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転生したベテラン冒険者はセカンドライフを謳歌する  作者: リズ
最終章 二度目の人生を謳歌するために
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第156話 いつか通った道

 再会したエルフの鍛治師。

 ミリーナが目覚めてからの質問の雨霰(あめあられ)はとてつもない物だった。


 店先で倒れたミリーナは手拭いで顔に付着した泥を拭きながら、ジロジロとルーキスたちの装備品を眺めて、身につけている装備や【クレセントノヴァ】の事を聞く。


 街を離れてからの事を根掘り葉掘り聞くでなく、いつ、どこでアルティニウム製の装備を手に入れたのかを聞かれたので、ルーキスたちは土産代わりにロテアでの事を話した。


「ロテアのレグルス陛下とお友達に?」


「最初は兄弟弟子みたいなもんだったんですけどね。祭りに参加した時に殴り合って仲を深めたんですよ」


「人間の男の子たちってたまに意味分からないことするわねえ」


「見てるこっちはどっちか死ぬんじゃないかと思って冷や冷やしましたよ」


 ロテアでの思い出話もそこそこに、ミリーナと談笑するルーキスたち。

 そうこうしているうちに、店にお客がやって来たのでルーキスたちは「そろそろお暇するか」と、店を出るために出入り口の方へと向かおうとする。

 その背中に、ミリーナはカウンター越しから手を振った。


「三人とも元気でねえ」


「お仕事頑張ってくださいねミリーナさん」


「また来ます! お元気で!」


「バイバイなのです」


 以前世話になったミリーナへの挨拶を終え、ルーキスたちは外に出る。

 そして待たせていた馬車に乗ると、ハイスヴァルムの街を出るためにルーキスは御者席で手綱を振った。


「フィリス。コート洗っててくれないか?」


「まあ、突き飛ばした手前断れないんだけど」


「素直でよろしい。じゃあ頼むよ」


 手綱を握ったままコートを脱ぎ、それを荷台に放るルーキス。

 もしこの光景をミリーナのように目の利く鍛冶屋や商人が見たなら卒倒するだろう。

 ルーキスたちが装備している装備品の価値はそれほどの物なのだ。


「ドライアドの森か。すっかり平穏な空気になったもんだな」


 以前、レッサーヴァンパイア絡みの事件が起こっていた森は、すっかり穏やかな空気に包まれて、森を突っ切る街道には往来する通行人や馬車の姿もあった。


 すっかり賑やかになった森の街道。

 そんな街道を進んでいると、ルーキスやフィリス、イロハの鼻に花の蜜のような匂いが漂ってきた。


 そして、フィリスとイロハが座っている荷台に、底から生えてくるように、以前助けたドライアドが現れた。


「助けてくれた人。久しぶり」


「わ、びっくりしたあ。あの時のドライアドよね?」


「なんだか以前よりお姉さんになってるのです」


「森の異変が回復してきて本来の姿に戻ったか? それにしても、わざわざ会いに来てくれたのか。 久しぶりだな」


 フィリスとイロハの声とは違う少女の声が聞こえたので、肩越しに振り返ったルーキスは緑髪のドライアドの少女を見て微笑んだ。


「君から。いや、君たちからもらったイヤーカフには随分と助けられたよ。ありがとう、会えたらお礼を言いたいと思ってたんだ」


「助けてもらったのは私たちも一緒。ありがとう」


「森を抜けるまでしばらく土産話でもどうかな?」


「聞かせて。あなたたちの話」


 というわけで、ルーキスたちは以前助けたドライアドにも、簡単に略してではあるが土産話を聞いてもらった。

 そして森を抜ける直前、ドライアドは葉が舞うように馬車から飛び降りた。


「私はここまで。楽しい話をありがとう。またね」


「ああ。またな」


「森の仲間たちにもよろしく言ってね」


 ドライアドと別れ、ルーキスたちは街道を進んでいく。

 日が暮れたら野宿をし、朝日が登ればのそのそと出発の準備をしながら欠伸をする。

 そんなのんびりした馬車での旅を楽しんでいると、ルーキスたちは湖のほとりに広がる宿場町に辿り着いいた。

 ルーキスたちが挑んだスライムだけが生息するダンジョンがある小さな宿場町だ。

 しかし、以前のように閑散とはしておらず、ダンジョン前には数組の冒険者パーティはいるし、ギルドの出張所には頻繁に人が出入りしていた。

 酒場も暇ではないようで、良い匂いが横を通ったルーキスたちの鼻をくすぐる。


「お〜? 一年でこんな事になるかね」


「前は私たちともう一組だけパーティがいただけだったのにねえ」


「攻略法が知られて挑戦者が増えたんだな。攻略したかいあったなあ。なあ、久々に潜ってみねえか?」


「良いわね。ちょっとは体動かさないと」


 そう言って、ルーキスは馬車を宿の前に止めると中に入った。

 ダンとアンナの夫婦二人が営む、この小さな宿場町で唯一の宿だ。

 お客はいるが、チェックインした客たちはダンジョンに挑戦中か、それとも客室で寝ているのか、受付カウンターの前や小さなエントランスには誰もいなかった。

 いたのは宿屋のご夫妻だけだった。


「すみません。あとで泊まりにくるんで馬車置いてても良いですか?」


「ああええ、構いませんよ? 名簿に名前だけぇ」


 そこまで言って宿屋の夫婦はルーキスたちの事を思い出したのか、目を丸くして驚きの表情を浮かべたかと思うと、カウンターを出てルーキスたちの元へと駆け寄ってきた。


「あんたたちぃ! 久しぶりじゃないかあ」


「元気そうで何よりだよ」


「お久しぶりです。以前はお世話になりまして」


「やだよお、この色男は。あんたたち少し背が伸びたんじゃない? 装備も立派になっちまって。またしばらくここにいるのかい?」


「以前ほど長居はしません。久しぶりに寄ったんで、ちょっとダンジョンに行こうって話になりましてね」


「そんな喫茶店みたいな」


「まあそういうわけなんで、ちょっと馬車お願いします」


 そう言って、頭を下げて宿を出たルーキスたちは久々のダンジョン攻略に向かった。


 しかし、一年で強くなり過ぎた三人は以前は攻略に手こずったダンジョンを、ボス含めて散歩をするような緩慢さで難なく攻略して、その日のうちに宿に戻ったのだった。

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