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第141話 レグルスからの贈り物

 ロテアの宝物殿にて、かつて愛用していた両手持ちの大斧を手に入れたルーキスは「ドラゴンと戦うのだったな!」というレグルスの言葉に頷いた。


「見たところ、衣服は最高品質! しかし、防具の類はドラゴンと対峙するには不十分と見うける! ルーキスくんには【クレセントノヴァ】があるが、フィリスさんや、そっちの鬼人族のお嬢さんにはドラゴンに対する武器がないのも問題だな!」


「それはそうなんですが、ドラゴン相手だと生半可な武器はともかく、防具は無いも同然だと思うので」


 祭壇の前からルーキスが戻ってくる前に、レグルスの近くにいたフィリスが答えた。

 そんなフィリスに笑顔を浮かべるが、レグルスは静かに首を横に振る。


「確かにドラゴンなどの強力な魔物と相対する時! 生半可な防具などは無いも同然だ! 丸呑みにされればどんな強固な鎧だろうが意味はなさない。巨躯にのし掛かられたなら、抗うことすら出来ずに押し潰され、強力な竜の息吹は鎧の中身を瞬く間に消し炭に変えるだろう! しかし、それでもあえて言うが防具は重要だ!」


「そうだな。吹っ飛ばされた時、皮一枚で攻撃を避けた時、状況が常に変わっていくのが戦場だ。そういう時に生死を分けるのは確かに防具の良し悪しではある」


「そこでどうだろう! この宝物殿から武具を貸そうと思うのだが」


 レグルスの言葉はルーキスたちからすれば願ってもないものだ。

 最高品質の武具など、集めようとすると莫大な時間と金銭を要する。

 それはそれで良いのかも知れない。

 生涯を掛けて仇を討つために装備を揃えて万全の状態で戦いに挑む。


 しかし、人生は一度きり。

 運良くルーキスは二度目の人生を前世の記憶を持った状態で送っているが、次は間違いなくこの人生の記憶は綺麗さっぱり無くなっているはず。

 ならば、この運良く手に入れた二度目の人生を悔いなく、もう一度好きになった前世の妻と共に、最後まで謳歌したい。

 子供や孫の成長を見ながら、二人でのんびり暮らすには生涯を復讐に費やしている場合ではない。


 そう考えて、ルーキスはレグルスに頭を下げると「目的達成の為に、その進言、お受けします。寧ろこちらから、お願いいたします」と、言って顔を上げて真っ直ぐレグルスの目を見た。


「こちらから言っておいてなんだが、一つだけ条件がある!」


「なんなりと」


「三人とも揃って武具を返しに戻って来ることだ!」


「分かりました。その条件、必ず守ります」


「うむ! ではこっちに来てくれ! 【クレセントノヴァ】ほど純度は高くないが、アルティニウムと魔物の素材で造られた武器と、私含め祖先たちがダンジョンで手に入れた強力な防具がある!」


「レグルス陛下がダンジョンに?」


「うむ! 暇な時など、たまに体を動かしにな!」


 フィリスの疑問に笑いながら答えると、レグルスはルーキスたちを引き連れて祭壇のすぐ後ろにある最高級品を保管している区画に向かっていった。


「先生。どれが良いと思いますか?」


「ん? そうさなあ、ドラゴンとの戦闘において、機動力を損なう重装備はナンセンスじゃ。となれば、お主らが好む軽装備で、更に魔法の加護が掛かった物が良い」


 案内された区画の様々な装備品を眺めながら、イロハがクラティアに聞いた。

 そんなイロハのために、クラティアは説明をしながらイロハ向けの装備にと胸当てや脚甲を選んでいく。


「おお⁉︎ ちょうど良い、イロハ、これを装備してみよ」


 そう言ってクラティアが棚から取り上げたのは白基調に金装飾が施された打突用のガントレットだった。


 そのガントレットは今までイロハが使用していた物とは違い、イロハの拳から肩までを覆う物で、肘あたりには魔法を付与できる魔石が間接を曲げる為の部品として組み込まれている。


「ちょっとサイズが大きいのです」


「ロテアには腕の良い鍛冶屋もいる! 少し時間は掛かるが寸法直しは問題ないぞ!」


 クラティアとイロハのやり取りを聞いていたレグルスが、装備を選び始めたルーキスたちにも聞こえるように声を上げた。

 その声に、ルーキスは苦笑いを浮かべ「返しに来ても装備出来なくなるんじゃないですか?」と冗談ぽく聞くが、レグルスは「それは一向に構わない!」とルーキスに笑みを向けた。


「帰ってきた武具は我が友たちを助けた装備として、将来博物館にでも飾るさ」


「それは、ちょっと恥ずかしいな」


「何を言う! 祖先の生まれ変わりである君たちとその家族を助けた武具となれば、それもロテアの歴史の一つになる! しかも相手はドラゴンだ! 私には歴史にその名と功績を残す義務と責任があるのだ!」


「歴史書に転生がどうのって書くつもりで?」


「生き証人であるおばさまやおじさまがいるからな! お二人が言うには私自身もベルグリント様のご子息であるレナード様の生まれ変わりだと言うし! 今更だぞルーキスくん! すでに歴史書には私が転生者だと刻んだあとなのだから!」


「思いついたら即行動なところは、レナードと変わらんな」


 レグルスの言葉に、苦笑したあと呟くと、ルーキスはフィリスと共にクラティアの助言を得ながら装備を選んでいく。

 こだわったのは耐久性と魔法が付与出来るかどうかで、装備を選び終わり、宝物殿から出て地下から一階に戻った頃には窓からオレンジ色の空が覗いていた。


「ではこれらの装備を全て手直しするように手配してくれ! 私は客人を夕食に案内する!」


「はっ! 了解致しました!」


 レグルスの言葉で、夕刻にも関わらず、近衛の騎士たちはルーキスたちが選んだ装備を抱えてどこかへ駆けていった。

 

「明日には皆の体を採寸しに鍛冶屋が来るだろうから覚えておいてくれ! さあ食事だ、案内しよう! おばさまとおじさまも勿論食べていかれますよね!」


「おうとも。ありがたく頂くよ坊や」


 そのクラティアの返事を聞いて、レグルスはルーキスたちを連れて客人に食事を振る舞うための晩餐室へと向かって歩き出したのだった。

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