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第135話 ルーキスたちの新衣装

 決して軽くない食事を終えたルーキスたちは日が高いうちに馬車の確保をしようとして、師匠夫婦に別れを告げようと席を立った。


 しかし、立ち上がったルーキスに手をかざし、クラティアは魔法を発動するとルーキスを無理矢理座らせた。


「そう慌てるな。移動手段なら妾が手配してやる」


 そう言うと、クラティアはテラスの入り口付近に立っている支配人を呼ぶと何やら小声で耳打ちする。


「分かりました。直ちに」


「料金はいつものようにな」


「心得ております」


 クラティアの言葉に丁寧に頭を下げ、支配人は足早に一階へと向かっていく。

 そのやり取りを見て、ルーキスはバツが悪そうに顔をしかめた。


「先生。フィリスとの仇討ちは俺たちの問題です。先生の手を煩わせるわけには」


「違うな。間違っておるぞルーキス。これは妾が楽しむためにやっておる事よ。気にするでない」


 こう言い出したら、もう何を言っても聞いてくれないことは分かっている。

 

 ルーキスはフィリスと顔を見合わせると苦笑いを浮かべて肩をすくめた。

 

 そのあとしばらく食後の冷たい紅茶を味わいながら歓談していたところ、支配人がテラスに現れて「準備が整いましたのでこちらへ」と、言ってルーキスたちに頭を下げた。


 しかし、支配人のあとをついて行くものの、支配人は店の外にはいかず、店の奥の個室へと向かっていったのでルーキスたちは足を止めたが、追い抜いていったクラティアに魔法で胸倉を掴まれて引っ張られていった。


「あの先生、どこへ?」


「お主らを正式な弟子としてロテアの王に紹介するつもりなんでな。それなりの格好をしてもらう為、衣服をあつらえたんじゃ。ここから先はそれを着てもらうぞ?」


「別にロテアの王に会わなくたって」


「たわけ。お主、ああいやベルグリントの斧はロテア城の宝物殿にあるんじゃぞ? まさか盗むつもりじゃったのか?」


「そんなつもりはありませんよ。そもそも俺はどこにあの斧があるのか知らなかったんですから」


「どうだか。まあとりあえず、今は新しい服を選んで着替えて身なりを整えよ。それが終わったら出発じゃ」


「え。ついて来るんですか?」


「さっき妾の弟子として紹介するって言ったじゃろうが。話聞いておったか?」


「一応聞いてはいましたけど」


「なら早う選んでこい!」


 そう言って、クラティアは指を鳴らすと魔法でルーキスを個室に放り込み、フィリスとイロハを連れて別の個室へと向かっていった。


「まったく。師匠は過保護だな」


「許してやってくれ。まだ浮かれてるんだよ。死んだ弟子が二人して一緒に戻って来てくれたんだからね」


「ミナス先生もそうだったりします?」


「当たり前だろ。長い間生きてきて、こんな奇跡には遭遇した事ないんだから」


 そう言うと、ルーキスと個室に入ったミナスは冒険者用の衣服の中でも高級品とされる魔物の素材で作られ、なおかつ服飾魔法師によって強度強化や、温度調整、疲労軽減などの付与魔法エンチャントが施された衣服が掛けられたハンガーラックの前に立った。


 ただの衣服、衣装じゃないというのはルーキスから見てみれば一目瞭然で、恐らくは上等な鎧と近しい価値のあるそれを手にとって固まってしまった。


「うわ。やば」


「支配人にティアが何か言ってだけど、随分とまあ」


「この服一式買うのにどれだけ時間が掛かるのやら」


 ルーキスは自分好みの黒基調、鈍い金色の装飾が施されたコートを手に取りハンガーから外した。


「今の君たちならすぐ稼げるでしょ」


「だとしても、高い服買うのは躊躇ためらいますよ」


 言いつつも、ルーキスは気に入った黒いコートの裾に手を通した。

 そして、セットの黒いズボンと白いシャツを合わせて手に取る。


「それにするかい?」


「そうですね。これにします」


「分かった。じゃあ僕は外にいるから着替えたら出ておいで。慌てなくていいからね」


「了解です先生」


 ミナスが外に出たのでルーキスは着ていたコートをいったん脱ぐと選んだ服を着ていった。

 それまで服を着ていた時はじんわり暖かく、汗ばみそうだったルーキスだが、新しい衣装に身を包んだ途端に体温が最適化されていく。

  

「おおスゲェ。前世の頃より付与魔法も発展してるんだなあ」


 新しい衣装の着心地と、機能性を確かめて、ルーキスはバックパックを肩に担いで外に出た。

 しかし、待てど暮らせどフィリスとイロハが別室から出てこない。

 ああでもない、こうでもないとクラティアの声が聞こえてくるあたりどこかへ行ってしまったというわけではないらしい。


「女子の買い物は長いよねえ」


「ですねえ」


 ルーキスが着替えを終えてからどれくらい経っただろうか。

 しばらくすると、部屋の扉が開き、中からフィリスが顔を出した。


「はよう行かんかたわけ」


「ちょっと押さないでよ! まだ心の準備が出来てないんだから!」


「何を生娘みたいな事言うとるんじゃ! はよ行け!」


「なんで私が生娘じゃないって分かるのよ!」


「やかましいわ! 妾を誰だと思っておるんじゃ!」


 新しい衣装を見せるのが恥ずかしいのか、なかなか部屋から出ようとしないフィリスをクラティアが叩いたのか蹴ったのか、やっとの事で姿を見せた。


 髪の色よりは濃い赤と、ルーキスのコートと似た鈍く光る金色の装飾が施されたコートに、白いシャツと白いキュロットスカートを合わせ。

 脛までの赤と白のブーツを履いたフィリス。


 その姿にルーキスは目を奪われていた。


「似合ってるよフィリス。綺麗だし、カッコいいな」


「そ、そう? な、なら良かったわ。ありがとう、嬉しい」


「イチャつくのは後じゃ、イロハのも見てやれい」

 

 フィリスに近付き手を取りながら言ったルーキスに、褒められたフィリスは顔を赤くして俯いた。

 そんな二人の間に声を割り込ませ、クラティアが二人を自分の方に振り向かせた。


 そこにはガントレットの使用を前提に考えられて作られた、ムサシの国の意匠が取り入れられた黒と紫で彩られたノースリーブのミニスカートドレスを着用して、大腿部までの丈のレギンスを履き、足首までのブーツを履いたイロハがもじもじと、手遊びして立っていた。


「先生天才か?」


「ね。可愛いよねイロハちゃん」


「素材が良いのでな。張り切ってしもうたわい。もっとフリフリとかレースも増し増しにしたかったんじゃが。流石に戦闘の邪魔になるんでな。我慢したわい」


 恥ずかしそうにしているイロハの横で、腰に手を当てこれでもかと言わんばかりに胸を張る幼女の姿をした吸血鬼。


 そんなクラティアの横からイロハはルーキスとフィリスに駆け寄ると、恥ずかしそうに顔を俯かせて二人に抱きついたのだった。

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