第151話 帰国と昇級
後夜祭から数日。
闘神祭で破損したルーキスの新防具の修繕をもって、ルーキスたちはついにレヴァンタール王国に帰国する手筈となった。
レグルスと王妃の幼い息子や娘と仲良くなってきた頃の帰国となったので、ルーキスたちは少々後ろ髪を引かれる思いだったが、レグルスが手配してくれた馬車に三人は乗り込んだ。
「妾たちはこのままカサルティリオへ南下する。用を済ませたら尋ねてこい。その時は盛大にもてなそう。抜かるなよルーキス。ちゃんとフィリスとイロハを守るのじゃぞ」
乗り込んだ馬車の扉を閉める前にクラティアから言われ、ルーキスは頷くと「心得ております。お元気で、先生」と笑って見せた。
「今度三人でカサルティリオに行くから。その時は美味しいご飯期待してるわよ?」
馬車の中からそう言って、フィリスがクラティアに拳を突き出す。
そんなフィリスに、クラティアは同じように拳を突き出してニカっと笑った。
「では先生。行ってきます」
「おう。行ってこい弟子たちよ。お主らの道行に我らが父の加護があらんことを」
そのクラティアの言葉を最後にルーキスが馬車の扉を閉めると、御者が馬を進めるために手綱を振った。
カラカラと軽い車輪の音が、ルーキスたちが乗る馬車の荷台に響く。
「ティアならついて来るって言い出すかと思ったけど、意外にすんなり別れちゃったわね」
「自分が手を出したら意味ないって分かってるんだろ」
「まあ。そうなのかしらね」
ルーキスたちを乗せた馬車は宿場町を経由し、数日掛けてカサルティリオ領の港町に到着。
その日の定期便は全て出払ったあとだったので港町で一泊する事になった。
そして翌朝。
ルーキスたちは朝一のレヴァンタール行きの船に乗り南の大陸サウスリークを旅立つ。
「なんだか、あっと言う間だったわねえ」
「割と長い時間滞在してたけど、ほとんど鍛練してたからなあ」
「もうちょっとで先生から一本取れそうだったのです」
「なあ〜。四人掛かりでだったけど、あと少しだったよな」
離れていくサウスリークの大地を眺めながらロテアで過ごした日々を思い返し、ことごとくが師匠の高笑いと理不尽な暴力だった事に苦笑いを浮かべるルーキスたち。
しかし、その間のロテアでの生活も思い出すと悪い事などは何もなかった。
むしろ、三人は再びロテアを訪れたいと、心の底から願っている。
「しかし、レグルス陛下がドラゴン退治に軍を派兵するって言い出した時は焦ったな」
「同盟国とはいえねえ。流石に軍の越境行為はマズイわよねえ」
「それも目的が俺たちの喧嘩への加勢じゃなあ」
海風に吹かれ、波に乗り、船はゆっくりとレヴァンタール王国最大の海洋都市ペルラオフへと向かって進んでいく。
晴れた空に浮かぶ白い雲をぼんやり見上げ、話をしているうちに少しずつ太陽が傾き、空がオレンジ色に染まって、昼寝をしているうちにルーキスたちの頭上に満天の星空が広がる。
さすがに冷えるからと船室に向かい、ユラユラ揺れる船の中で眠ったルーキスたちは、翌朝にわかに騒がしくなってきた船員たちの会話や足音で目を覚ました。
ペルラオフに到着したのだ。
「帰ってきたなあ」
「帰ってきたわねえ」
「帰ってきたのです」
接岸作業中の船の上、甲板からペルラオフの街並みを眺めるルーキスたち。
三人は接岸作業が終わるのを待って荷物を担ぐと久方ぶりの祖国の地面を踏んだ。
「お前はようこそだな。相棒」
「ちょっとルーキス声抑えないと」
「ん?」
「武器に話しかけてる変な人に見えるわよ?」
「うーむ。確かに」
港にごった返す人混みの中、そんな事を話しながらルーキスたちは馬車を探す。
目的地はここから北。
霊峰セメンテリオの麓に広がる鍛治師の街、師匠二人と再会した街、ハイスヴァルムである。
「直通の馬車ってあるのかしら」
「地図で見る限りだが、ペルラオフとハイスヴァルムは街道で繋がってるからなあ。直通あると思うんだが」
ペルラオフの冒険者ギルドにて、移動がてらの護衛依頼を探すため、提示版の前に立ち、依頼書を物色しているルーキスたち。
しかし、どの護衛依頼もペルラオフから東の街に行くものや、北には向かうがハイスヴァルムまでは行かないもので、直通はなさそうだと判断し、ルーキスたちは北上ルートの馬車の護衛依頼を受領する事にした。
「すみません。この依頼、三人で受けたいんですけど」
冒険者ギルドの受付に、ルーキスを先頭に後ろにフィリスとイロハを連れて依頼書を提出する。
「かしこまりました。では、ギルドカードを提出してくださいね」
ギルドの受付であるウサギの耳を生やした獣人族の綺麗なお姉さんに言われるままに、ルーキスたちはギルドカードを革のカードケースから取り出して提出する。
ガラスで出来た宝石箱のような専用の鑑定用魔導具にて、ルーキスたちのギルドカードを鑑定、確認するギルドの受付嬢。
そんな彼女が鑑定をしながら顔を上げると、不思議そうな顔をして「こちら昇級が可能ですが、どうなさいますか?」と聞いてきた。
「ああ〜。そういえば忘れてたな。昇級ってすぐ出来ます?」
「同意があればただちに」
「じゃあ、お願いします」
「かしこまりました」
そう言って、ウサギ耳のお姉さんは受付の後ろの壁にある扉から奥の事務室へと向かって行った。
「いつからギルド行ってないっけ?」
「ハイスヴァルムからだな。あのあと西に行って村で越冬して、薔薇の森に行って、で、南下して東に行ってこの街に来たけど、ギルドには行かずに海越えて〜。だからな」
「初級の冒険者のまま随分と旅したわね」
などと話していると、ウサギ耳のお姉さんが血相変えて駆け足で戻ってきた。
「あの⁉︎ あなたたちのパーティがブラッドバイトを討伐したのですか⁉︎ 他にも薔薇の森での魔物の討伐記録や隣国ロテアでの戦闘記録があるのですが⁈」
受付嬢から話を聞くに、ギルドカードの機能の一つに冒険者の活動を記録するものがあるらしい。
それが昇級鑑定の際に表示されるらしく、今回ルーキスたちは溜まりに溜まった魔物や盗賊の討伐記録が表示されたらしい。
「ルーキスさんロテアのゼファー王と試合して相打ちしたって本当なんですよね⁉︎」
「ああ。ええまあ」
興奮気味な受付嬢にやや引き気味のルーキスたち。
「仕事しろ馬鹿。何やってんだお前は」
そんなルーキスたちと受付嬢の間に割って入ったのは、このペルラオフの冒険者ギルドのギルドマスター。
顔が鷲の形をした鳥型の獣人族の青年だった。




