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第115話 寒冷期を越えれば

 雪で足止めをくらいしばらく経つが、その間ルーキスたちが何もしていなかったのかと言えばそんな事はなく。


 この日は鍛練のために借家の前の雪を魔法で吹き飛ばしたルーキスが、あらわになった地面の真ん中にハルバードを担いで佇んでいた。


「なあ。本当に三対一でやるのか?」


「本当に三対一でやるんだよ」


「正直三人で掛かってもルーキスに勝てる気はしないのだけど」


 フル装備というわけではないが、愛用の剣を構えたフィリスが短剣二本を逆手に構えているダリルに言うと、イロハもガントレットを装着した拳を構えた。


「じゃあ、始めようか」


 冒険者としての仕事は出来ないが、体を鈍らせるわけにもいかないという理由と、ダリルの鍛えてほしいという願いを叶えるために、今日は普段やっている鍛練にダリルを呼んだルーキスたち。


 しばらくルーキスが付きっきりで魔法を教えていたため、フィリスやイロハほどではないが、魔法を使えるようになったダリルがフィリスの言葉に半信半疑で身体強化魔法を発動した。


「遅いぞ〜」

 

「ま、まだちょっと慣れないんだよ」


 フィリスやイロハに遅れ、ルーキスに斬り掛かるダリルの刃を摘んで受け止め、フィリスの剣をハルバードで、イロハの拳を前蹴りの要領で受け止めた。

 

 そしてルーキスは三人の足元にわざわざ魔法陣を展開するとその魔法陣から炎の柱を出現させた。


 大きな予備動作付きの魔法だ。

 フィリスやイロハはもちろん、ダリルも反応して後ろに跳んで距離をあける。


「化け物かよルーキス。どういう魔力量してるんだ?」


「私の彼は化け物より強いわよ?」


「次来ますよ?」


 初の実戦形式の鍛練でルーキスの実力を目の当たりにして冷や汗をダラダラと流すダリルに、フィリスとイロハはさも当たり前だと言わんばかりに答えたところにルーキスが三人の頭上に魔法陣を展開。


 魔力を圧縮した熱線を射出した。


「ほら止まるなよダリル。怪我するぞ?」


「いやー⁉︎ ちょっと待ってくれ! 数が多いんだよ!」


「そりゃあ鍛練だからな」


 走り回ってルーキスの魔法を避けるダリルと違い、フィリスとイロハは魔法を掻い潜ってルーキスに肉迫。

 接近戦に持ち込むが、二人が連携してもルーキスは一歩も退かずに二人の攻撃を防ぎ捌き、反撃する。


 こうした鍛練や、晴れた日の狩猟。

 魔法の勉強もしたりして、ルーキスたちは寒冷期の生活をそれはそれで楽しんでいた。


 この日はダリルも加わったこともあり、張り切ったルーキスは夕刻まで鍛練を続行。

 フィリスたちが休憩している間などはルーキスは自分の影を実体化させる魔法を使い、もう一人の自分を作成、自分と同じ動きを再現する影と延々戦っていた。


「ハルバードってあんな棒切れみたいに振れるっけ?」


「まあ、ルーキスだし」


「お兄ちゃんですから」


「思考停止してるな君ら」


 まるで自分の事のように胸を張って自慢げに言うフィリスとイロハに苦笑し、ダリルは冷や汗を浮かべながらルーキスとルーキスの影が戦っている様子を眺めている。


 しばらく戦い、得心いったか、ルーキスは戦闘を停止。

 汗を拭って一息ついた。


「ふいー。疲れたあ」


「お疲れ〜。なあルーキス。今日イロハちゃん連れて帰って良いか? ルルアが連れてきてくれってうるさくてさあ」


「寒冷期の雪のせいで外で遊びにくいから暇なんだろうな。どうするイロハ」


「遊びに、行きたいです」


「分かった。じゃあダリル、イロハを頼むな」


「任された。じゃあ今日はこの辺で解散といくか」


「そうだな。じゃあなダリル、イロハはいってらっしゃいだな」


「はい! 行ってきます」


 こうしてイロハをダリルに預け、ルーキスとフィリスは手を繋いで帰宅。


「ルーキス。ずっと一緒にいたいね」


「ああ。ずっと一緒にいたいな」


 こうしてルーキスとフィリスは、村に来てから何度目かの二人きりの夜を迎える事になった。


 この寒冷期を村で過ごすこと数ヶ月。

 いつしか寒冷期の刺すような寒さが和らぎ、積もった雪がルーキスの魔法ではなく太陽の熱で溶けるようになってきた頃。


 ルーキスたちはとうとう村を出発することにした。

 

「行くんだなルーキス」


「ああ。ここは住み心地が良すぎるからな」


「また来いよ。あの家は俺が、俺たちが綺麗にしとくからさ」


「ならお前が住めよ、彼女でも作ってな」


「出来るかなあ彼女」


「お前なら大丈夫だと思うがね」


 村の広場に集まった人々と挨拶を交わし、ルーキスは最後に友人であるダリルとは固い握手を交わした。

 イロハは今にも泣きそうなのを我慢して、声を上げて号泣しているルルアと抱きしめ合っている。


「また会おうねルルアちゃん」


「うん。絶対、絶対また会いに来てね」


 出発の日、村人全員に見送られ。

 ルーキスたちが初めてやってきた村の門とは反対に位置する門から村を出た。

 ルーキスたちは温暖期の訪れを知らせる花が咲き始めた道を歩き始めたのだ。


「ルーキス! またな!」


「ああ! 次会う時はまたしごいてやるからなダリル! 鍛練サボるなよ⁉︎」


「言ってろ! 次は一撃入れてやるよ!」


 遠ざかる人影から、ダリルの大きな声が響いてきた。

 そんな声に振り返り、ルーキスは拳を突き出し最後の別れの挨拶とすると再び進む方向に向き直ると、振り返ることなく歩き始めた。


 次の目的地は村から西にある大きな街。

 その遥か向こうに位置する薔薇の森だ。

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