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転生したベテラン冒険者はセカンドライフを謳歌する  作者: リズ
第一章 転生と出会い、そして始まり
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第12話 眠る前に明日の準備を

 フィリスに向かって「おやすみ」などと言いながら、ルーキスはベッドに向かわず椅子から立ち上がると、バックパックを取りに向かった。


 上に置いていた外套をベッドの上に置き、ルーキスはバックパックから小さな壺を一瓶と小さな布の袋を取り出してテーブルに戻る。


 その様子をシルキーがルーキスの周囲を漂いながら眺めていた。


「気になるかい? ちょっと明日の準備をしてるだけだよ」


 不思議そうに首を傾げているシルキーに笑い掛けながら、ルーキスは拳より一回り大きいくらいの丸い壺をテーブルに置くと、指先に魔力を集中させ、その壺を五芒星で囲むような魔法陣を描いていく。


 壁際に掛けられた発光する魔石が入ったランプに照らされて、丸い壺の影が魔法陣に落ちた。


 魔法陣を描き終わったルーキスは椅子に座り、今度は布の袋を開くと、中から道中摘んだ薬草を詰め込み、壺の上に手を翳して魔法陣に魔力を注ぐ。


 途端に魔法陣は青白く輝きだし、青い火がポッと吹き出し小さく揺れた。


 次にルーキスは水魔法にて壺の上に水球を発生させると、一滴ずつゆっくりと壺の中に水を垂らし始める。


「見るのは初めてかい? これは錬金術だ。帰り掛けに冒険者ギルドで回復薬納品の常駐依頼を見つけてね。丁度薬草を摘んでいたから作っておこうと思ってね。普通に煎じるよりは良い回復薬が出来上がるんだ。出来れば薬草を主食にしているグラススライムの体液が欲しかったが、まあ無いものは仕方ないから今回はこれで済ませるがね」


 ルーキスの言葉を理解しているのか、話を聞いていたシルキーはルーキスの言葉に何度か頷くと、テーブルに刻まれた魔法陣から吹き出す小さな火に触れようと手を伸ばした。


「面白いだろ? それは別に燃えているわけではないんだ。熱は出ているが、それは全て壺に集約されているからな。だから壺には触ってはいけないよ? 酷い火傷をしてしまうからな」


 幼い我が子に言うように、優しく微笑みながら話しかけるルーキス。

 そんなルーキスの言葉を聞いて、シルキーはテーブルから手を離すと、ルーキスの背に回り込み、ルーキスの肩に自分の顎を乗せて少しずつ煙を出し始めた壺を眺める。

 側から見れば、ルーキスがシルキーを背負っているように見えただろう。


「そろそろかな」

 

 ルーキスがそう言った矢先、壺の中が仄かに薄緑色に輝きポンッと気の抜けそうな音が響き、輪っか状の煙が一つ噴き出した。


 その光景に、シルキーは声は出さなかったが楽しそうに笑っていた。


「良し、仕上げだ」


 熱くなっているのか、赤茶けた色から深い青色に変化していた壺に、ルーキスは火魔法の出力を反転させて氷魔法を発動し壺の温度を急激に下げていく。

 すると、徐々に青く艶すら出ていた壺が取り出した時のような赤茶けたザラザラした手触りの壺に姿を変えていく。


「どれどれ」


 壺の中から出ていた煙が消えるのを待って、ルーキスは壺を傾けると中から仄かに輝く緑色の液体を手に数滴垂らし、それを舐め取った。


「うーん不味い。蜂蜜があればマシになるんだが、まあそれも今回は無しだな」


 そう言うと、ルーキスは薬草を入れていた袋を壺に被せ、袋から口紐を外して壺の口で縛ってとめた。


「せっかくこうして出会ったんだ。何か供えたいところだが、あいにく菓子も果汁水も持ってなくてな。代わりと言ってはなんだが、少し話そうか」


 回復薬の入った壺をテーブルの上に置いたまま、ルーキスは指を鳴らした。

 それに呼応し、テーブルの上に刻まれていた魔法陣が煙のように消えていく。


 そしてルーキスはシルキーに子供のころの話や前世で体験したことを物語を読み聞かせるように話し始めた。


 そうしてしばらく話しているうちに、ルーキスを睡魔が襲う。

 その睡魔に唆され、ルーキスは大きな欠伸を一つ吐いた。


「さて、そろそろ俺は寝るよ。君も睡眠はとるのだろう。どこで寝るかは、知らないがね」


 椅子から立ち上がり、ルーキスは壺を机に置いたままベッドへ向かうと外套をバックパックの上に戻し、シャツと靴を脱いで半袖のピッタリサイズのインナー姿でベッドに寝転んだ。

 

 しばらくして、枕に頭を深く沈めルーキスは意識を手放す。

 その寝顔を、シルキーはどこか愛おしそうに眺めた。

 シルキーからすれば、自分の存在を認識し、自分を久しぶりに楽しませてくれた人間だったからだ。

 

 そのシルキーが、ルーキスに向かって手を組み合わせ、祈るように頭を下げるとパッと手を離し、光る粒子をルーキスに振り掛ける。


 その後、シルキーはルーキスが消し忘れた壁の魔石で光るランプを消して、ふわふわ漂いながらルーキスが眠るベッド側の壁をすり抜けて隣の部屋、フィリスの部屋に向かって行った。


 そしてシルキーは、既に眠りこけているフィリスのベッドに乗り、膝を抱えるように体を丸める。

 

 悪夢でも見ているのか、寝苦しいのか、苦虫を噛んでいるような表情を浮かべているフィリスの隣で、シルキーは目を閉じ、宿を営む家族や、客であるルーキスやフィリスと同じように眠りに落ちるのだった。

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