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第125話 死者の泉を探して

 探索一日目を撤退という形で終了した翌朝。

 ルーキスたちは武装を装備し、その日食べる携帯食だけを持って再び森へと向かった。

 バックパックは鬱蒼とした森では邪魔になると判断してのことだった。


「さあ。今日は泉を見つけられるかな?」


「もし、見つけられなかったら」


「その時は、天に名が轟くほどの冒険者でも目指すかい?」


「ベルグリント様みたいに? 簡単に言ってくれちゃって」


 フィリスの言葉にルーキスは(俺はその名をあの世で聞く前に転生しちまったなあと)思いながら苦笑して森の手前で武器を手にして一歩踏み出した。


 その後ろからそれぞれ武器を手にしたフィリスとイロハも追従する。


 昨日と同じく、出来るだけ歩きやすいルートを選んで、森を奥へ奥へと向かっていくルーキスたち。

 すると、密集して薔薇に擬態している蝶が、近くを通ったルーキスたちに驚いて人の顔二つほどもある羽を羽ばたかせて飛び立った。


 淡く光る赤い羽から散る鱗粉。

 微かに差し込んだ陽光をその鱗粉が反射して、金粉を散らしたようにキラキラ光る。


「綺麗」


「ああ。魔物がいなきゃ、ゆっくり見てたいな」


 光る鱗粉に見惚れるフィリスの前で、ルーキスが呟きながらハルバードを構えた。

 飛び立っていった蝶を、薔薇の茎の影から現れた赤い体色の蟷螂かまきり型の魔物が四本ある鎌のうち二本にて捕獲。

 ルーキスたちの前方でムシャムシャと食事を始めたのだ。


「どうする?」


「こっちには気が付いてるみたいだし。狩るか。気を付けろよ? 蟷螂型はどの魔物も強力だからな」


「分かったわ」


「行くのです」

 

 蝶を貪り食べる蟷螂は優にルーキスの体の倍ほどは巨体であるが。

 ルーキスたちは臆することなく突撃していく。

 森の中、狭い場所での戦いだ。

 一見魔物より小さな存在であるルーキスたちの方が有利に思えるが、そんな森に棲む魔物が自分たちの棲家に適応していないわけもない。


 蟷螂型の魔物、フォレストマンティスはその鎌にてルーキスたちを迎え撃った。

 自然界に存在する昆虫の蟷螂は鎌を鎌としては使用しない。

 アレはあくまで捕獲用だ。

 しかし、フォレストマンティスは魔物。

 自慢の鎌を己の武器と理解して使用する。


 その一撃は巨木のような薔薇の茎は易々と裂き、振り下ろした鎌は地面を割る。


 しかし、鎌での攻撃を主体とするとはいえ、人のように虚を付いたり思考の読み合いをするわけではない。

 間合いに入った獲物に攻撃をするだけだ。


 とはいえ、並の冒険者ならそれでイチコロなわけだが。

 ルーキスたちが並かというとそれは間違いなく否なわけで。


「近くに街があれば、鎌とか良い素材として売れるんだがなあ」


 ルーキスたちは難なくフォレストマンティスを撃破。

 フォレストマンティスの胸辺りを裂いて露出した体内の魔石を砕き、崩れていく死骸を見届けると再び森の奥を目指した。


「あの魔石、換金したら石貨何枚になるんだがなあ」

 

「まあまあそう言わずに。別に今困ってないんだし」


「それはそうだけどなあ。結婚するとなると色々必要だろ家も買わにゃならんし」


「ちょっと! 急になに言ってんのよ!」


「急か?」


「急よ!」


「急かなあ?」


 魔物が出現する森だということもお構いなしで、声を上げるフィリスの顔はルーキスの言葉で真っ赤に染まった。

 そんな二人の様子を後ろから見ていたイロハは苦笑している。


 運良く昨日現れた巨大な蛇には遭遇せずに森を進んでいると、ルーキスたちは小さな川に行き当たった。

 

 水辺に潜む魔物もいるが、その川の幅は軽く駆ければ一般人でも飛び越えられそうなほどで、深さを測るためにルーキスが魔法で作り出した岩の槍も人の足首ほどの深さで川底に刺さった。

 

 潜って隠れるには浅いため、とりあえずは安心と見てルーキスたちはその川のすぐ側まで歩き、地面に腰を下ろした。


「川かあ、泉に向かう川なのか、泉から伸びてる川なのかで向かう先が決まるなあ」  


「死者の泉に繋がってないってこともあるわよね」


「あるなあ。ううむ、どうするか」


「川の流れに逆らって、上流を目指さない?」


「まあ構わないけど。理由は?」


「女の勘よ」


「良し乗った。腹ごしらえしたら上流を目指そう」


 そう言って、ルーキスは腰に装着していたポーチからベーコンを取り出すと口に頬張る。

 それを見て、フィリスとイロハも自分の腰から持参した携帯食のベーコンを口に放り込んだ。


 そして、川の水は飲まず、魔法で作り出した水をルーキスたちは口にすると、立ち上がって川の上流目指して歩き始めた。


「本当にこっちで良かったの? 私本当に勘で言ったんだけど」


「君の勘は昔からよく当たるからな」


「え? そう? こんな事、以前あったかしら」


「ああ。あったよ」


 ルーキスが思い出していたのは前世の記憶だった。

 それ故にフィリスにそんな記憶は無い。

 無いはずなのだが、何故かフィリスはこの時、遥か昔にルーキスと似たような会話をした気がして「そうだった、よね?」と首を傾げた。


 しばらく歩いて上流を目指していたルーキスたち。

 そんな三人の耳に微かにだが何かを引き摺るような音が聞こえてきた。

 

 その音が昨日遭遇した蛇のものだと直感したルーキスは、フィリスとイロハの手を引き川岸に生えている薔薇の茎の影に身を隠す。


 すると、先程までルーキスたちが進んでいた進路上を巨大な蛇が通過していくのが物陰から様子を見ていたルーキスの目に映った。


「行ったか」


 通り過ぎていった蛇を見送り、茎の影から出ようとしてフィリスとイロハのほうに振り返るルーキス。

 

 その時だった。

 頭上からフィリスに向かって何やら粘性の高い液体が降り注いだ。

 何やら生臭いその液体を被ってしまい、フィリスは声を上げそうになるが、先程の蛇に聞こえてしまってはいけないと我慢して、その液体の正体を確かめるため、ルーキス共々上を向く。


「げ!」


「お前らセットかよ⁉︎」


「蛇さんなのです!」


 思わず声を上げるルーキスたち。

 見上げた先にいたのは通過していった蛇とは別の蛇で、それが茎に巻き付き、ルーキスたちを見て涎を垂らしていたのだ。

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