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第118話 駐屯地にて

 しばらく滞在した村から離れ、街を経由して、死者と対面出来るという伝説のある死者の泉が存在する薔薇の森に辿り着いたルーキスたち。


 ルーキスたちはその日の早朝、薔薇の森の手前にある王国騎士が駐留している駐屯地へと向かっていた。


 高く上った太陽からのポカポカ陽気を感じながら歩くルーキスたちに、涼やかな風の中に乗った薔薇の香りが漂ってくる。


「良い香り」


「離れた位置ならな。コレは森の中だと少しキツイかも知れん」


「確かに」


 どんなに魅惑的な香りのする香水も、過剰につければ鼻につく。悪臭になり下がるのだ。


 薔薇の香への対策も必要かも知れないなあと、そんな話をしながら駐屯地に近づいていくと石造りの立派な門の内側から全身に鎧を纏った騎士や、胸当てや腰当て、手甲脚甲だけの比較的軽装な騎士が数名現れ、ルーキスたちの前に立ち塞がった。


「これより先はレヴァンタール王が禁域に指定した地。何用でこのような僻地に参られたのかな若者たちよ」


 現れた騎士のうち、右眼から左頬に掛けて大きな傷のある大盾を持っている全身鎧を装備した白髪で初老の男性が一歩前に出て口を開いた。


 その騎士に、ルーキスは拳を胸の前で握り一礼、レヴァンタール王国式の敬礼をする。

 

「私たちは旅の冒険者、死者の泉に向かいたく、こちらを訪れました」


 ルーキスの敬礼と言葉遣いに気難しそうな老騎士は「ほう」と感心したような声を出すが、ルーキスから出た死者の泉という言葉に眉をひそめた。


「死者の泉の事は王国の機密のはずだが、どこでその情報を聞いたのかな?」


「我らの師であるカサルティリオ王国の女王、クラティア・クリスタロス陛下より。レヴァンタール王の許諾も得ております」


 言いながら、ルーキスは駐屯地にたどり着く直前に懐に忍ばせていた許可証と王家の徽章が刻まれたブローチを取り出すために着ている外套の内ポケットに手を突っ込んだ。


 その行動に警戒した騎士達がそれぞれ腰の剣の柄に手を掛けるが、それを全身鎧の老騎士が片手を上げて制止する。


「こちら、許可証と、許可証と一緒に預かったブローチです」


「ふむ。拝見しよう」


 年若い少年の割には終始丁寧な言葉遣いをするルーキスに、老騎士も礼を尽くして丁重に差し出された許可証とブローチと許可証を受け取った。


「鑑定させてもらっても構わないかね?」


「もちろんです」


 疑いの発言にも関わらず快諾したルーキスに、厳つい顔に似合わず優しい微笑みを向けると老騎士は振り返り後ろに並ぶ騎士の一人に「確認して来てくれ。終わったら私の部屋に」と言って二つを渡す。


「鑑定が終わるまで中を案内しよう。ついてきなさい」


「ガレア様、よろしいのですか?」


「構わん」


 後ろに並ぶ騎士からガレアと呼ばれた老人と呼ぶにはルーキスより頭一つ分は背が高く、体格が良い老騎士は、そう言うとルーキスたちに背を向けた。


「ちょっとルーキス、どうするの?」


「せっかくのご招待だ。もちろん受けるさ」


 耳打ちしてきたフィリスにそう言うと、ルーキスは歩き出した老騎士の後ろを歩き始めた。

 その更に後ろをフィリスとイロハが並んで歩いていく。


 老騎士ガレアはルーキスに気を許しているようだったが、他の騎士たちはそうでもないらしい。

 ルーキスたちは騎士たちにまるで連行されるように囲まれて駐屯地の門をくぐった。


 石壁に囲まれた内側。

 ギルド顔負けの立派な石造りの兵舎に向かい、その前に広がる野外鍛練場を通過して、ルーキスたちは屋内へと向かうが、流石にぞろぞろと引き連れて行くのはガレアが嫌がって「ここからはもう一人同行するだけでよい。あとは持ち場に戻れ」と兵舎の前で振り返ると言い放った。


「では私が」


 そう言ったのはルーキスたちを囲む騎士の中で唯一の女性の騎士だった。

 

「うむ。では、騎士ライラに同行を許可する」


 ということで、ルーキスたちは先頭のガレアと最後尾に女性騎士ライラに挟まれる形で兵舎の中に入っていく。

 そして、しばらく歩いた先、辿り着いた一室の高級そうな木の扉をガレアは開いた。


「入りなさい」

 

「失礼します」


 ルーキスたちを先に部屋に入れると、ガレアがそれに続いて部屋に入る。

 室内は広く、真ん中には大きなテーブルとそれを挟むように椅子が並べられていて、壁際には本が並んだ棚が置かれている。


 そして窓際には執務用であろう机が置かれている。


「改めて名乗ろう。この駐屯地を預かっている、レヴァンタール王国第三騎士団団長、ガレア・ヴリスタインである。ようこそ冒険者」


「団長自ら案内とは、恐れ入ります。冒険者、ルーキス・オルトゥスです」


「私はフィリス・クレール」


「アマネイロハ、あ、いや。イロハ・アマネです」


 ルーキスたちの横を通り過ぎ、執務机の横に立つとガレアがルーキスたちに笑いかけた。

 そんなガレアにルーキスは敬礼し、フィリスとイロハがルーキスを真似して敬礼する。


「ライラ、君も挨拶をしておけ。もしかしたら、とんでもない人物たちかも知れんぞ?」


「団長はこの少年たちが本当にカサルティリオの女王、魔王の弟子だと思っていらっしゃるのですか?」


「それは直ぐにわかる。許可証とブローチが本物ならな。だがそれを踏まえなかったとしてもだ。死者の泉の事を知り、捕まる可能性すらあるのに平然と我らの駐屯地に足を踏み入れる度胸。騎士たちに囲まれて萎縮することない豪胆さは自らの実力への驕りか自信か。二つともこの若さで出来ることではない」


「確かに。ライラ・エレクティアですお見知りおきを」


 ガレアに説かれ、それに素直に従って、ルーキスたちの横に立つライラが兜を外し、ミディアムヘアーの金髪を整えると、三人に向かって敬礼をした。


「さて、ルーキス殿。貴君らはなぜ薔薇の森、死者の泉を求めるのかな?」


「完全な私用です。私の恋人、ここにいるフィリスの家族に会いたくてここまできました」


「恋人のために? 魔物が蔓延る山岳地帯や荒野を越えて?」


 ルーキスの言葉に疑問を口にしたのはライラだった。

 ガレアもライラと同じ気持ちか、ルーキスの言葉にいささか信じられないといった様子だ。

 

 そこで、ルーキスはフィリスと一緒に旅の理由を話すのだった。

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