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第117話 薔薇の森の駐屯地

 薔薇の森とダリルたちが住む村の間にある街で一夜を過ごし、一日のんびり休んで体力の回復に努めたり、買い物をしたルーキスたちは、その翌朝街を発った。


 地図を開いて方角を確認し、ルーキスたちは薔薇の森を目指して歩いていく。


 二日ほど掛けて丘陵地帯を抜け、森に入り、大木で出来た橋で川を渡って草原に辿り着いたルーキスたちを一面の花々が迎えた。


 爽やかに吹く風がルーキスたちを迎えるように吹き抜け、フィリスの赤い髪を揺らす。

 

「綺麗な場所」


 その光景を目に焼き付けるように眺め、優しく微笑むフィリスの横顔を見て笑みを浮かべると、ルーキスがバックパックを下ろした。


「ちょうど良い、ここで昼飯にしよう」


 花畑の近くの道端で敷物を広げ、色鮮やかな花々とその花の香りを楽しみ、その日の昼食を終えると、三人はしばらくその場に寝転んで、青い空を見上げていた。


「あとどれくらいで到着するの?」


「この先の山岳地帯の谷間を抜ければ目的地だ。もうすぐだよ。とはいえ谷間を抜けるのにあと一日は歩かにゃならんがね」


「私たちの旅ももうすぐ終わりね」


「なに言ってんだよ。お祖父さんの形見を見つけるまでは終わらないだろ」


「そうだけど。もしその形見を見つけられなかったらって思うとね。例えば、ダンジョンのトラップに引っ掛かって奈落の底に落ちてたり、大型の魔物に丸呑みにされちゃってることも考えられるじゃない?」


「フィリスのお祖父さんだもんなあ。トラップに引っ掛かって無いとは確かに言えんが」


 今まで攻略してきたダンジョンで、そこそこトラップに引っ掛かって危ない目に遭ってきているフィリスの事を考えると、笑い事では済まないかもなとルーキスは体を起こして苦笑いする。


「まあそれも会えれば分かるさ」


「もし会えなかったら?」


「その時はまた考えれば良いさ。あ、そうだ。もしお祖父さんに会えなかったとしても、お祖母さんには会えるんじゃないのか? お祖母さんが亡くなったのはお祖父さんより遅いんだから、会える可能性が高いのはお祖母さんの方だろ?」


 ルーキスの言葉に「確かに」と呟き体を起こして横に座ったフィリスがルーキスに寄りかかると何か不安でもあるのかため息をついた。


「でもお祖母ちゃん、私が冒険者になるの反対してたしなあ。会ったら怒られるかも」


「はっはっは。怒るかよ。孫が自分で決めて進んだ道だ。絶対怒らねえよ」


 前世で孫がそれぞれ自分の道を選んだ時の自身の心境を思い出しながら、ルーキスは空を見上げる。


 その孫の子孫から国の王にまでなった者までいる。

 未来を作っていくのは老人ではなく子供たちなのだから、人の道から外れていないなら、子供が選んだ未来に怒ったりする道理はないのだ。

 

「随分とはっきり言うのね」


「これでも人生経験は豊富でね」


「同い年のくせに?」


「同い年でもだ。さあ、そろそろ行こう。日が暮れる前に谷まで行くぞ?」


「了〜解」


 ルーキスの言葉で先に立ち上がるフィリス。

 その後に続いて立ち上がったルーキスに、フィリスが口付けをした。

 

「ありがとうルーキス。ちょっと元気でたわ」


「どういたしまして。君は、相変わらずだな」

 

 相変わらずという言葉はルーキスにとっては、前世の妻だった頃のフィリスに向けて言った言葉だった。

 

 フィリスの前世である妻シルヴィアも悩みを聞いた後は、お礼と称して不意に口付けをしてきて悪戯な笑みを浮かべていた事を思い出していたのだ。


「お兄ちゃんとお姉ちゃんだけズルいのです」


「ああ〜。じゃあイロハちゃんはギュッてしてあげる」


 言いながら、フィリスがイロハに向かって手を広げた。

 そんなフィリスにイロハがしがみつくように抱き付くと、フィリスはイロハを抱き上げて頬擦りをする。

 笑い合うフィリスとイロハ。

 ルーキスは仲の良い姉妹にも見える二人のそんな様子を眺めながら荷物を片付けていく。


 こうして穏やかに草原で昼の時間を過ごすと、三人は目的地を目指して再出発。

 この先の山岳地帯へと向かっていった。


 昼の休息をゆっくりしたため、山岳地帯に差し掛かったのは予定より少し遅れて日が暮れて一番星が輝いた頃。


 その日は山岳地帯に入る手前で野宿をする事になった。


「結界魔法は多重起動しておくか。山岳地帯の魔物たちは強力だからな」


「そうなの?」

 

「草原や丘陵地に比べると、山岳地帯は栄養が遥かに豊富だからな。魔力が溜まる場所もあるし、単純に生存競争も激しいしな」


「ドラゴンとかいたりする?」


「可能性が無いとは言えない」


「寝る前に怖い話するの止めない?」


「聞いてきたのは君なんだが」


 どこから落ちてきたのか草が生えた大きな岩の側を寝床とし、敷物をしいて夕食を食べ終えると、話をしながら毛布を広げてルーキスを真ん中にして寝そべった。


 しばらく星を眺めて話をしていたが、イロハが早々に眠り、気持ち良さげに寝息をたてるので、ルーキスもフィリスも睡魔に誘われることになり、そして、そのまま睡魔に抗うことなく、ルーキスとフィリスは毛布の中で手を繋いだまま目を閉じた。


 翌朝。

 目を覚ました三人は準備を済ませ、目的地目指して山岳地帯の谷を進んでいく。

 

 落石もある危険な道は魔物も出現したが、幸いドラゴンなどの強力な魔物に出会う事はなく。

 その日の夕刻には三人は山岳地帯を抜けることに成功した。


 そして。


「あれが薔薇の森」


「でっかい薔薇がいっぱいなのです」


 谷を抜けた先。

 荒涼とした平野の向こうにどう見ても大木の幹ほどもある薔薇が絡まり合うように広がっているのが遠巻きからでも確認できた。


「手前に光があります」


「あれが駐屯地だな。うーむ。今から向かうと夜が更けちまうか。今日は一旦休んで明日また明るいうちに向かうとしようか」

 

「そうね。今日はそこそこ戦って疲れたし。ゆっくり休みたいわ」


 というわけで。

 ルーキスたちは山岳地帯を抜けた平野でもう一泊。


 翌朝明るくなってから、まずは駐屯地へと向かうのだった。

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