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第149話 ルーキスVSレグルス

 レグルスによる闘神祭の開催宣言から始まった武闘会は大盛況だった。

 喧嘩の延長のような個人同士の試合。

 

 被った依頼をどっちが受けるか決めるために冒険者パーティ同士でチーム戦を繰り広げる者達。


 どっちが優れた騎士かを決めるためにレグルスの臣下も試合に望んだ。


 それをルーキスたちは箱席で、レグルスは王族専用の箱席で楽しげに眺めている。


「冒険者の国って言われてるだけあって皆なかなかに鍛えられてるな」


「近くにダンジョンもあるしな。山にはまだ魔物たちも蔓延っておるし、ロテアの冒険者は強くなければ廃業するしかないから皆必死なんじゃよ」


 用意された個人用のソファに腰掛け、試合を眺めていたクラティアがルーキスの言葉に手に持っていたワイングラスを口に運びながら答えた。

 

 しばらく入れ替わり立ち替わりで開始される試合を観戦していると、ルーキスたちの箱席に昼食のサンドイッチを乗せたカートを燕尾服をきたリザードマンの青年が運んできた。

 いつのまにか正午を過ぎていたようだ。

 

 しかし、運ばれてきたサンドイッチを、ルーキスは一切れ、二切れと食べただけで手を止める。


「もう食べないの?」


「陛下との決闘が控えてるんでな。満腹にするわけにはいかんだろ」


 フィリスの言葉に答え、ルーキスはソファに深く腰を掛けて目を閉じる。

 レグルスの戦い方はクラティアとの鍛練の際に確認している。

 生まれ変わった息子との初めての手合わせだ。

 ルーキスもレグルスも、お互いに高揚していたが、ルーキスはその高揚感を抑え込むために目を閉じて意識を集中させていた。


 そして、予定されていた試合が全て終了したのか、闘技場に誰も出てこなくなった頃合いを見て、レグルスが愛用の鎧を装着し始めた。


「そろそろ出番かな?」


 ルーキスたちの箱席からレグルスの様子は見えなかったが、事前に預けていた新防具が先程のリザードマンの青年によって運ばれてきたので、ルーキスも装着を始める。

 すると、レグルスが愛剣二本を手に闘技場に飛び降りた。


「皆! 今年の闘神祭は楽しんでいるか!」


 拡声魔法で張り上げられたレグルスの声と、レグルスの鎧姿に大歓声を上げる観客たち。

 その様子にレグルスは嬉しそうに笑っていた。


「皆には既に伝わっているであろうが! 今回の闘神祭は特別な意味がある! 私は遂に国祖ベルグリントの転生体と出会えたのだ! 彼はまだ若いが、我が師にしてカサルティリオの魔王陛下のお弟子である! そして何より国宝であった【クレセントノヴァ】が使い手として彼を選んだ! 紹介しよう! レヴァンタールの冒険者! ルーキス・オルトゥスである!」


 闘技場の中央に移動しながらそう言って、レグルスはルーキスが防具を装着し終わったのを見て、ルーキスたちがいる箱席を指差した。


 その一連のレグルスの行動に、ルーキスは苦笑いを浮かべる。


「さて。息子からのお誘いだ。ちょいと行ってくる」


「いってらっしゃい! 頑張ってね!」


 フィリスの応援にガッツポーズをしたルーキスは、レグルスのように相棒である大斧を担いだまま闘技場に飛び降りた。


 その姿に、客席から歓声が上がる。


「ベルグリント様が転生していると知った時から! 私は彼の転生体と戦いたいと願った! その願いが! 今日! この闘神祭で叶う! どうだ! 皆んなも見たいだろう!」

 

 レグルスの声で、その日一番の大歓声が起こった。

 コロシアム全体の雰囲気に呑まれ、盛り上がっている観客席に座った観客たちは足で床を踏み鳴らす。

 その音が地鳴りとなって響いた。


「いい空気だ。熱いね」


「はっはっは! そうだろう、そうだろう! さあやろう! 私は我慢の限界だ!」


「怪我しても泣くなよ? 馬鹿息子」


「そっちこそな! 合図! 鳴らせえ!」


 担いだ斧を両手で掴むルーキス。

 それを見て愛剣を構えると、レグルスは叫び、その声に試合開始の合図を担当していた騎士が、銅鑼(ドラ)を叩き鳴らした。


 その音で、ルーキスとレグルスは同時に駆け出した。

 様子見は無し。

 お互いに最初から全力で正面対決を望んだのだ。

 その様子に、箱席でクラティアが爆笑していた。

 レグルスが観戦していた箱席でも、王妃が嬉しそうな夫の顔を見て微笑んでいる。


「行くぞ相棒! 全力だ!」


 ルーキスが大斧に魔力を注ぎながら振り下ろした。

 すると振り下ろされた斧の片刃が展開、魔力で生成された炎を吹き出しながら加速した一撃がレグルスを襲った。


「なんのこれしきいぃ‼︎」


 ルーキスの一撃を避ければ良いのに、それをせず。

 身体強化魔法を全開で使い、愛剣二本も強化して、真正面から受け止めたレグルス。

 そのレグルスの足元、闘技場の地面が割れて捲れ上がった。

 ルーキスの力に、硬い地面が耐えられなかったのだ。


「うわあ。こわ」


「魔物相手なら木っ端微塵かも知れませんね」


 箱席で観戦中のフィリスとイロハが冷や汗を浮かべていた。

 そんな二人と違い、クラティアとミナスはどこか満足そうに弟子同士の戦いを眺めていた。


「楽しそうじゃなあ」


「実際楽しいんじゃない? 転生体とはいえ親子だし」


 ルーキスが斧を振るたびに、レグルスが剣を振るたびに、風圧が観客席を襲うが、熱狂している観客はお構いなし。

 二人の攻防に大盛り上がりだった。


 レグルスが距離をあけると、ルーキスは大斧を投擲。

 避けてもルーキスが繋いだ魔力で斧を引き寄せるのだから堪ったもんじゃないと、レグルスは剣を斧に叩き付け、地面に食い込ませてルーキスに襲い掛かるが、ルーキスは魔法も使うし徒手での戦闘もこなす。


 そんなルーキスにレグルスは心底嬉しそうに笑っていた。

 

「これがベルグリントの転生体! いや、ルーキス!」


「そうだ。今の俺はベルグリントじゃない。ルーキスだ。言っておくがベルグリントより、強いぞ」


 二人の戦いは勢いがとどまることを知らず、平らだった闘技場の地面は次第に穴だらけ、瓦礫だらけになっていく。


 お互い傷も増え、鎧も損傷していった。


 それでも二人は攻撃の手を止めない。

 お互いの体力が尽きて動きが鈍り、お互いの首筋に刃が突き付けられるまで戦いは終わらなかった。


「強いな。流石は冒険者の国の王様」


「その私と互角、いやそれ以上の君こそ強者だ」


「まだ、やるか?」


「もちろん」


 お互い満身創痍、そんな二人が最後に選んだ一撃は武器を手放しての拳での一撃。

 リーチの差を埋めるため、深く踏み手を伸ばしたルーキスに、レグルスは拳を顔面目掛けて振り抜く。


 同時に被弾する両者。


 二人はその場で崩れるように倒れると、仰向けになりオレンジ色に染まり始めた空を見上げて満足そうに笑みを浮かべて目を閉じたのだった。

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