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第137話 冒険者の国

 ルーキスが目に映る風景に懐かしさを感じ、前世の記憶を元に現在地はどの辺りかと考えていると、ルーキスの横に座っているフィリスが外を見て口を開いた。


「なんだろう。初めて来るはずなのに。私、この風景を見た事がある気がするわ」  


 その言葉に、ルーキスはハッと息を飲み、目を丸くして、フィリスの方を見る。

 

 フィリスはルーキスの前世、ベルグリントの妻の生まれ変わりだが、ルーキスのように記憶を持ったまま転生したわけではない。

 

 だとしても、夫の元に嫁ぎ、永らく暮らした国の風景は魂に刻まていたのだろう。

 

 フィリスは何故か馬車の窓から眺める山やその麓に広がる森、平原やそこに咲く花を見て懐かしさを感じて無意識に一筋の涙を流した。


「もしかしたら、前世の記憶なのかもな。フィリスは昔、この辺りに住んでたのかもしれないぞ?」


 君は前世でも俺の恋人で、この辺りに住んでいたんだ。

 とは言えず、ルーキスははぐらかして言うと、振り向いたフィリスに手を伸ばし、フィリスの頬に触れると流れた涙の道筋を拭って微笑んだ。


「デジャブ、ん? デジュヴュじゃったか? まああれじゃ既視感ってやつよな。因みに妾は理由を知っとるが」


「え? ティア。もしかして私の前世を知ってるの?」


「知っておるとも。どんな形になろうとも、魂の形は変わらんからな」


「私の前世って」


「今は言わん。もっと面白い場で教えてやる」


 そう言って笑ったクラティアの顔はとんでもない意地悪そうなものだった。

 先にフィリスの事について教えられているルーキスからしたら、たまったもんじゃない。


 余計なことは言って欲しくないが、クラティアの事をよく知っている身からすれば、それは叶わないだろうと、どんなタイミングで何を言うのかを予想し、ルーキスはどんな事があってもフィリスをフォロー、もしくは言い訳が出来るように考え始めた。


「もったいぶるわね」


「それほど妾たちには重要だと言うことよ」


 胃がイテェ。

 と、ルーキスが腹部を抑えて冷や汗を浮かべていると、馬車が少し傾いた。

 どうやら坂道を登っているようだ。

 窓から見るに丘に差し掛かったようだった。


「そろそろ到着じゃな」


 坂道だというのに速度が衰えない馬車の中。

 呟いたクラティアの声にルーキスは座席に深く腰を掛けたまま、窓から空を仰いだ。

 するとその視界に、装甲を取り付けられたワイバーンの姿を見る。


「竜騎兵」


「おお。ロテアからの出迎えじゃな」


「竜騎兵を持てるほどに豊かなのですね。ロテアは」


「そうさな。前にも言ったが、小さな村から始まったロテアという国は今や我がカサルティリオに次ぎ、レヴァンタールと肩を並べる大国よ。とくと見るが良いアレが、冒険者の国、ロテアである」


 そう言って、クラティアが窓の外を指差した。

 ルーキスからしてみれば反対側、フィリスの座っていた方向だ。

 対面に座っているイロハもクラティアの言葉で、ルーキスたちと指差されたほうの窓を見た。


 丘から見下ろす山に囲まれた盆地に広がる巨大な都市。

 山を背に城が建ち、その対面には円形闘技場、コロシアムが盆地に広がる城下町を見下ろしている。


「あの城の場所」


「吸血鬼の観光案内じゃ。あの城がある場所、あそこには昔我が弟子の棲家があった。それが二百年経って今や立派な堅城よ」


「ここがロテア。大きな街」


「昔はあの城の辺りにしか村はなかったんじゃがな。どうじゃルーキス。何か感想はあるかい?」


「な、何をどう言えばいいのか。二百年でそんなに変わりますか」


「ここら一帯で暴れておった凶暴な魔物たちはベルグリントが一掃したからの。その後の発展は目覚ましいものじゃった。もしベルグリントの子らが先祖の言いつけを破り、過度な開発をしていたら滅ぼさにゃならんかったがな」


「あの子たちは。ベルグリントの子供たちはちゃんと約束を果たしたのですね」


「うむ。この街を訪れた転生者から様々な技術は取り込んでいたが、世界のバランスを崩すかもしれんような開発、発明をする時は逐一妾に報告をしてきよった。結果はご覧の通りの大繁栄さね」


 巨大な山脈と山脈間に広がる巨大な湖。


 その見覚えのある風景の中に広がる全く知らない都市と前世の未開発だった頃の風景を重ねて、嬉しいやら悲しいやら、なんとも言えない感情をルーキスは抱えていた。


 ただ、そんな風景の中に一つ、見覚えは無いが、心当たりがある物を見つけた。


 それはなんて事ない城の側に生えている一本の木。

 丘から見ても巨木と分かるほどのその木の生えている場所にルーキスは覚えがあった。


 それというのも、前世を生きていた頃の晩年。

 息子や娘、孫たちに送った自己満足の類いだが「私が死んだら、この木を私だと思いなさい」と自宅近くの空き地に苗木を植えた事があったのだ。


「いやはや。まさか私が再会するとはね」


「ルーキス?」


「ああいや。なんでもない。デカい木が生えてるなあって思ってな」


「わ。本当。ミスルトゥの大木くらいあるんじゃない?」


 都市を見下ろし、ルーキスたちを乗せた馬車は丘から降り始めた。

 面影は景色のみで全く知らない土地に来たような感覚だったが、一本の木の存在で、ルーキスは故郷に帰ってきた事を実感する。


 途端に溢れ出す前世の記憶に浸りながら、ルーキスは再び前世で死に別れた妻と、この地に辿り着いた奇跡に感謝し、感動したのだった。

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