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第121話 手合わせ二戦目

「手痛くやられたな」


「直撃していたらと思うと、ゾッとしますね」


 イロハとの手合わせを終え、医療班に回復魔法を使用してもらっているデリックのもとに、団長のガレアがやって来て言った。


 叱るでなく、優しく微笑みながら言うガレアに、デリックは苦笑で返すと、視線をルーキスに抱き上げられているイロハに向ける。


「油断、していたわけではなかったんですが」


「分かっている。あの初撃を見て油断できる奴なんぞおらんよ。まあ、予想以上の実力ではあったがな」


 そう言って、ガレアは座り込んでいるデリックの頭をガシガシ撫でると「さて二戦目だ! 誰が相手をする⁉︎」と、輪になっている団員たちに言い放った。


 普通なら、というよりは並の兵士や冒険者ならイロハの実力を目にして戦意が喪失しそうなものだが、ガレアの部下たちは手に持つ盾と剣を打ち鳴らし「次は私が」「いや俺が」と次々と名乗り出てきた。


 しかしそこに横槍、というよりも、ルーキスたちの部屋を手配するように言われていたライラが姿を現したことで、鍛練場に静寂が戻る。


「団長。客人の部屋の確保完了しました。現在清掃班に頼んで清掃中です」


「そうか。手間を掛けたな、助かる」


「いえ、仕事ですので。しかし、これはなんの騒ぎなのです?」


「いやなに。少し手合わせをな、一戦目はあの鬼人族のお嬢ちゃんとデリックだったんだが、デリックが負けてな」


「冗談、ではないみたいですね」


 座り込んで脇腹を抑えているデリックを見ながら、ライラは呟くとルーキスたちの方を見た。


 二戦目は赤い髪のショートソードとバックラーを装置した少女、フィリスが出るようだ。


 フィリスはルーキスに抱かれているイロハに笑い掛けると一直線に騎士たちが作る円の真ん中まで歩いてきた。

 臆する事なく、堂々と。


「良い顔ですね。まだ若いというのに」


「お前もまだ若い方だろうライラ。まだ相手は決まって無いが、やってみるかね?」


「デリックを負かした冒険者パーティの一人となれば」


「ふむ。では二番手は決まりだな。構わん全力でいきなさい」


「はっ。了解致しました」


 こうして流れで騎士団側の二番手はライラに決まったが、他の立候補していた騎士団たちはそれに文句を言わず「おおライラか」と、むしろどこか納得している様子だ。


「誰か、バスターソードを貸してやれ」


「ライラ様、こちらを」


「ありがとう。すまない」


 報告にきたライラが剣を持っていなかったわけではない。

 腰には確かにショートソードが携えられているが、それはあくまで勤務中に携帯する基本装備。

 彼女、ライラの得意とするのは自身よりも大きく幅広な大剣での戦闘なのだ。


 ライラは右肩の鎧を外すと同じ隊の大剣使いの後輩から大剣を受け取り、手に馴染ませるように大剣を振り回しながらフィリスの待つ円の中央へと向かっていく。


「団長の部屋でも名乗りましたが、改めて。騎士ライラ・エレクティアです、よろしくお願いします」


「冒険者、フィリス・クレールよ。よろしく、ライラさん」


 大剣を軽々振るライラに怖じける様子もなく、フィリスは真っ直ぐライラの目を見て言うと、バックラーを構える。

 その時「始め!」とガレアの掛け声が上がる。


 バックラーを構えたフィリスがそのまま駆け出した。

 まずは様子見、という考えはフィリスには無い。

 フィリスは剣に炎を纏わせた。

 斬りかかるつもりで、駆けたフィリス。


 そんなフィリスに向かって、ライラは大剣を振り上げた。


「魔法も使うのか、だが」


 カウンター狙い、というわけではない。

 ライラの大剣とフィリスのショートソードでは圧倒的に射程が違う。

 ライラはフィリスが自分の距離に入った途端にその重厚な大剣を振り下ろした。

 

 刃引きしていようが鉄の塊。

 ショートソードとは違って直撃すれば間違いなく死ぬ。

 そんな大剣による一撃を、フィリスは避けようともしなかった。

 バックラーを構えて正面から受けたのだ。

 振り下ろされた大剣とぶつかり金属同士が激しい音を鳴らす。

 銅鑼か鐘かというほどの音に次ぎ、二人のいた場所の地面が大きくひび割れ、土煙があがる。


 その様子を見ていた他の騎士たちは「おい流石にまずくないか?」「死んだろアレ」と騒ぎ出すが、そんな騎士たちの予想に反して、フィリスは無傷で晴れた土煙の中から現れた。


 小さなバックラーを構えていたはずの左手に分厚い氷で盾を形成したフィリスは、身体強化の魔法を発動してライラの大剣を弾く。


 体勢を崩すのを嫌がって、後ろに跳んだライラはこの時、誰よりも驚いていた。


「火の魔法とその反転属性である氷の魔法を同時に使うのか。それも私の剣を防ぐ練度で。面白い」


「驚いてくれたかしら? 氷魔法はまだまだ練習中だけど、ね!」


 言いながら、フィリスは自身の前に顔ほどもある火球を作りだすと、それをショートソードでフルスイングして打った。


 オーソドックスな火の魔法であるファイヤーボールやフレイムアローより高速で迫るその火球を、思わずライラは大剣の刀身を盾代わりにして防ぐ。


 その直後、ライラの側面にフィリスが駆け込んだ。

 

 右手に火の剣を、左手のバックラーを基点に氷の刃を形成したフィリスは擬似的に二刀流を再現、そこにクラティア直伝の蹴り技も加えてライラに襲い掛かった。


 これにライラも自身が得意とする土の魔法にて地面から杭を出現させ、宙に石から形成した矢、ストーンアローなどを織り交ぜ、フィリスと相対する。


 しかし、攻撃速度、魔法の手数の多さ、フィリスの足癖の悪さに苦しめられ、次第にライラは追い詰められていく。


 最終的にフィリスが作り出した氷の壁に映った虚像に惑わされ、その虚像を攻撃して氷を割ったところで炎を消したフィリスの剣がライラの首に突き付けられたので、ガレアが終了を宣言。


 二戦目もイロハに続いてフィリスが勝利を収めたのだった。

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