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第145話 お祭りの準備

 ルーキスたちが、レグルスと共に何度目かのクラティア攻略戦でぶち転がされたあと。


 いつものように大浴場で疲れを癒していると、ルーキスと談笑していたレグルスの元にルーキスたちの装備の手直しを手掛けているレギンがやって来てルーキスたちの装備の手直しが完了した事を伝えた。


「完成したか!」


「はい。御言い付け通り、各種付与魔法も織り込んでおります」


「ご苦労であったなレギン! いつもすまん!」


「いえいえ。陛下の剣の整備に比べれば幾分かはマシです。よくもまあアレだけボロボロに」


「相手が相手だ! 許せ! どうだレギン、お前も疲れただろ! 一緒に入るか?」


「風呂はあとでいただきます。まずは陛下の剣の整備をしませんと」 


 そう言って、レギンは浴室の出入り口に立て掛けられたレグルスの剣二本を手に取ると、ため息を吐いて浴室をあとにした。


「なんでレグルス陛下は毎回先生との鍛練に付き合うのです?」


 湯に浸かり、満足そうにしていたレグルスに、ルーキスはそう言って濡れた髪を掻き上げ、浴槽のふちに腰を掛けた。

 そんなルーキスに、レグルスは振り向く事なく胸の前で腕を組むと白磁と見紛うばかりに磨かれた天井を見上げて首を傾げる。


「正直なところ分からん! だが、何故かそうしたいと感じたのだ! 頭で考えたのではない! 君と同じ方向を向いて、共に敵と戦いたいと思った!」

 

「敵って」


 苦笑しながら、ルーキスは前世で息子のレナードがよく自分に向かって言っていた言葉を思い出していた。

 

「いつか父さんと一緒に、強い魔物と戦いたい!」

 

 結局、息子だったレナードが冒険者になる頃にはベルグラントやシルヴィアのパーティたちが村の周囲で暴れていた強力な魔物は倒し尽くしていた為、ベルグラントは息子の討伐依頼について行くことはあっても、共闘することなどは無かった。

 

 レナードもまた恵まれた体格と才能のおかげで若くして強者の位置にいたため、並の魔物なら単独で討伐が可能だったのだ。


 そして、レナードの二つの夢は叶うことなく、父とは死別することになってしまった。


「前世での夢か」


「おそらく! 私の前世、レナード様の魂が君と、父と一緒に戦いたいと願ったのだろう! そして、同じくらい私は君と戦いたいとも思っている!」


 レナードのもう一つの夢。

 単純な夢だ。

 強い父を超えたい。

 

 死別と同時に一生叶えられなくなった夢。


 それが時を越えて叶えられるかも知れない。

 生まれ変わった父は少年の姿だが、力は自分に並ぶかそれ以上。

 ならば今世こそはと、レグルスは思ったのだ。


「ならやろう。俺も、陛下とは手合わせをしてみたい」


「機は熟した! 新装備の試用を兼ねて、後日コロシアムにて決闘だ!」


「勿体ぶりますね」


「当たり前だ! こんな機会はもう無いかもしれない! ならば、楽しまねばな!」


 思い立ったが吉日、というよりは元より構想を練っていたのか、レグルスは勢いよく立ち上がると担当の従者に体を拭かせ、同時にアレコレ言いながら浴室を出ていった。


 その翌日から、何やら城内が慌ただしくなったかと思うと、クラティアとの鍛練に向かう際、廊下の窓から城に入ってくる馬車や竜車が見えた。

 

 どうやら商業ギルドの一行のようだ。

 馬車や竜車に石貨と羽ペンが描かれた旗が掛かっていた。


「レグルス陛下。応対しなくてよろしいので?」


「構わん! その辺りの話は既につけてある! あとは我が妻や臣下たちが上手くまとめてくれるさ!」


「レグルスゥ。(まつりごと)を他人に任せきりにしてはいかんぞ?」


「先生が言っていい事じゃないですね」


 茶化したクラティアに、ルーキスがツッコミを入れた。

 そんなルーキスにクラティアは「それもそうじゃな」と、満面の笑みを浮かべる。


「さあて、今日はルーキスを集中的に狙ってやろうかねえ」


「フィリス、イロハ。悪い、死んだわ」


「魔物も鳴かねば討たれないって言うのに」


「頑張ってお兄ちゃんを守るのです」


 こうして無事? 今日はルーキスが最初に鍛練を離脱することになるまで転がされることになった。

 気絶しているうちに時間は夜。

 レグルスたちは先に休みに行ったらしい。


 フィリスに膝枕をされていたルーキスが目を覚ました時には月が雲の切れ間から覗いていた。


「大丈夫?」

 

「天使が見えるから、俺は死んだらしい」


「大丈夫そうなのです」

 

 ルーキスを心配そうに覗き込むフィリスとイロハにそう言って、ルーキスは再度目を閉じてフィリスの膝枕を堪能する。

 

「両手の骨折もちゃんと治ってるみたいね。さすがはティア。内臓はどう? 吐血凄かったけど」


「俺最後の方どうなってたんだ。覚えてないんだけど」


「お兄ちゃん、先生の鎌は防いだのですが、その鎌を放した先生に拳撃でボコボコに、最後はお腹に両手で掌底を喰らってました」


「よく生きてたなあ俺」


「本当にね。さあお風呂行きましょう。ティアが『明日は休みじゃ』だって」

 

「休みか。なら街を見て回りたいな」


「良いわね。行きましょう。でもまずは休まないとね」

 

 こうしてルーキスたちはレグルスやクラティア、ミナスに遅れて湯浴みをし、食事を用意してもらうと自室に戻ってベッドに潜り込んで眠りに落ちたのだった。

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