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第140話 相棒との再会

 ロテアの王、レグルスに事情を話したルーキスたちはロテアの王城の宝物殿へと向かっていた。


 レグルスの案内で階段を降り、通路を進んでいくルーキスたち。


 その地下通路は地下とは思えないほどに天井や壁に埋め込まれた魔石で明るく照らされている。


 しばらく歩き、辿り着いたのは玉座の間の扉より厳重に守られている大扉の前。


「陛下。ようこそおいでに。そちらの方々は」


「ご苦労! 彼らは私の友人で、我が祖先の生まれ変わりだ! 【クレセントノヴァ】が欲しいと言うのでな! 連れてきたのだ!」


「あ、あれはロテアの国祖、ベルグラント様が扱われていた我らがロテアの国宝でございます。いくらご友人とはいえ」


「この者、ルーキスはその国祖、ベルグリントさまの生まれ変わりぞ! 【クレセントノヴァ】を扱えんわけ無かろう!」


 宝物庫を守る全身鎧の獣人族の騎士の心配をよそに、レグルスは自信満々でそう言うが、その後ろでルーキス自身は「使えなかったらどうするかなあ」と思いながら冷や汗を浮かべていた。


 そんな心配をしているルーキスのことなどつゆ知らず。

 レグルスと宝物殿を守る騎士は「あのベルグリントさまの生まれ変わりですか⁉︎」「うむ! 我が祖ベルグリントさまの生まれ変わりだ!」と大盛り上がりである。


「分かりました。では宝物殿の封印を解きます」


 守衛をしている騎士はそう言うと、一礼して振り返り、扉に手を翳して魔法を発動した。

 それにより扉に掛かった封印と、勝手に触ると様々な攻撃魔法が発動する魔法を解除したうえで、騎士は腰に掛けていた宝物殿の扉の鍵を開錠していく。


「随分と厳重ですね」


「もちろんだ! ここには二百年という歴史そのものが詰め込まれている! 【クレセントノヴァ】だけではない! 祖先がダンジョンで手に入れた宝も! 討伐した強力な魔物から作られた武具も! そして思い出も! 全てここに収められているからな!」


 ルーキスの言葉に答えると、レグルスは笑い、宝物殿の扉に手をかざして魔力を送った。

 その魔力を感じ取り、ゆっくりと大きな扉が開いていく。


 見た目には両開きの扉が、上にスライドして開いた先は、まさに宝の山だった。

 様々な武具はもちろんのこと、金細工の装飾品や、宝石がはめ込まれた壺やらが棚に整然と大部屋いっぱいに並べられている。


「お、おお凄えな」


「うわあ」


「宝の山なのです」


 普通に暮らしていたならば、一生お目にかかれないほどの財宝の数々に舌を巻くルーキスたち。

 そんなルーキスたちの前で、クラティアは腕を組み「まだまだじゃな」と、勝ち誇ったような笑みを浮かべている。


「さあ! 入ってくれ! 求めているものはここにある!」


 そう言って、レグルスは明るく部屋を照らす白い石壁の宝物殿に足を踏み入れた。

 その宝物殿に敷かれた赤い絨毯ですらが高級品だというのが、ルーキスはブーツ越しに感じた感触からも理解していた。


 キョロキョロと、宝の山を見渡しながら歩いていくルーキスたち。

 しばらく歩いていくと、武器などしか保存されていない区画に辿り着いた。

 その真ん中に、あたかも特別ですと言わんばかりに祭壇に両手斧が刃を下に立てらているのをルーキスたちは見つけた。

 その両手斧は柄から刃に掛けて全て白一色に染め上げられており、刃と刃の間には赤い宝玉が金枠にハメ込まれていた。


「これが国宝【クレセントノヴァ】だ! どうだルーキスくん! 何か感じるかい?」


 何か感じるか、どころではなかった。

 二百年前、前世で長らく愛用していたその両手斧を前に、ルーキスは長年会わなかった親友に再会したような懐かしさを感じていた。


「私でも持つ事は出来るのだがな! 振ろうとするとまるで駄目なのだ! 大地でも縫い込んだのかと思うほどにその重量が増す!」


 そう言ってレグルスは祭壇の階段を登ると、その斧を手にして再び階段を降りてルーキスに差し出した。

 使える物なら使ってみろ、というよりは是非使っているところを見せて欲しいと言わんばかりに目を輝かせている。


 その顔は、まるで少年のようだった。


「さて、果たしてお前は俺を覚えているかな?」


 と、ルーキスがレグルスから差し出された斧に手を伸ばし、柄を握り、レグルスが斧から手を放した瞬間だった。

 一人でに動いた斧がルーキスの顔面を打った。

 正確には両刃の間にはめ込まれた赤い宝玉がルーキスの額に直撃したのだ。


「イッテエ! コイツ、久しく会った相棒に何しやがる!」


「お、おお! 意思を持つと言われた【クレセントノヴァ】が一人でに! 凄い! 私はもちろんのこと、私の父や祖父でも起こらなかった現象だ!」

 

 言いながら、レグルスは目を輝かせて斧を抑え込もうとしているルーキスを見ていた。

 ともすれば、ルーキスの行動は演技に見えなくもないが、皆が見ている前でそんな道化を演じることに意味はないのだ。


「これはルーキスくんが真にベルグリント様の生まれ変わりである何よりの証左! 素晴らしい! こうして合間見えた奇跡、感謝しますおばさま!」


「ふむ。こうも動く物だったか? なんぞ、魔物化しとる気配じゃな。いや、精霊憑きか。まあともあれルーキスを魂でベルグリントだと正しく認識しているようじゃ。よかったなルーキス」

 

「良かったは良かったですけど。まさか再会して間もなく一撃もらうとは思いませんでしたよ。この二百年でなんて変容をしてんだか」


 怒っているのか、ルーキスに握られているはずの斧が再度ルーキスの額を狙って動いたが、今度はルーキスも頭突きで反撃した。

 そんな、やりとりを笑顔で眺めるレグルス。


 しかし、そんなレグルスの対面、ルーキスの後ろでその様子を見ていたフィリスは困惑の表情を浮かべていた。

 

「ルーキスがベルグラントさまの生まれ変わりで、私がシルヴィアさまの生まれ変わりなんて。じゃ、じゃあ私たち前世でも」


「ああそうじゃ。お主らは前世でも恋仲で、夫婦だったんじゃよ」

 

 フィリスの呟きに答えたのはクラティアだった。

 ルーキスの様子を眺め、口元には笑みが浮かんでいる。

 そのクラティアの言葉で、フィリスは顔を耳まで赤くしていた。

 ともすれば、頭から蒸気でも出そうなほどに真っ赤になったフィリス。

 

 そんなフィリスの前で、ルーキスは再会した相棒を抑え込み、振れないと言ったレグルスから少し離れ、祭壇の前の開けた空間で小枝を振るように両手斧を片手で振り回す。


 そしてすっかり大人しくなった相棒を肩に担ぐと、ルーキスは心底嬉しそうな笑みを浮かべ、フィリスに向かっては少し困ったような、イタズラがバレて叱られたあとの気まずそうな笑顔をうかべたのだった。

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