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第148話 ロテア闘神祭

 クラティアからフィリスの祖父の仇である龍種の情報を聞いた数日後。


 激しさを増した特訓で気を失ったルーキスたちを回復魔法で傷を癒した上で、クラティアは地面に寝ているルーキスたちとレグルスにバケツをひっくり返したような勢いの水を魔法でぶっ掛けた。


「勝てない」


「当たり前じゃド阿呆。しかしまあ随分やるようになったものじゃ。妾に多少は傷を付けるようになったじゃないか」


「その代償に何回死にかけたか」


「良い鍛練になったであろう?」


「おかげさまで」


 最初に目を覚ましたルーキスはクラティアにそう言うと、斧を杖の代わりにして立ち上がり、三人が目覚めるまでにもう一手、師匠に相手になってもらおうとして身構えた。


 しかし、いつもなら意地の悪いニヤけ面でそんな弟子を相手取るクラティアが、珍しくため息を吐くと肩をすくめて手に持っていた鎌を自分の影に捨てるように放り込んだ。


「鍛練はここまでじゃ。明後日から始まる闘神祭とうしんさい。主賓が疲れておっては世話ないからの、明日はゆっくり休め。そして、息子の生まれ変わりと精々競うが良い。妾は特等席で弟子たちの成長を見届けさせてもらうよ」


「はいおばさま! このレグルス、精一杯努めます!」


 クラティアの言葉に答えたのはルーキスの次に目を覚ましたレグルスだった。

 仰向けに倒れていた状態から勢いよく跳び上がり、レグルスはクラティアではなく、ルーキスを見つめる。


「明後日だ! 遂に私の長年の夢が叶う!」


「お手柔らかに、とは言いません。明後日は全力で」


「うむ! 全力でな!」


 ルーキスと握手をしたレグルスの大声で目覚めたフィリスとイロハを助け起こし、ルーキスは二人に鍛練終了を伝える。


 その後、ルーキスは汗を流しにレグルス、ミナスと、フィリスとイロハはクラティアと共に大浴場へと向かった。


 その翌日。

 ルーキスたちは鍛練が無いという事で、体を癒すためにゆっくり寝ていると突然鳴り響いた破裂音で目を覚ました。

 一年に一回行われるロテアのお祭り、闘神祭の開始を告げる爆竹や魔法で打ち上がった花火の音だった。


「あれ? 祭りの開始って明日じゃなかった?」


「先生の話だとそうだったけどな」


 寝ぼけ眼を擦り、起床したルーキスは出入り口まで移動すると、扉からひょこっと顔を出し、巡回中だった騎士に声を掛け、破裂音の事を聞く。


「ああ。アレは国民たちが先走って始める前夜祭の合図みたいな物で、毎年恒例になってるんですよ。街は既に音楽隊やら、舞踊やら、各種催し物で賑やかになってますよ」


「へえ〜。そうなんですね。ありがとうございます。すみません引き止めてしまって」


「いえいえ。むしろ話し掛けて頂けて光栄でした。それでは私はこれで」


 ルーキスの疑問に丁寧な対応をしてくれた騎士は敬礼すると、鎧をガチャガチャ言わせながら巡回経路を再び歩き始めた。


 それを見送り、ルーキスは部屋に戻ってフィリスに騎士から聞いた事を伝え、破裂音をものともせず爆睡しているイロハのはだけているシャツを直した。


「前夜祭かあ」


「行ってみるか?」


「うーん。いや、いいや。この前みたいに騒ぎになっても嫌だし」


「フィリスとイロハだけで行けば大丈夫じゃないか?」


「本気で言ってる? 嫌よ、アナタと一緒じゃないなんて」


「そうか。まあ確かに明日は外に出るわけだしな。今日はちゃんと休むか」


 というわけで、前夜祭を行っている街にはいかず、時折聞こえる破裂音を聞きながら自室で過ごした。

 

 そして更にその翌日。

 遂にロテアの闘神祭が開始される。

 

 ルーキスは【クレセントノヴァ】を手に、フィリスとイロハは装備は持たず、レグルスや師匠夫妻と共に馬車でコロシアムに向かっていく。


 騎士たちに先導され、辿り着いたコロシアム周辺は人が押し寄せていた。

 騎士たちが道開くために住人を誘導しなければ馬車は進む事も出来ないほどだ。


「すげぇなこりゃ」


「この人たち全員ルーキスと陛下の決闘見にきたのかしら」


「もちろんそれだけではないぞ? 闘神祭とはよく言ったもんでな。このコロシアムでは我こそはという冒険者や城の騎士も参加して力と技を競うのじゃ。レグルスへの挑戦権を賭けてな」


「騎士たちも?」


 レグルスは専用の馬車に乗っているので、ルーキスたちはその後ろから別の馬車で移動している。

 その馬車の中で、クラティアの話を聞いたフィリスが首を傾げた。


「騎士たちが出るのは露払いを兼ねた鍛練みたいなもんじゃよ。とはいえ祭りは祭り。怪我をしても回復して、戦いたいもの同士を戦わせるのが闘神祭じゃ」

 

「荒っぽいお祭りねえ」


「男というのは馬鹿でな。とくに冒険者には自分が最強だと信じて疑わない奴も多い。そういう血の気の多い奴らは定期的に血を抜いてやらんと問題を起こしかねん。それを解消するために始めた祭りだそうじゃ」


 そんな話をしていると、押し寄せた観客たちが入っていくゲートとは違うゲートに馬車が入っていった。

 そのゲートでルーキスたちは馬車を降ろされ、レグルスはコロシアムの円形闘技場の方へ向かっていく。


 一方でルーキスたちは円形闘技場の観客席の一番前にある貴族用の箱席に案内されたのでそこに腰を落ち着けた。


 それを闘技場の出入り口から確認したレグルスは、出入り口から闘技場の中央へ向かって歩いていく。


 レグルスが現れた瞬間。

 ほぼ満席の観客席から大歓声が上がる。

 そんな大観衆の真ん中で、拡声魔法を使用したレグルスが祭りの開始を宣言するために声を張り上げた。


「待たせたな! 皆、今日は存分に楽しめ! 長々と話すつもりはない! 年に一度の闘神祭! 開催だあ!」


 観客の歓声を割らんばかりの大声に、さらに観客たちのボルテージが上がる。

 こうして闘神祭は開始されたのだった。

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