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第114話 村での生活

 仮住まいを手に入れたルーキスたちは、しばらく冒険者稼業を休む事になった。

 金や名誉のために働くのではなく、ただ生きるために生活を送る。


 村人たちとの交流や食べるためだけに行う狩猟。

 ダンジョンに潜るわけでもなければ、目的地を目指して進むわけでもない。


 穏やかな日々を、ルーキスはフィリス、イロハと共に送っていた。

 

 しばらく寒冷期だというのに暖かい日が続いたある日のこと。


「お兄ちゃんお姉ちゃん。明日はルルアちゃんの家に泊まっても良いですか?」


 と、イロハが夕食の際に言ってきたので、ルーキスとフィリスは顔を見合わせると微笑んだ。


「ああ構わないよ。ルルアちゃんの家族に迷惑掛けないようにな?」


「まあそれはイロハちゃんに限っては大丈夫でしょ。イロハちゃん賢いし」


「確かにそりゃそうだ」


 というわけで翌日、ルーキスとフィリスはイロハを連れてダリルの家を訪れ、イロハを預けると、代わりにダリルとダリルの父に誘われて、村の狩人数人と共に、寒冷期越えのための備蓄を増やすために狩に向かうことになった。


「ルーキスがいれば狩猟成功間違いなしだからなあ」

 

「別に俺がいなくても狩れるだろうに」


「いやいや。お前がいる時といない時じゃあ成果が天と地ほども差があるぜ? なあ、俺に魔法教えてくれよ。探知魔法をさあ」


「ふむ」


 森に向かいながら隣を歩くダリルにそう言われ、ルーキスは魔力を目に集中させると目を凝らした。

 魔法を使える素養の有無、とくに現段階のダリルの魔力量を診ているのだ。

 

「魔力すっくな。ちゃんと鍛練してからだな」

  

「鍛練すれば魔法が使えるなら俺は頑張るぜ? ルーキスたちがいなくなっても、村を守れるようになりたいからな」


「なるほどな。狩で楽したいからだけが理由じゃないと。分かった、俺が鍛えてやるよ」


「頼む」


「じゃあ歩きながら俺の師匠直伝の魔法論から聞かせてやろう。まず基本、五大属性の話からな」


「その話長くなるか? 俺あんまり頭良くないからよお」


「安心しろ。短く簡潔に教えてやるよ。三日くらいでな」


「三日ぁ⁉︎」


「良い機会だ。しっかり勉強しなさい」


 ルーキスの言葉に驚嘆の声を上げるダリル。

 そんなダリルの頭をガシガシ撫でながら、ダリルの父は笑った。


 この後、ルーキスたちは獣と魔物を合わせて数頭、鳥類を数羽仕留めて村へ凱旋。

 

 そこからしばらくは村の広場でダリルに魔法の基礎を教え、夕刻、空にオレンジと宵闇が混ざり合う頃、ルーキスはダリルと別れ、フィリスと二人だけで仮住まいへと向かった。


「二人きりって久しぶりね」


「プエルタ以来になるもんな」


「ねえルーキス。あのね、あの、その」


「どうした? 随分としおらしいじゃないか」


「もう。茶化さないでよ。えっとね、今日はイロハちゃんいないし、一緒に寝ない?」


 フィリスに言われ、ルーキスは考える。

 仮住まいに用意してもらった手作りのベッドは大きめのサイズで、普段からイロハを真ん中に挟んで三人一緒に寝ているのが常日頃。

 

「改まらなくてもいいじゃないか。いつも一緒に寝てるんだし。遠慮するなよ、恋人だろ?」


「ええうん。まあ、そうね」


 ルーキスの隣を歩くフィリスの顔は赤い。

 夕暮れがそう見せるのだと思っていたが、どうやら違うようだ。

 ルーキスはなんとなくフィリスの思惑を察して、あえてすっとぼけた。


 そして二人は帰宅。

 いつものように、いや、イロハがいないのでいつも通りではない、いつもとは少し違う夜を過ごす事になった。


 食事をして、話をし、普段なら一緒に寝室に向かって三人一緒に眠るのだが、この夜はフィリスがルーキスに「先に寝てて」と言うので、ルーキスは「分かった先に寝る」と、理由も聞かずに寝室に向かった。


 そしてルーキスは寝室に置いている火の魔石で暖をとる魔石ストーブに魔力を送った。


「ふー。いかんな。らしくもない。緊張してるな」


 このあと起こるであろう未来を予想し、高鳴る鼓動を落ち着かせるため、ルーキスは深呼吸をして次いで精神鎮静化の魔法を使用する。


「若いねえ」


 下を向き自嘲気味に苦笑すると、いつもより暖まった一室でルーキスはシャツと下着だけになってベッドに寝転び毛布を被った。


 それからしばらくもしない内に、寝室の扉が静かに開く。

 

「ルーキス。起きてる?」

 

「ああ。起きてるよ」


「そっちに行くね」


 靴ではない素足が木の床を擦る音がベッドに近付き、ルーキスの寝ているベッドが軋む。

 フィリスが腰を下ろしたのだ。

 捲られる毛布、横向きに寝ていたルーキスの首筋にフィリスの唇が触れる。


 密着してきたフィリスの体に、下着以外の感触がルーキスには感じられない。


 ルーキスが予想した通り、彼女、フィリスは今晩一世一代の決心をしてルーキスの元にやって来たのだ。


「ルーキス。あのね」


「ここまでさせておいて、自分を大事にしろなんて御託は言わん。ただ一つだけ言わせてもらうが」


 フィリスの方に寝返りをうち、ルーキスはそっとフィリスの頭を抱き寄せる。

 

「後悔するなよ?」


「するわけないわ。だって貴方のこと、好きだもん」


 抱き合い、口付けをかわす二人。

 村を覆うほどの雪が降ったこの夜。

 ルーキスとフィリスはお互いを求め合い、一線を二人並んで悠々と越える。


 夜遅くまで燃え上がり、昼頃まで寝ていた二人。

 乱れたベッドシーツを直し、遅めの昼食を食べているとイロハが帰宅。


 笑顔で迎えてくれたルーキスとフィリスにイロハが抱き付いた。


「お帰りなさいイロハちゃん」


「楽しかったか?」


「はい、楽しかったです! 外見ましたか? 凄い雪ですよ?」


「本格的に寒冷期に突入だなあ」


 窓に映る雪が日の光を反射してキラキラと輝いて宝石を散りばめたようだ。


 白い宝石で飾り付けられた景色を見て、ルーキスとフィリスは微笑み、軽く口付けをする。


 そして、イロハを連れて三人でリビングにて魔石ストーブで暖をとり、イロハの話を肴に仲良く談笑するのだった。

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