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転生したベテラン冒険者はセカンドライフを謳歌する  作者: リズ
第一章 転生と出会い、そして始まり
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第14話 ギルドにて

 宿屋に併設された酒場にて、女主人メリダの特製ハムたまごサンドイッチを堪能したルーキスとフィリスは出掛ける準備をして、宿を出ようと受付に顔を出した。

 受付カウンターで宿の主人を呼び、フィリスは出掛ける事を伝え、ルーキスも出掛ける旨と一日だけでは無く、連泊する事を主人に伝えてとりあえず十日分の料金を主人に渡す。


「確かに受け取ったよ。あえて言うような事でも無いのだろうけど、気を付けてね」


「ありがとうございます。では、行ってきます」


 バックパックは部屋に置き、ルーキスは回復薬の入った壺を小脇に抱えてフィリスと共に宿を出た。

 カウンターの向こう、やって来た娘を抱えて宿屋の主人がまだ十代の少年少女の身を案じ、心配そうな表情を浮かべて手を振る。

 そんな主人の真似をして、娘も二人に向かって小さく手を振った。


 ルーキスとフィリスは振り返って二人に手を振り、宿屋の扉を閉める。


 そこからほんの少し歩いたところで、ルーキスは自分達に向けられている視線の気配を感じ、もう一度宿に振り返る。


 そんなルーキスの様子にフィリスも振り返った。


「どうしたの? 何か忘れ物?」


「いや、忘れ物はしてない。ほらアレ、あの子にも手を振ってやらないと」


 ルーキスの視線は宿の二階。

 フィリスの部屋の窓を見ていた。

 そこからシルキーが手を振り、少し悲しそうな顔で二人を見下ろしていたのだ。


「まったく、ちゃんと帰って来るってのに」


「そうだな」


 家憑き妖精シルキーが憑いた家から離れる事はない。

 それ故に、あのシルキーが悲しそうな顔をしているのは二人について行きたいという感情からではなく、宿屋の主人と同じく二人を心配しての事からきた表情だった。


 そんなシルキーにルーキスは手を上げ、フィリスも怖がっていた割には、なんだかんだで聞こえるかどうかも分からないのに「大丈夫よ、帰ってくるから」と言って手を振った。

 

 そして二人は改めて冒険者ギルドへ向かう。


 白い雲が漂う抜けるような青空の下、大通り横の歩道の雑踏をすり抜けるように歩いていく二人。

 

 今日の予定を話しながら歩いていると、いつの間にやらギルドに到着したので、ルーキスは壺を持って受付に向かい、フィリスは手頃な依頼がないか探しに受付横の依頼書が貼り付けられている掲示板へと向かって行った。


「失礼。常駐依頼の回復薬の納品をお願いしたいのですが」


「回復薬の納品ですね? ありがとうございます。回復薬はどれだけあっても困らないので助かります。ではギルドカードの提示をお願いします。回復薬はその壺に?」


「壺の中身が回復薬です。すみません、小瓶とか持ってなくて」


「いえ、専用の容器に移しかえるので寧ろありがたいです。では鑑定を行いますのでしばらくお待ち下さい。ギルド内でお待ちになりますか?」


「いや。この後依頼を受けるので外に出るつもりです」


「かしこまりました。では帰還した際に受付に申し付けてくださいね? 壺もお預かりしますので」


「わかりました。お願いします」


 買い取り専用のカウンターの上に壺を置き、ルーキスはポケットからギルドカードの入ったカードケースを取り出して受付にて対応してくれた狼型の獣人族の女性にそれを確認してもらう。


「ルーキス・オルトゥスさんですね。では後ほど」


 買い取りの手続きを終え、ルーキスはフィリスを探すために買い取りカウンターと逆側に位置する依頼掲示板の方へと歩き出した。

 今日もギルド内は依頼を探す冒険者達で盛況だ。


(前世のギルドの受付は男だろうが女だろうが基本的に無愛想だったが。ああも丁寧になるものなんだなあどういった経緯でこうなったのかは知らんが。悪くないな。依頼に行く前から苛つく事が無くなる)


 現在のギルドの在り方と、前世のギルドの様子を思い返してルーキスは満足してか口元に手を当て、微笑みながらフィリスを探す。


 赤毛の少女だ。特に珍しいという髪色ではないが、ルーキス含めて誰から見ても可憐と言えるくらいには顔立ちが整った彼女の事を見間違える事はなかった。


 だがその可憐さが災いとなったか、フィリスは掲示板の前で男性冒険者数人に何やら言い寄られていた。


 フィリスの手には依頼書が握られているが、どうやらその依頼の取り合いをしているわけではないというのが男達の「手伝ってやるって言ってんじゃん」「俺達とパーティ組もうぜ」と言うナンパにも似た文言から理解できる。


(割って入ると面倒くさい事になりそうだが、助けないわけにはいくまいて)


 苦笑を浮かべて肩をすくめ、ルーキスは真っ直ぐに「だから貴方とは行かないって言ってるじゃない」と男達に言い放ったフィリスの元に向かった。


「駆け出しが。下手にでてりゃあ良い気になりやがって」

 

 フィリスの言葉とナンパ失敗に苛立ったか、男達の内の一人がフィリスに掴み掛かろうとした。


 それをルーキスが間に割って入り男の手を掴む。


「うちのパーティメンバーが申し訳ない。先輩諸兄、何かありましたか?」


「あ? なんだテメェ」


「ほんの数秒前に言ったでしょうに。この子とパーティを組んでいる者ですよ」


「おおそうかい。今からこのお嬢ちゃんは俺達とパーティ組むからよぉ。すっこんでろや!」


(ああ。やっぱり面倒な事になった。って言うか、なんて悪役みたいな台詞を吐くのか。典型的過ぎて笑えてくるな)

 

 そんな事を思いながら、ルーキスが呆れて苦笑を浮かべそうになった時だった。

 ルーキスの腕にフィリスが自分の腕を組んできた。


「すっこんでるのはそっちよ! 私達はパーティ組んでるって言ってるでしょ! 分かったらどっか行って!」


 フィリスの剣幕に後退る男達。

 しかし、彼らも冒険者の端くれ女に言われっぱなしでたまるかと声を上げようとするが、この時ルーキスが手の平を叩き魔法を発動。男達の口を塞いだ。


「な、何したの?」 


「口封じの魔法だ。本来はこんな使い方しないんだが、いまはこれで良いだろう。お兄さん達、これ以上難癖つけるなら一生そのままにするけど、良い?」


 フィリスの疑問に答えた直後、ルーキスは苦笑いを浮かべたまま男達に言うと、もう一度手をパンッと叩く。


 それに合わせて男達が青ざめた顔で仲間と顔を見合わせながら「は、話せる」「大丈夫、だよな」と話せる事を確認するとルーキスを見たまま後退ると。


「お、覚えてろよ!」


 と、悪役のような台詞を吐き捨ててどこかへ行ってしまった。

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