィリスへ普段の戦闘で防具であるバックラーも打撃武器として使用している事を語る。
その話を聞いて、リスタは何か考えるように顎に手を当てた。
「その傷み方だと、直に壊れそうだねえ。その床に置いてる革装備を買い取ってあげるから、それでバックラーも新調しな。ちょっとマケといてやるからさ」
「良いんですか? さっき彼にはマケないって」
「私は恋する乙女の味方だからね。ってのは半分冗談で自分が商品を売った冒険者が死んだなんて話、聞きたくないのさ。あの時コレを渡していれば、なんて後悔をしたく無いの。わかる?」
「分かると、思います」
「良し。なら商談成立だ。ありがとよ」
「こちらこそ。色々ありがとうございます」
こうしてフィリスはリスタの案内で剣とバックラーも新調。
腰当てと脚甲はそのままではあるが装備一式を新調し終えた、ルーキスとフィリスはリスタの武具店から出る為に出入り口の扉へと向かう。
その際に、フィリスに近付いたリスタが小声で囁いた。
「余計なお節介かも知れないが、あんだけ清々しい魔力を纏った男を私は初めて見た。他の女に盗られる前にちゃんと気持ちを伝えるんだよ? じゃないと一生後悔するぞ? 命短し恋せよ冒険者ってね」
そんなリスタの言葉にフィリスは顔を赤くしながら「ぜ、善処します」と冷や汗も流しながら答え、先に店の外に出たルーキスを追いかけて扉を開け、外に出た。
それに続いてリスタも店の外に出る。
「お買い上げありがとうね。また装備新調する時はウチに来てくれよ?」
「ありがとうございました。また入り用があれば伺います」
「ありがとうリスタさん。私、頑張ります」
ハルバードを肩に担いだルーキスと、新装備を身に付けたフィリスがリスタに向き直って手を振る。
これにて二人の買い物は終了。
この後二人は宿に帰って併設されている酒場にて夕食のあと解散。
フィリスはすっかり慣れたシルキーに装備を見せたり、応えてくれるわけでは無いのにルーキスの事を相談し。
ルーキスはというと、その隣の自室にて壁に立て掛けたハルバードを眺めながら、過去の記憶で使用した戦斧での戦法を照らし合わせ、新戦法を思案し、眠るまでの一時を過ごした。




