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転生したベテラン冒険者はセカンドライフを謳歌する  作者: リズ
第一章 転生と出会い、そして始まり
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第19話 フィリスを鍛えよう

 ゴブリンを討伐し、唐突にギルドマスターに呼ばれはしたが、何事もなく正規の冒険者となったルーキスとフィリスの二人は昼食を終えると、その日はまだ日も高いうえに若い二人は体力も余りに余っていたので少し手合わせをしようという事になった。


「俺と手合わせ? 何か依頼を受けるとかじゃなくてか?」

 

「うん。あなたと手合わせがしたいの。ゴブリンを一匹討伐したからって驕ってるわけじゃないわよ? 強い人と戦って、今の私に何が足りないのか知りたいの。ダンジョンに潜る為にはまだ私は実力不足だと思うから」


「確かに今の君じゃあダンジョンはまだ厳しいかもな。しかし君はストイックだな。本来なら花に恋に生きる歳頃だろうに」


「綺麗な花なら冒険しながら探すし、恋なら……恋は」


 ルーキスの言葉に応えながら、フィリスは正面に座っている命の恩人であり、初めて気を許した同年代の異性の顔を見つめて頬を染めた。


「恋なんて、しないわ」


「それは勿体無いな。よく言うだろう? 命短し、恋せよ冒険者って。大事な人の為に戦える人間は強くなるってな」


「あなたにもそういう人っているの? だからあんなに強いの?」


「言っておいてなんだが、そういう人は……いないよ」


 机の上に視線を落として聞いたフィリスの言葉に、ルーキスは悲哀の色が混じった微笑みを浮かべ、その脳裏でかつて愛した前世の妻の笑った皺くちゃの顔を思い出す。


「そ、そうなんだ。いないんだ。ふ〜ん」


 顔を赤くし、その赤い顔に似た色の髪をイジるフィリスはハッと我に返って首を横に振ってその勢いで恋心を振り払うと握った手を口元に当て「コホン」と、わざとらしく咳払いをして見せた。


「ま、まあこの話はこれでお終い! で、どう? 手合わせしてくれる?」


「俺は一向に構わないよ。どこでやる? 出来れば広い場所が良いんだけど」


「ギルドの裏に鍛練場があるって聞いた事があるわ。そこに行きましょう」

 

「鍛練場か、分かった。じゃあ早速行くかね」


 そう言うと、ルーキスは酒場の給仕を呼び、昼食の代金を手渡すとフィリスと共に席を立った。

 そして酒場を後にした二人はいったん受付けに向かい、鍛練場の場所を聞くと、玄関正面の受付の右側、冒険者登録受付横に伸びる廊下を歩いて行った。

 

 その廊下の突き当たりを左に曲がり、その先の扉を開くとルーキスとフィリスは青空がギルドの石壁で四角く切り取られた広い空間に足を踏み入れた。


「壁際に試し斬り人形が三つ、魔法を撃ったり矢を射るための射場もあるな。予想より随分広い」


 言いながら、ルーキスは閉めた扉の側に置かれている蓋のない樽から適当に木剣を取り出すと、それを肩に担いでやや大股で歩き始める。


「中央まででざっと十メートルくらいか、良いね」


「ルールとか決める?」


「いや。無くていいよ。君が納得するまで相手をするつもりだからね」


「ありがとう。じゃあ早速」


「まずは軽めにいこうか。準備運動だ」


 二人が鍛練場の中央で木剣を構えて向かい合う。

 日中という事もあり、他の冒険者達は出払っているのか鍛練場に姿は無い。

 そんな寂しい鍛練場で二人の手合わせが始まった。

 

 木剣のぶつかりあう音。

 硬い砂の地面を踏む音。

 振った木剣が空を斬る音。

 そして二人の息遣い。


 そんな二人の奏でる音は空が青から橙色に染まるまで続いた。


「ま、まだまだ」


「お〜。まだやるかい。頑張れ頑張れ」


 ゴブリンとの戦闘時より遥かに汗をかき、木剣を杖代わりに体を支え、膝を地面に付けまいと踏ん張るフィリス。

 その姿に感心して、汗をかいてすらいないルーキスは、肩に担いだ木剣でポンポンと自分の肩を叩きながら微笑んで、生まれたての子鹿よろしく足を震わせているフィリスを見下ろした。


「こ、ここまで手も足も出ないなんて」


「俺は俺で色々やってるからな。でも正直驚いた、中々動けるじゃないか。バックラーを防御だけじゃなくて攻撃にも使ってるし」

 

「昔、お爺ちゃんに教えてもらったの。盾は何も防御の為だけに使う物ではないんだって」


 疲労から震える足を手の平で叩き、喝を入れてフィリスは体勢を正して再び剣を構える。

 そんなフィリスにルーキスは「お爺さんは良い指導者でもあったのだな」と、呟きながら剣を構えた。


「もう一回、行くわよ!」


 叫びながら駆け出そうとするフィリス。

 しかし疲労で足がもつれたか、フィリスは体勢を崩して前のめりに倒れそうになる。

 そのフィリスを、ルーキスが抱き止めた。


「流石にこれ以上は駄目だな、今日は止めよう」


「ご、ごめんなさい。ありがとう」


「どういたしまして。さて、そろそろ宿に帰ろう。ゆっくり寝て休んで、また明日だ」


「ええ、そうね」


「じゃあ回復魔法使うけど、良いかな?」


「お願い。もう立つのも無理そう」


「了解した」


 疲労困憊のフィリスを地面に座らせ、ルーキスは手を翳して本日何度目かの回復魔法をフィリスに使用する。

 すると、先程までのフィリスの足の震えは消え、それを確認する為に、彼女は立ち上がると靴を履く時の要領で爪先で地面を蹴った。


「ふう〜。筋肉の痛みは無くなったけど、疲れは取れないんだなあ」


「回復魔法も万能じゃないからな。傷付いた筋肉は修復出来ても疲労感までは消えない。疲労を消す薬は錬成出来るけど、あいにく材料がない。だから今はこれで許してくれ」


 こうして二人の手合わせは終了。

 ルーキスとフィリスは木剣を元の位置に戻して鍛練場を後にした。


「う。汗臭い」


「この街、浴場は無いのか?」 


「あるわよ。ギルドから出て直ぐの所に洗濯サービス付きの大衆浴場がね」  


「お〜、良いねえ。じゃあ帰る前に一っ風呂浴びて帰ろう」


 今日一番のテンションで、嬉しそうに言うルーキスに、フィリスはニコッと笑って同意すると、二人はギルドを出て雑踏をすり抜けながら歩き、フィリスの案内でギルドから程近い大衆浴場に到着。


 それぞれ男湯女湯で別れてその日の疲れを癒したあと宿へと帰っていった。

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