表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したベテラン冒険者はセカンドライフを謳歌する  作者: リズ
最終章 二度目の人生を謳歌するために
153/168

第152話 ワイバーン討伐依頼

「ウチの新人がすまなかった。教育不足だった、この通りだ」


 海洋都市ペルラオフの冒険者ギルド本部の一室で、そう言って頭を下げたのはこのギルドの長である鷲型の頭部を持つ獣人の青年、アルバ・クティコだった。

 

 そんなアルバにソファに腰掛けているルーキスたちは「いえいえ大丈夫です。気にしてませんよ」と苦笑を浮かべる。


「しかし凄い経歴だな。冒険者登録から一年ほどでダンジョン三つを完全踏破。ミスルトゥの近くで新ダンジョン発見。ハイスヴァルムのセメンテリオ鉱山でレッサーとはいえヴァンパイアを討伐し、吸血女王に弟子入り。我らがレヴァンタール王家に認められ、禁足地入りを許されて、手配されていた盗賊団であるブラッドバイトを壊滅。極め付けはロテアの英雄との決闘で相打ちとは」


 ルーキスたちから聞いた話と、ギルドカードに刻まれた戦績をメモ用紙に書き写しながら、アルバはルーキスたちの経歴にやや引き気味に笑っていた。


「まだ若い一介の冒険者の戯言かもしれませんよ? 信じるので?」


「よく言う。これでもギルドマスターだ。人を見る目はあるつもりだ。なにより君が見せてくれたその王家の徽章入りのブローチは本物だった。それが真実さ」


 言いながら、アルバはメモを置くと座っているソファから立ち上がり執務机に向かって歩いて行ったかと思うと、預かっていたルーキスたちのギルドカードを手に取った。


「初級の冒険者の経歴でコレはもはや規格外だ。本来なら有り得ない事例だが、これから君たちには上級冒険者を名乗ってもらうが、構わないかな?」


 ルーキスたちの座るソファの対面のソファに腰を下ろし、目の前のローテーブルに新しく作られたルーキスたちのギルドカードを置くと、アルバは自慢の嘴を人差し指で掻く。


「あの〜。私とイロハはレグルス陛下と戦ってないんですけど?」


「いやいや。もうそもそも王家や吸血女王に認められている時点で初級冒険者の枠には収まらんのだ。それに君らが壊滅させたブラッドバイトは、王国騎士団や上級冒険者に討伐依頼が出ていた。となればそれを壊滅させた君たちは十分、上級冒険者を名乗るのに値するんだ」

 

 突然の二階級特進と、ギルドカードに刻まれた上級冒険者の文字を見て、冷や汗を流すフィリスに、アルバは説明を続けた。

 

 そんな時、不意にイロハが「特級になるにはどうするのです?」と、ギルドカードを手に持って見ながら誰に向かって言うでもなく呟く。


 その呟きに答えたのはもちろんギルドの長を勤めるアルバだった。


「特級は文字通り特別枠だからね。そうだなあ、超のつく強力な魔物。例えばドラゴンなんかを倒せば特級と認められるだろうなあ」


「あー。じゃあ、俺たち三人とも近々特級になるなあ」


 アルバの言葉にルーキスはこの旅の終着点で待つ年老いたドラゴンの姿を想像し、フィリスを見て苦笑した。

 そんなルーキスや、ルーキスの苦笑に苦笑で返したフィリス、納得したように顔をあげたイロハに、アルバは冷や汗を浮かべる。


「君たち。もしかしてドラゴンに挑むつもりなのか⁉︎ 危険だ! 止めておけ! ただの魔物じゃないんだ! 君たちのような優秀な人材は冒険者ギルドだけじゃなく王国からみても宝、いやそれ以上の希望なんだぞ!」


「そこまで持ち上げられると照れますね。でもまあ挑むわけじゃないんですよ。恋人の家族の仇なんで、討ちにいくだけです」


「勝てると、思っているのか?」


「勝てなかったら師匠にぶち転がされます。その方が嫌です」


 アルバの問いに冗談混じりで笑いながら答えるルーキスと、そのルーキスの言葉にこれまでのクラティアとの特訓で何度も死に掛けた事を思い出して顔を青くするフィリスとイロハ。


 そんな三人を見てアルバはため息を吐くと、再び立ち上がり、執務机の方へ向かうと引き出しを開けて一枚の紙を取り出した。


 その紙を手に、アルバはルーキスたちの前に座ると、その紙、一枚の依頼書をローテーブルの上に置く。


「まだ提示版には貼り出されていない依頼書だ。内容はペルラオフとハイスヴァルムを繋ぐ街道に出没している大型のワイバーンを討伐してくれというもの」


 ソファに浅く腰を掛け、アルバは祈るように手を組んで続ける。


「コイツは遥か西、ムサシの国方面に生息する種で、レヴァンタールでは初めて目撃された種類のワイバーンだ。準龍種と言っても過言ではない。ドラゴンに挑む前にこの依頼を受けてくれないか? そして出来れば、思い留まってくれ。ドラゴンに挑む事がいかに無謀か」


 アルバの言葉に「残念ながら思いとどまることは出来ないね」と、言おうとして、ルーキスはその依頼書に転写されているワイバーンの姿を見下ろしてイロハが肩を震わせているのを見た。


 しかし、怖くて震えているわけではない、その顔には怒りの色が見てとれた。


「どうしたイロハ」


「コイツ。私の村を、村のみんなを、焼いた魔物です」


 かつて、イロハと出会ってすぐのこと。

 ルーキスとフィリスはイロハの村が魔物に襲われ、逃げ出した先で両親と死別したと聞いていた。


 レヴァンタールで初めて確認された個体だというなら、この大型ワイバーンはイロハの村を壊滅させた直接の原因で、イロハの両親を殺した遠因だ。


「村のみんなの仇。コイツは、許せないです」


 この巡り合わせに、ルーキスやフィリスよりもイロハが強く依頼を受ける事を望んだ。


「どうせハイスヴァルムへ行くんだ。ドラゴン退治の前哨戦といこうか」


「受けるのか⁉︎」


「心配してくれるアルバさんには申し訳ないですがね。これは俺たちの問題なんで」


「説得は難しいようだな。分かった。馬車の手配をしておく。使ってくれ」


「ありがとうございます。助かります」


 ルーキスたちの真剣な表情に、説得を諦め、深く肩を落としてため息を吐くアルバ。

 そんなアルバにルーキスは頭を下げて感謝を伝える。


 こうしてルーキスたちは初級冒険者から上級冒険者に昇級し、新たなギルドカードとハイスヴァルムまでの移動手段を手に入れたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ