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転生したベテラン冒険者はセカンドライフを謳歌する  作者: リズ
最終章 二度目の人生を謳歌するために
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第159話 始まりの街。二人が出会った場所

 ミスルトゥから馬車で一日半。

 ルーキスたちを乗せた馬車は、ルーキスとフィリスが出会った街、プエルタの近郊へと辿り着いた。

 

 あの日、ルーキスとフィリスが出会った日と同じで空は晴天。

 背の高い草が生えた草原が風になびいて緑色の宝石のように輝いている。


「久しぶりだなあ」


「ほんとにね。ああ、帰ってきたんだ」


 遠くに見えるプエルタの街の出入り口の木で出来たアーチ門。

 その門から馬車が一台、冒険者であろう、装備に身を包んだ若者たちと一緒に出てきた。

 ミスルトゥへ向かうのだろう。


 そんな一向とすれ違いざま、ルーキスたちは手を上げ、挨拶を交わす。


「そういえば、俺たちもミスルトゥに行く時は馬車の護衛をしながらだったな」


「そうだったけ。ああ、確かドワーフの商人を護衛したんだったわね」


 二人で旅立った時の事を思い出しながら、ルーキスたちはプエルタの街に入った。

 向かうは思い出の宿。

 家憑妖精シルキーが住む仲の良い親子が経営する小さな宿だ。


「この街はお姉ちゃんの生まれた街なんですよね? 帰らなくてもいいんですか?」


「うぐっ。考えないようにしてたのに」


「ごめんなさい」


「イロハちゃんが謝ることはないわ。これは私の問題だからね」


 そう言って苦笑したフィリスがイロハの頭に手を伸ばして優しく撫でた。

 そんなイロハに、ルーキスは肩越しに振り返ると「どうする?」と聞くが、フィリスは眉間に皺を寄せて難しい顔をすると、捻り出すように「とりあえず宿に行きましょう」と言ってルーキスから顔を逸らした。


「会いにくいなら会わなくてもいいとは思うが、どの道だぞ?」


「なによ。どういうこと?」


「結婚するなら遅かれ早かれ挨拶には行かないといけないからな。礼儀として」


「ば! 馬鹿! ああいや、確かにそうなんだけど。うーん。でもなあー!」


 どうにも両親に会うのが気まずいようで、フィリスは頭を抱え、赤い髪をガシガシ掻いて空を見上げる。

 そんな事をしているうちに、ルーキスたちはプエルタの冒険者ギルドの前を通過し、結局フィリスが答えを出す前に泊まる予定でやってきた宿の前に辿り着いた。


「まあ、のんびり悩むことだな。後顧の憂いなく仇討ちに挑むか、両親との再会を死ねない理由として仇に挑むかの違いさ」


「ちょっと? 悩む理由を増やさないでくれる?」


 そんな話をしながら宿の前の馬止めに荷台を外した馬を繋いでいると、イロハが二階の窓を見上げているのにルーキスが気が付いた。


「どうしたイロハ」


「女の子がずっとこっちを見てるのです」


 イロハの言葉を聞き、ルーキスは宿の二階に目をやると、そこには巻き髪で半透明の可愛らしい小さな女の子の姿があった。


「あれがシルキーだ。仲良くしてやるんだぞ?」


 ルーキスの姿を見たからか、窓の向こうにいるシルキーは嬉しそうに笑みを浮かべ、踊るように宙を舞った。

 その姿をフィリスも見ていたが、この一年と少しの旅で様々な経験をしたからか、当初は幽霊と見分けがつかず怯えていたフィリスもすっかりシルキーに慣れていた。


「ちゃんと居て安心しちゃった」


「もうシルキーに怯えるフィリスは見れないんだなあ」


「ティアに比べたら幽霊なんて、ねえ?」


「シルキーは幽霊ではないんだが。まあ、そうだな」


 話をしながら荷物を下ろし、ルーキスたちは宿の中へと足を踏み入れた。

 ピカピカの新築とは程遠い、よく言えば趣のある、悪く言えば古臭い宿は、それでも掃除は行き届いており、カビ臭さなどは一切なく。

 それどころか受付に飾られた花から、爽やかな香りが漂っている。


「やあいらっしゃ……もしかして、フィリスちゃんかい?」


「お久しぶりです」


「久しぶりじゃないかあ〜。君も、覚えてるよ。えーと、ル、ル」


「ルーキスです。ご無沙汰してます」


「そうだ! ルーキスくんだ! いやあ久しい。一年ぶりくらいかい? 逞しくなったねえ、見違えたよ。そちらのお嬢さんはお仲間かい? 髪色なんかは君たちに似てるけど」


「私たちの仲間で、娘みたいなものかなあ。ちょっと色々あったんですよ」


 宿屋の受付に座っていた店主の男性にそう答え、フィリスはイロハを抱き上げた。

 その様子に、店主の男は優しい笑顔を浮かべる。


「とりあえず一泊お願いしたいんですけど、部屋空いてます?」


「空いてるとも。昨日まで満室だったんだけどね、良かったよ。訪ねてくれたのが今日で」


「運は良いんですよ。じゃあ一泊お願いします。出来れば二階の手前の部屋で」


「シルキーの。分かった。これが鍵だよ、代金なんだが、顔馴染みとの再会を祝し、おまけして〜」


 再会した宿の主人に提示された石貨を払い、思い出話もそこそこに、ルーキスたちは宿の二階の階段上がってすぐの部屋へと向かった。


 そして鍵を開けて扉を開けると、中からシルキーが飛び出してきた。

 再会を喜んでいるのか、踊るようにルーキスたちの周りを回っている。


「久しぶりだなあ。元気だったか?」


「いっぱいお土産話があるから、ちゃんと聞いてもらうからね?」


 部屋に入って荷物を下ろし、楽な服装に着替えたルーキスたちは再会したシルキーにもゆっくりと旅してきた話を聞いてもらうのだった。

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