第139話 ルーキスとレグルス
遂に生まれ育った地、ロテアに辿り着いたルーキスたち。
そのロテアの王であるレグルスは、なんとルーキスの前世、ベルグリントの息子、レナードの生まれ変わりだった。
クラティアの突然の暴露で混乱するルーキスたちだったが、そんな中、レグルスは笑みを浮かべ、一歩、また一歩とルーキスたちに近付いていく。
「君たちが我が国の祖であるベルグリントさまとシルヴィアさまの生まれ変わりか! なんという僥倖! 神に感謝せねばならんな! すまない、よく顔を見せてくれないか!」
息子であったレナードは真面目で素直で、悪く言えば馬鹿だったが、このレグルスからも似た雰囲気を感じながら、ルーキスは「先生、横を失礼します」と言いながらクラティアの横を通ってフィリスと共にレグルスの前に立った。
「私たちがベルグリントさまやシルヴィアさまの生まれ変わりだと、信じるのですか? ロテアの王よ。私たちですら信じられないというのに」
「はっはっは! 当たり前だ! おばさまが私に嘘を言う理由が無いからな!」
清々しいほどの笑顔を浮かべているレグルスに、あえて記憶がある事を言わず、ルーキスは苦笑しながらレグルスを見上げた。
血族というだけあってか、どこか息子の面影がある目元に、ルーキスは懐かしく感じて込み上げてくる物を必死に抑える。
「申し遅れましたロテアの王よ。我が師、クラティアさまから紹介されました通り、私はルーキス。ルーキス・オルトゥスと申します」
「あ、わ、私はフィリス・クレールといいます。お会い出来て光栄ですレグルスさま」
「他人行儀だな! 君たちは我が祖先の生まれ変わりなのだ! ならばこのロテアは故郷も同然! そして我々は血の繋がりこそないが家族だ! この城も我が家と思ってくれて構わないぞ!」
「お、王族の方と家族同然なんて恐れ多いですレグルスさま」
レグルスの言葉に恐縮し、冷や汗を浮かべるフィリスの横で、ルーキスも困った、というよりは少し元気すぎる我が子孫に苦笑した。
そんな二人にレグルスは屈託のない太陽のような笑みを浮かべる。
「困らせてしまったか! すまない、祖先の生まれ変わりに出会えた奇跡に浮かれているのだ! 許せ! ところで、何かわけあって我が国を訪れたのではないか? おばさまから送られてきた使い魔からは【クレセントノヴァ】を使わせろと聞いた!」
「ええと。少し長話になりますが、よろしいですか?」
答えたルーキスの言葉に、腕を組み、上を向いてレグルスは思考を巡らせると「手短に頼む!」と言ってルーキスたちを再び見下ろす。
「あー。じゃあ端的に。フィリスの家族がドラゴンに殺されて、仇討ちにアルティニウムで作られた武器が使いたいんで、貸して欲しいんですけど」
「家族の仇討ちか! うむ! 私は一向に構わない! しかし、あの斧【クレセントノヴァ】は血族の私でもまともに扱えん! 持っていけるかは君次第だ!」
「じゃあ早速、斧のある場所を教えて欲しいんですけど」
「分かった! 案内しよう! ついて来てくれ!」
と言って、玉座の間の扉目指して歩き始めた。
それを見て、焦った様子で玉座の側にいた近衛兵たちが扉を開けるために全力で走り出す。
そんな中で、一人の近衛兵だけは玉座から立ちあがろうとする王妃に手を伸ばし、王妃と共にゆっくりと扉に向かって歩き始めた。
近衛兵が二人で両開きの扉を開け、レグルスの行く通路に並ぶが、レグルスは扉の前で足を止めるとルーキスたちと王妃を待つ。
そして後ろから歩み寄ってきた王妃に向かって「部屋に戻って休むかい?」と、先ほどまでとは打って変わって静かな物腰で優しげに聞いた。
そのレグルスに、王妃は落ち着いた声で「食事の用意をさせます。お客様たちをおもてなししませんと」と、レグルスの腕に自分の腕を絡めながら言って身を寄せた。
「ありがとう。頼むよ」
「陛下たちにご無礼がないようにね。アナタ」
「それは無理じゃな」
王妃の言葉にレグルスが答えるより先に、クラティアが二人の後ろから茶々をいれて笑った。
その様子を、ルーキスたちは微笑ましく思いながら眺める。
「さあ! では着いてきてくれ! 目指すは城の宝物殿だ!」
冒険にでも出掛けるのかという勢いで言うと、レグルスは王妃と別れて歩き出した。
そのあとをルーキスたちはついて行く。
近衛兵たちは二人がレグルスの脇を守るように並んだが、残り数人は王妃の警護にあたった。
「流石はベルグリントさまとシルヴィアさまの生まれ変わりだけはある! 背から感じる気配は唯人のそれではないな!」
「当たり前じゃ。妾のしごきを耐え抜いた子らぞ?」
「おばさまの鍛練をですか⁉︎ それはすごい! 期待出来ますな!」
「期待?」
宝物殿に向かって歩くレグルスが、振り向いてもいないのにルーキスたちにはっきり分かる声量で話かけてきた。
その言葉に、ルーキスはなんとなく素敵な予感を覚える。
「こうして出会えたのだ! 手合わせしたくないかルーキスくん!」
「やっぱりですか。したいか、したくないか、で言えば、したいです」
「はっはっは! 流石は、というべきだな! ではこのあと、いや。食事の用意もあるし。また日を改めて手合わせ願おう!」
ルーキスの返答に、レグルスは心底楽しそうな笑顔を浮かべた。
まるで子供だ。
子供が大好きな玩具を与えられたような。
そんな笑顔だった。
それはルーキスも同じだ。
奇跡の再会を果たした息子との手合わせ。
それも今代では冒険者の国を治めた王にして英雄。
その強さを体感出来るまたとない機会に、ルーキスはレグルス同様に心躍らせていたのだった。




