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転生したベテラン冒険者はセカンドライフを謳歌する  作者: リズ
最終章 二度目の人生を謳歌するために
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第158話 宿木の街を通り過ぎ

 星空湖の岸辺に広がるオーゼロの街を旅立ったルーキスたちが次に向かったのは、ルーキスとフィリスが初めて挑戦したダンジョンがある街。

 宿木の街【ミスルトゥ】だった。


 ルーキスとフィリスがダンジョンに初めて挑戦した場所であり、二人がイロハと出会った街でもある。

 三人の旅が始まった思い出の街。


 だが、イロハには良い思い出ばかりではなかった。


 犯罪を行う冒険者たち【バルチャー】に連れ回され、こき使われ、暴力を受けていた嫌な思い出も、イロハにはあるのだ。


 オーゼロから旅立って数日。

 ルーキスはそんな街、ミスルトゥの直前で馬車を止めると少し困ったように荷台に振り返った。


「あ〜っと。ミスルトゥに到着したわけだが、どうするイロハ。イロハにとってはあんまりいい思い出はないだろう。無理に街に入らず、通過してもいいと思ってるんだが」


 そう言ったルーキスに、フィリスも頷いて心配そうにイロハを見る。

 しかし、イロハは心配している二人に向かって微笑みながら首を横に振った。


「私はもう大丈夫なのです。確かにこの街には嫌な思い出もありますが。それ以上に、この街はお兄ちゃんとお姉ちゃんに会えた場所で、お二人との旅が始まった出発点なので」


「そうか。なら、あの宿で一泊したら出発しよう」


 ルーキスとフィリスのイロハへの心配、危惧は杞憂だった。

 この一年の旅で、イロハは体だけでなく、ちゃんと心も成長していたのだ。

 まあ、ワイバーンを単独で撃破することが出来る時点で体力も精神面も、十代前半の子供のそれとは隔絶しているのだが。


「失礼。冒険者とお見受けする。ギルドカードを確認したい」


 ダンジョンを壁で二重に囲んだ街の外周。

 街への出入り口で、ルーキスたちの馬車はレヴァンタール王国軍所属の衛兵に止められる。

 検問だ。


 ギルドカードの提示を求められ、断る理由もない。

 ルーキスたちはそれぞれギルドカードを革のカードケースから取り出すと、衛兵に手渡した。


「上級⁉︎ あ、いや申し訳ない。若いのに凄いな君たち」


「色々ありましてね」


 三人のギルドカードを見て驚きを隠せなかった衛兵に、ルーキスは苦笑しながら答えた。

 ギルドカードを確認し、衛兵は三人にカードを返却。敬礼すると、道を開ける。


「ようこそミスルトゥへ。どうぞごゆっくり」


 衛兵の言葉に微笑みながら敬礼し、ルーキスは馬を進めて街に入った。

 そして三人は、以前世話になった大通りから外れてはいるが綺麗に整えられている宿へと向かった。

 

「あれ? 随分と綺麗になってるな」


「あら本当。外観が綺麗になってる。屋根の塗料も柱も塗り直したみたいね」


「儲かってるみたいで安心したよ」


「どっかの誰かが随分と奮発してたもんねえ」


「アレから一年以上経ってんだぞ? 俺の払った石貨だけでこうも綺麗になるもんかよ」


 そんな事を話しながら宿の側に馬車を止め、馬止めに手綱を縛って水を飲ませたあと、三人は宿に足を踏み入れた。


 そこで三人は宿屋の主人と再会。

 部屋は予約必須の特別客室以外は全て満室だったが、宿屋の主人はルーキスたちに特別客室の鍵を渡した。


「ありがたいことだな」


「ルーキスの交渉術のおかげね」


「前もこんな話をした気がするが、これはお互い気持ちよく会話したから起こったことで、別に交渉術なんて大袈裟なもんじゃねえよ。さあ、馬に餌やったら買い出しだ。今日はゆっくり休むぞ」


「はーい」


「了解なのです」


 こうしてルーキスたちは装備を外すとシャツとズボンだけの楽な格好に着替え、宿屋で販売している野菜の切れ端や飼い葉を購入するとここまで一緒に旅してきた馬にそれらを与えた。


 そのあと、餌やりを終えた三人は保存食や、もしもの時のための薬品などを購入するために街へと繰り出す。


 その買い出し中のこと。

 ダンジョンを壁で囲んだ街として有名な街だけあって、森の中にありながら、そこらの街より遥かに冒険者たちで賑わう街という事もあって、ルーキスたちはかなり久しく他の冒険者たちに絡まれてしまう。


「おーいおい。いかんなあこんな可愛い女の子を独り占めしちゃあ」


「なんだなんだ? 顔だけはいいなあ坊主ぅ」


「おー。いやあ、若いっていいなあ」


 ガタイの良い冒険者数人に囲まれても、ルーキスはもちろん、フィリスだけでなく、もはやイロハすら怖じける事はない。


「おい! 無視すんなよ!」


「すまんね。買い出し、いや、デート中なんだ。相手はせんよ」


 そう言って、ルーキスは指を鳴らして魔法を発動。

 冒険者たちの口を開かなくすると、混乱している冒険者たちに手を振ってその場を離れるために歩き出した。

 そのあとを、フィリスが「馬鹿なことしてないで冒険しなさいな」と言い捨ててルーキスに続く。

 そんなフィリスの横に駆け足で近付くと、イロハはフィリスと手を繋いだ。


「なんだか久しぶりねえ。こういうのも」


「確かにな。恋人の顔が良いと困ったもんだよ」


「素直にありがとうと言っておくわ。次はもっといいムードで言ってね」


「はいよ」


 多少のトラブルなんのその。

 ルーキスたちは人でごった返すミスルトゥの街を歩いてまわり、買い出しを済ませ、宿に戻ってのんびりとその日を過ごした。

 

 そして翌日。

 三人は早朝にミスルトゥの街を発った。

 次の街はプエルタ。

 フィリスの故郷、ルーキスとフィリスが出会った場所だ。

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