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第127話 森の洞窟

 唾液が付着してしまった顔と髪、手を洗い終わったフィリスは眉をひそめた難しい顔でルーキスと合流した。

 多少はマシになったものの、やはりどうにも吹き飛ばした大蛇の唾液の臭いが気になって、ルーキスに臭いと言われるのを嫌ったのだ。


「お、お待たせ」


「大変な目にあったな。どうする? 今日のところは一旦撤退するか?」


「帰りたいのは山々なんだけど。でもこんなことくらいで帰ってたら探索進まないし」


「前も言ったけど、急ぎの依頼を受けてるわけじゃないんだ。それに、探索に限った事じゃないがモチベーションってのは大事だからな。精神的に参って体調を崩すなんて話はごまんと聞くし、俺は一度撤退しても良いと思うぜ?」


「ごめんなさい。私のせいで」


 ルーキスの言葉に申し訳なくなり、俯いてしまったフィリス。

 そんな彼女に近寄ると、ルーキスはフィリスの手を取った。

 

「フィリスのせいなもんかよ。アレは不可抗力だ。気にするな。それに、久しぶりにお爺さんに会えるかも知れないってのに、嫌な気分で会いたくはないだろ」


「まあ。うん。確かに」


「じゃあ決まりだ。一旦帰ろう。そうだ、せっかく穴ボコ作ったし、ここに結界魔法を張って魔力を辿ることが出来るようにするか」


 そう言って、ルーキスはまだ俯いているフィリスの額に口付けすると、フィリスと手を繋いだまま、片手だけをクレーターの中心に向かってかざした。


 そして、ルーキスはクレーターの中心に立方体の小さな結界を作り出すと「よし。そんじゃ帰るか」と、言いながらフィリスの肩に手を回した。


「ちょ、ちょっとルーキス。私、今」


「関係ねえよ。別にフィリスが臭いわけじゃねえんだし」


「でも」


「でもは無し。さあて、帰ったら風呂借りて飯食って寝るぞ? 明日こそ泉を見つけような」


 こうして、ルーキスたちは再び森から撤退。

 駐屯地に帰還すると早々と風呂を沸かしてもらい、ルーキスたちはその日の汚れを落とすと疲れも癒し、部屋に戻ってガレアから支給された食事を終えると早々に就寝することにした。


 その夜、フィリスはルーキスの腕に抱きついて眠っていた。

 安らかな寝顔だった。完全に安心しきっている緩んだ寝顔に、ルーキスは微笑み、そして自身も目を閉じる。

 目を覚ましたのは早朝。

 まだ朝日が地平線から顔を出し始めたばかりの頃だった。


「腕が痛え」


「え? 大丈夫? 怪我でもした?」


「昨晩の事を覚えてらっしゃらないかねフィリスさんや」


「え、私? 何かしちゃった?」


「お姉ちゃん、ずっとお兄ちゃんにしがみついてたのです」


「うえ⁉︎ 本当に? ごめん、全然覚えてないや」


 やはり気疲れしていたのか、昨晩いち早く眠ったフィリスはどうやら本当にルーキスにしがみついていたことを覚えていないらしい様子で顔を赤くしていた。


「今日も余計な荷物は置いていくけど、大丈夫か?」


「ルーキスの消臭剤が欲しいんだけど」


「すまんな。作り置きは無い」


「ぐぬぬ」


 フィリスの要望に応えたいのは山々だが、無い袖は振れないのでルーキスは肩をすくめながら答えると装備を整え始めた。

 それを見て「仕方ないかあ」と肩を落としながらフィリスも装備を整えていく。


「今日は蛇さんに会わないといいですねえ」


「いえ。次会ったら、こっちから仕掛けてやるわ」


 普通ならトラウマにでもなりそうなものだが、フィリスはどうやら逆らしい。

 その瞳には目の色と同じ赤色の炎でも宿っているようにギラギラと輝いていた。


 このあとルーキスたちは駐屯地を再出発。

 薔薇の森に踏み入ると先日ルーキスが残した結界の魔力を辿って、暗い森を歩いていく。


 先日の爆炎魔法の影響かなんなのか、しばらく歩いているが、随分と魔物に遭遇する頻度が少ない。


 結局ルーキスたちは一度、薔薇に擬態した魔物、ローズイーターに遭遇しただけで、昨日クレーターを作った場所に辿り着いた。


「音と衝撃波で逃げたか? 魔物が少ないな」


「蛇もいないわね」


「恋しいか?」


「殺したいくらいには」


「おお。怖い怖い。俺は?」


「普通に好き」


「二人とも、そういうのは帰ってからにするのです」


 冗談なのか本気なのか、若干不機嫌そうなフィリスと、それを茶化すルーキス。

 そんな二人をイロハは困ったように眺めてため息を吐いた。


 そこからルーキスたちは川の方へと移動して、当初の予定していた通り、上流を目指して歩いていく。


 そして、ついにルーキスたちは泉へと辿り着いた。

 辿り着いたのは辿り着いたのだが、どうにもただの泉のようで、何か特別な力や奇跡などの神秘は感じられない。


「お爺ちゃん出てきてー」


「魔力を込めるとか、泉に入ってみるとか。何かあるんでしょうか」


「本には願えば会えるって記述しかなかったがなあ。調査の跡とか、それっぽい痕跡もないしハズレか?」


 と、ボヤきながら泉の周りを歩いていると、ルーキスはその泉に流れ込んでいる小さな流れを見つけた。

 どうやらまだ上流に川が続いているようだ。

 

「行ってみないわけにもいかんわな」


 こうしてルーキスは二人を連れて、流れを遡り始めた。

 緩やかな傾斜を登り、薔薇を斬り払って道を作っていく。

 そんな時だった。

 ルーキスはおよそ薔薇の森に似つかわしくない革で出来たポーチの残骸を見つける。


「中身は無しか。でもこれで道はあってる可能性が出てきたな」


 そう言ってまたしばらく薔薇の茎を斬り払いながら傾斜を登っていったルーキスたちの前に川の源流に続いているのだろう。

 ポッカリと口を開けた洞窟が姿を現した。


「この先が死の泉、なのかしら」


「変に魔力が吸い込まれていってる。ないとは言えんな」


「なんだか不気味なのです」


 洞窟は先が見えないほどに真っ暗で、風の音なのか、悲鳴のようなものが時折響いている。

 足元は濡れていて、油断していると転倒してしまいそうだ。


 そんな暗い森の中に現れた暗い闇が続く洞窟に、ルーキスたちは足を踏み入れたのだった。

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