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第138話 ロテアの王城。子孫との邂逅

 揺れの少ない馬車の荷台から見る景色はルーキスからすれば信じられないものだった。


 木と藁屋根で作られていた家屋から石壁とガラス窓で作られた家屋へ、土を踏み固めたガタガタ道から石畳で綺麗に舗装された道路へ。


 乱雑に思い思いに建てられていた家屋たちは区画整理されて整然と。


 小さな村から巨大な都市へ。


「二百年、か」


「うむ。村を興したベルグリントが生きた時代より二百年でロテアはここまで発展した。今やこの大陸で異種族同士が分け隔てなく暮らす事が出来るほどには教育や法整備も進んでおる」


「良い国に。なったのですね」


 街行く人々の顔には笑顔が溢れ、困っている者には声を掛けているのが窓から見えた。

 道路、通路も綺麗なもので、プエルタの街で若い冒険者たちがそうしていたように、ゴミを拾ったりしているのも見える。


 豊かな街並みを眺めるルーキスたちを乗せ、馬車は王城の方へと進んでいった。


 しばらくすると、馬車はとある広場を通過する。

 その広場の片隅に噴水が設置されているのだが、その噴水の中央に石像が建っていた。


 ある二人の人物の石像だ。

 斧を地面に立てて握る筋骨隆々の男性の石像と、その男性に肩を抱かれて寄り添う女性の石像。


「先生。あの像は、ベルグリントの子孫のものですか? 立派な体格だ。今のロテアの王とお妃の石像でしょうか?」


「あれはお主ら、ああいや。ベルグリントとシルヴィアの像じゃよ。国祖を祀る為のものじゃ。とはいえ再現率がちとなあ。本物はもうちょっと細身じゃったわ」


 カッカッカ! と、意地の悪い顔で笑い声を上げるクラティアの言葉に、ルーキスは外の石像をもう一度見て前世の自分の若い頃を思い出そうとする。


 しかし、ルーキスとして生きてそろそろ十七年。


 前世の自分の顔はハッキリとは思い出せず、ややモヤが掛かったような解像度だったが、それでも「あんなに凛々しくはなかったがなあ」と昔の自分を思いながらルーキスは苦笑した。


 馬車は進み続け、そして遂に一行は王城の前に辿り着く。


 装飾の少ない、どちらかと言えば砦に近い無骨な城。

 その城を護るように囲んだ石壁には、両刃の大斧の前で盾と交差する剣が刻まれた国章が縫われている縦長の垂れ幕、バナーが四枚垂れ下がり、ユラユラとはためいている。


「堅牢な造りですね。まるで要塞だ」


「実際堅いぞ? 造りたてホヤホヤの頃、戯れに攻めてみたが、なかなかのもんじゃったわ」


「何してんですか先生!」


「ど阿呆。演習の一環じゃよ。攻められてみんと問題点も分かるまい。まあ他国に攻められた事なんぞ無いんだがな」


「そりゃ、魔王と同盟組んでる国なんて誰も攻めんでしょ」


 などと話していると、城の門の前で止まっていた馬車が、進み始めた。

 どうやら入城の許可を得ていたようだ。

 鎧に身を包んだ屈強そうな獣人族の男たちが執事のように畏まって頭を下げているのが馬車の窓から見えていた。


 石壁の門から城までは一直線に石畳の道が敷かれている。

 左右は壁で、単に真正面から突入しようものなら石壁に開いた覗き穴から魔法や弓などで迎撃されかねない。

 壁の上に設置された大砲や、魔力を込めて強力な魔法を放つ魔導砲も全て壁内に砲口が向いている。


 攻める意思なし。

 防御に徹し侵攻せず。


 この国。ロテアの基本理念である。

 とはいえ『攻めたなら覚悟はしておけ』と、他国には強く言い放っているらしい。


 カサルティリオに吸血鬼の女王が君臨しているように、ロテアには冒険者の枠を超えた英雄が君臨しているのだ。


 ベルグリントの子孫であり、魔物相手に一騎当千を誇るロテア最強の冒険者にして英雄王。

 

 そんな傑物が、玉座の間を訪れたルーキスたちを笑顔で迎えた。

 体格の良い筋肉質な中年の男だった。

 短い茶髪の髪に青い目。

 軍服に近い礼服に身を包み。

 王らしからぬというべきか。

 王冠は頭に乗せず、二つ並んだ玉座には座らず。

 

 左右に近衛兵を並べ、玉座の前から伸びる赤い絨毯の真ん中で仁王立ち。


 そんな夫の後ろには王妃が困った顔で玉座に座していた。


「おばさま! おじさま! お久しぶりにございます! ようこそおいで下さいました!」


「おおレグルス! 相も変わらず喧しいのお主は!」


「おじさま? おばさま?」


 ロテアの王。レグルスの言葉に応えたクラティアの後ろでフィリスがその声量に気圧されながら口を開いた。

 その言葉にクラティアは振り返ると珍しく苦笑する。


「ベルグリントの子らがな、妾たちの事をずっとそう呼んでおったんじゃが。それが子々孫々定着しおってな。言っても治らんから諦めたわい」


 言いながら、クラティアはフィリスの隣に立つルーキスに視線を移すが、ルーキスはその視線からそっと目を背けて子孫であるレグルスを見た。


 そしてその強靭そうな身体の内に、ルーキスは懐かしい魂を感じて、目を見開き、驚嘆することになる。


「気付いたか。レグルスはベルグリントの息子、レナードの生まれ変わりじゃ。記憶は無いがな」


 ルーキスが言う前に、クラティアが言い放ったので、ルーキスはもちろん、フィリスも驚いて声を上げそうになるが、間髪入れず、クラティアがレグルスに向けて口を開く。


「今日は妾の新たな弟子を連れてきたぞレグルスよ。ルーキスとフィリスじゃ。お主が死者の泉で呼び出せんかった二人。ベルグリントとシルヴィアの生まれ変わりじゃよ」


「ちょ、先生⁉︎ ここで言うんですか⁉︎」


「え? は? 私とルーキスがなんて?」


 クラティアの言葉にざわめく近衛兵たち。

 慌てふためくルーキスと、耳を疑い、ただひたすらに混乱するフィリス。


 クラティアの横でなんとも言えない困った表情を浮かべるミナスの後ろでは、イロハが隣に立つルーキスとフィリスを見て目を輝かせ。


 そしてレグルスは、一瞬真剣な表情を浮かべたかと思うと口角を吊り上げてなんとも嬉しそう顔で笑っていた。

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