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第142話 ルーキス(ベルグリント)とフィリス(シルヴィア)

 かつての相棒。両手持ちの大斧、バトルアックス【クレセントノヴァ】を手に入れたルーキスと、装備を借りたフィリス、イロハの一行は、ロテアの王、レグルスに招待され、城の晩餐室にて豪華な食事を振舞われた。


 師匠夫妻に海辺の高級レストランでご馳走してもらった料理も豪華だったが、城で振る舞われる物となるとまた別で、主に魔物からとれる貴重な部位の料理などが並べられた。


「美味しかった〜」


「ですです。羽牛の心臓が、弾力があって食べ応えがありました」


「サンドスコーピオンの鋏もプリプリで美味かったなあ」


 案内された城の一室。

 客人を泊めるためのその部屋で、ルーキスたちはしばらく晩餐に出された豪華な食事の余韻に浸り、ソファに座ってくつろいでいた。

 

 開いた窓から見えるのは残念ながら城を守る防壁だけで、景色といえば星空くらいしか見えない。

 テラスに出れば綺麗な庭は見られるが、イロハはそうもいかないようで、満腹になったからか、しばらくソファに座っていると、その心地よさからかうつらうつらと、船を漕ぎ始めてしまった。


「イロハ。眠いなら寝てもいいぞ?」


「はい〜。お先に、寝るのです〜」


 ルーキスの言葉によろよろソファから立ち上がり、バックパックから寝間着を取り出してイロハが着替えようとしたので、ルーキスは優しく微笑むと、ソファから立ち上がってテラスに向かい、同じくしてフィリスもイロハの着替えを手伝うためにソファから立ち上がった。


「じゃあ、おやすみ。イロハちゃん、いい夢を見てね」


「お二人と、一緒にいられるなら、夢なんて、見なくても」


 天蓋付きの広いベッドに横たわったイロハに毛布を被せ、傍かたわらに腰を下ろしたフィリスがイロハの腹をポンポンと撫でると、イロハはあっという間に眠りに落ちてしまった。


 そんなイロハを愛おしそうに見下ろし、フィリスはイロハの頭を撫でるとベッドから立ち上がり、ルーキスがいるテラスへと向かっていく。


「ねえ。いつから私がシルヴィア様の生まれ変わりだって知ってたの?」


「ハイスヴァルムで初めて先生たちにあった時だよ。二人が寝てる時に聞いた」


 ルーキスがフィリスに対し、違和感のような懐かしさを感じたのは出会ってすぐの事だったが、それが何故なのかは分からなかった。

 師匠夫妻と偶然再会しなければ、ルーキスはフィリスが前世の妻だとは気付かなかっただろう。

 

「ティアの話。本当だと思う? 私の前世がシルヴィア様で、ルーキスの前世がベルグリント様だって話」


「先生が嘘を言う理由がないからな。本当なんだろうな」


「私とルーキス。前世では夫婦だったなんて」


「嫌か?」


「ル、ルーキスは?」


 テラスの手すりに肘を付き、階下の庭を見下ろしながら話を聞いていたルーキスの横に並び、星を見上げながらフィリスが顔を赤くした。


 答えなんて分かりきっているのに、それでも、その答えをルーキス本人から聞きたくて、フィリスはルーキスの答えを待ったのだ。


「嫌なわけないだろ? 俺は嬉しいよ。前世で妻だった君にもう一度会えて、こうして一緒にいられる事が、俺は嬉しい」


 ルーキスはそう言うと伸びをして腰に手を当てるとフィリスが見ていた星空を見上げた。

 前世で見上げた星空と変わり映えしない、二百年後の星の海。

 

 そんな星空を見上げるルーキスの横顔を見て、フィリスは顔を赤くしたまま一歩、横に進んでルーキスに寄り添う。


「ルーキスとの出会いは運命だったのかな」


「ああ〜。いや、運命というか、天命だったんだろうな。神様が、俺たちを引き合わせてくれたんだ」


 転生の際、ルーキスが願ったのは気楽な人生だ。

 もしフィリスと出会わず、別の女性と結ばれたなら、脳裏にいつまでも前世の妻シルヴィアの顔がチラついていただろう。

 

 そうなった場合、果たしてルーキスが気楽に人生を謳歌出来たかと問われれば、答えは否だ。


(気楽な人生を願った結果が、この状況だってんなら。神様には感謝しかないな)


 そんな事を思いながら、ルーキスは隣に寄り添うフィリスに手を伸ばして肩を抱いた。

 そのルーキスの手にフィリスは頬をすり寄せる。


「ねえルーキス。いつまでも一緒にいてくれる?」


「ベルグリントは、シルヴィアと病気で死に別れた。俺はベルグリントの生まれ変わりだが、ベルグリントと同じ轍を踏むつもりは無い。この命が尽きるまで、俺は君と一緒にいるつもりだ、今度こそな」


「嬉しい。じゃあ私も、ずっと健康で生きられるように頑張らないとね」


 顔を見合わせ、二人はどちらから言うでもなく口付けをして身を寄せ合った。

 

 そして、ルーキスはかねてよりいつか言おうと思っていた事を言うために口を開く。


「仇を討ったら。一度俺の故郷に行かないか?」


「そ、それって」


「両親に俺の恋人を紹介したいんだ。それに、帰ってくる時は恋人を連れて帰ってこいって言われててな。それでさ、そのあとフィリスの両親にも会ってさ。準備が整ったら、結婚しよう」


「ルーキス」


 ルーキスの言葉に喜んで、フィリスがルーキスを見つめたまま笑顔を浮かべるが、ふと何かを思い出したのか「あ」と声をあげると、フィリスが眉をひそめた。


「どうした? いやか?」


「ちが! 違うわ! それは嬉しい! 嬉しいけどさ。ほら、よく言うじゃない。冒険者が危険な依頼の前にプロポーズすると死んじゃうって」


「あ〜。今もあるのかその迷信。でもまあ、俺たちのドラゴン退治は別に冒険者として依頼を受けて行くわけじゃない。どっちかっつうと喧嘩だしな。迷信も見逃してくれるさ」


 そう言って、ルーキスは笑いながらコツンと自分の額をフィリスの額に当て、続けて額にキスをする。


 そんなルーキスにフィリスは苦笑し、二人揃って部屋に戻って寝間着に着替え、イロハの眠るベッドに潜り込むとルーキスを真ん中にして、三人並んで眠るのだった。

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