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第122話 中身爺さんの冒険者 VS 騎士の爺さん

 ライラに勝利して微笑みながら戻ってきたフィリスに、ルーキスは手を上げた。

 その手にタッチし、ルーキスはイロハをフィリスに預け、羽織っていた外套を脱ぎ、ハルバードを肩に担いで一歩前に出る。


「さて。これで三戦目だ、相手はもちろん貴方ですよね?」


「もちろん私だ。君たちが尋常じゃないというのは良く分かった。かの吸血鬼の弟子だと言われても、今なら深く納得出来る」


 ルーキスの立つ対面に、ガレアが大盾と幅広のショートソード片手に部下たちの前に出て言った。


 ショートソードと言ってもガレアの体格からしてみればであって、部下の騎士が持てばロングソードよりはやや小さいくらいの特注の剣だ。


「久々に疼いているよ。歳をとってもまだ高揚する。どうやら私はまだまだ戦い足りんらしい」


「闘争心があるうちは生涯現役。おおいに結構だと思いますよ」


 二人はフィリスやイロハと違い、中央に行かず、間を開けて円形に並んでいる騎士たちの前を円をなぞるように歩き始めた。

 

 ゆっくりと、散歩でもするかのように。

 お互いの目を見て、それでも近付こうとはしない。

 最初は軽口をたたいていたルーキスとガレアだったが、今は黙して歩いている。


 ルーキスとガレアは合図を待っているわけではない。

 いつ攻めに行くかとお互いタイミングを見計らっているのだ。

 しかし、ルーキスもガレアも熟練の戦士である。

 無闇に突っ込めばどういう反撃を喰らうかを想像して、その反撃に対してどう対応するかを思考していた。


 お互いの攻撃の読み合い。


 久々に戦う経験豊富な戦士との手合わせに、自然とルーキスの口元に笑顔が浮かぶ。

 ガレアも同じように口元に笑みを浮かべているが、その頬には冷や汗が滲んでいた。


(一体なんだというのだこの少年は。隙がない、なんてものではないな。どう攻めても反撃される未来しか見えん)


(騎士たちを束ねてるだけはあるなあ。こっちの攻撃を確実に防いで反撃してくる凄みがある。良いねえこのヒリつく感じ。魔法で蹂躙するのは勿体無い)


 何度か脳内で戦いを模倣して、騎士たちの前を弧を描くように黙って歩き続ける二人。


 そんな二人の様子に騎士たちは「どうしたんだ二人とも」と疑問の声が上げるが、ライラやデリックは二人の静かな戦いを感じ取って緊張の面持ちだ。


 一方でフィリスとイロハは騎士たちの円から少し離れた位置からルーキスの勝利を信じて疑わず「多分ルーキスのことだから」「真っ直ぐ突っ込むのです」と苦笑しながら眺めている。


「まあ模倣は模倣。やっぱり一合打ち合ってみるに限るよなあ」


「来るか」


 それまでゆっくりと歩いていた両者だが、不意にルーキスがハルバードの頂端をガレアに向けて、腰を落とした。

 明らかに突撃してくる姿勢に、ガレアは左手に装備している大盾の持ち手に力を込める。


 その瞬間だった。

 ルーキスがガレアの予想通り一直線に駆けた。

 風か稲妻か、離れていた両者の位置が、まばたき一つの間に接近する。


「冗談ではないぞ!」

 

「さあ。打ち合おうぜ」


 猛烈な速度で突撃したルーキスがハルバードでガレアを突こうとした。

 フェイント無し、見え見えの一撃をガレアは自慢の大盾で防ぐ。

 鉄板をぶつけ合ったような金属音が、周囲の騎士たちの耳を打った。


(この細身のどこにこんな力があるのだ。これでは猪型の魔物が可愛く見えるぞ)


(この一発で少し後退したくらいか。良いね。鍛えられた体とそれに見合った一級の武具。レヴァンタールは良い騎士を育てている)


 戦慄するガレアと楽しくて笑みを浮かべるルーキス。

 そんな二人はお互いの脳内で模倣した戦いをなぞるように打ち合いを始めた。

 真正面からガレアの防御を打ち破るため、ルーキスは小枝を振り回すようにハルバードを振り回す。


 その苛烈な攻撃の隙をつき、ガレアもその重厚な盾を突き出し、剣を振って反撃するが、ガレアの予想より、ルーキスの攻撃は数段速く、そして重かった。


「(吸血鬼の弟子。いや、ルーキス・オルトゥス、貴君はいったいなんなのだこの)化け物め」


「いやいや、お互い様でしょう。攻めきれないんですから」


 ルーキスの一撃に対し、ガレアが渾身のシールドバッシュでルーキスを後退させた。

 というよりは、ルーキスが跳んだ。

 まともに受けると体勢を崩される。

 それを嫌がったのだ。


「よく言う。本気では無いのだろう?」


「それもお互い様です。ガレア殿もまだまだ本気でないとお見受けするが」


「寄る年波には勝てんというやつだ。だがまあ、まだ若いもんには、負けん!」


 ガレアが身体強化魔法を発動した。

 地面に足がめり込むほどの踏み込みから、ガレアはルーキスへ向かって盾を構えたまま突撃する。


「(普通ならこういう手合いは避けて魔力切れまで待つのが定石なんだが。それは雑魚の発想だ)男なら、正面突破が華だよなあ!」


 ガレアの突撃に合わせ、ルーキスも身体強化を発動した。

 ハルバードの頂端を照準のようにガレアに合わせ、ルーキスは初撃でそうしたように腰を落として突撃体勢をとり、そして一歩、踏み込んだ。


 ルーキスが蹴った地面が抉れ、抉れた地面が瓦礫と化して円を作る騎士たちに飛散する。

 

 その瓦礫を避けるために円を広げた騎士たちはちょうどフィリスとイロハが立っている場所まで後退した。


 そこに初撃よりも激しい重厚な鉄板同士がぶつかるような音が響いてきた。

 ルーキスのハルバードと、ガレアの大盾が再度激しくぶつかったのだ。


 衝突の衝撃で発生した土煙が二人を覆う。


 しばらくして二人を隠した土煙が晴れたその場所にはルーキスがハルバードを担いで佇み、ルーキスの前方で仰向けに倒れた状態から片膝を地面につき、盾を杖代わりにヨロヨロと立ち上がろうとしているガレアの姿があった。


「私の、負けだな」


「五年早く、貴方と立ち会ってみたかった」


「はっはっは! それだと貴君は更に幼いことになるぞ」


「ああ〜。確かに」


 ガレアに言われ、今の自分の年齢を思い出してルーキスは苦笑すると、立ちあがろうとしているガレアに近付いて手を伸ばした。

 その手を取り、ガレアはゆっくり立ち上がる。


 こうして、ルーキスたちの全勝で手合わせは終了。


 鍛練場の修繕を他の騎士たちに命じたライラを先頭に、デリックの肩を借りてヨロヨロ歩くガレアの案内で、ルーキスたちは兵舎に用意してもらった部屋へと向かうのだった。

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